振り返れば2007年、自身のランウエイショーで2時間遅れという大失態を犯し、かの有名なファッション・ジャーナリスト、スージー・メンケス(Suzy Menkes)から「できることなら、この手で彼を絞め殺してやりたい!」などの大バッシングを浴びて以降、マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)は10年に渡りショーをほぼオンタイム、時には予定より数分早く始めてしまうほど、ショーの開始時刻に関しては正確なデザイナーだった。
しかし彼は、2019年春夏コレクションでおよそ10年ぶりに90分遅れの大遅刻!
とはいえ07年には「僕だって数日間、全然寝てないんだ!」と逆ギレさえしていたが、10年の時を経てオトナになっていたようだ。彼はショーの当日、童話「不思議の国のアリス」に登場する白ウサギのイラストに自分の顔をはめ込んで、ショーの準備が予定通りに進まなかったことを明かし、謝罪した。「不思議の国のアリス」の白ウサギは、「大変だ、遅刻する」と言ってアリスの前を何度も通過するキャラクター。まさにマークは、「大変だ、遅刻する」状態だったのだ。
逆ギレした07年に比べ、インスタの投稿はとても丁寧で謝意に満ちたものだ。彼は「迷惑をかけたことについて、心からお詫びします。皆さんに当日、予定があったことはわかっています。そして怒っていることを知りました。この思いを読んで、事情を理解してくれたら嬉しいです」と書き始め、当初は予定通り進行していたが、ショー開始の数時間前に事態が急変、遅れることは早くからわかっていたことを明かした。
投稿はその後も長々続き、彼は限られた時間や資本の中で、常に前回以上のコレクションを見せることのプレッシャー、短いショーで人々の心を打たなければならないという使命感が重かったことを告白。そして最後は、「私たちは皆、もう少し繊細になり、それぞれが困難に直面した時、もう少し柔軟性を持つようにならなければ」と待たされた人々へのお詫びのようでありながら、自分自身への理解を求める文章のようでもあり、ファンに向けたメッセージでもあるような言葉で締めくくった。
バックステージでは、洋服の何着かが交通トラブルに巻き込まれたことが主因とウワサされていたようだ。肝心のコレクションは、彼がここ数年見続けてきたという夢を体現したかのよう。パステルカラーのフリルやラッフル、リボン、フェザーに包まれた、90分待っても見る価値のある秀作だった。