9月19~21日にフランス・パリで開催されたプルミエール・ヴィジョン(PREMIERE VISION、以下PV)を取材して、地球環境に配慮した素材開発が急ピッチで進んでいると感じた。PVのトレンドを統括しているパスカリーヌ・ウィルヘルム(Pascaline Wilhelm)=ファッション・ディレクターに行ったインタビューでも、彼女が何よりも先に語ったのは「環境への配慮、持続可能性の追求抜きに、製品開発は語れない」ということ。出展するテキスタイルメーカーも選択肢の一つに必ずサステイナブルな素材を提案できるようにしている。また、サステイナブルな素材のみを探しに来るアパレルメーカーが格段に増えたという。PV自体も地球環境に配慮した素材に焦点を当てた「スマート・ファッション」エリアを2倍に拡張してアピール。サステイナビリティーの追求は、もはやメーカーの標準装備になっており、その方法は、再生ポリエステルや再生ナイロン、オーガニック素材、植物由来の合成繊維への切り換え、フッ素フリー加工など人体や環境に配慮した加工や化学薬品の使用量を減らした手法、人間や動物、地球に配慮したトレーサブルな製造工程の追求など多岐にわたる。
“洗濯してもマイクロプラスチックが出ない”フリース
原料をサステイナブルなものに切り換える発想が目立ったが、その中で、“洗濯してもマイクロプラスチックが出ない”フリースを開発したテキスタイルメーカーに出合った。イタリアのポンテトルト(Pontetorto)社だ。マイクロプラスチックは最近大きな問題になっており、海洋を浮遊するマイクロプラスチックの数は星の数以上と言われている。さまざまな原因が挙げられるが、その一つに合成繊維を洗濯するときに出るマイクロプラスチックファイバーが考えられ、特にフリースが最も放出すると言われている。
ポンテトルト社はもともとウールメーカーで、その起毛技術を用いてヨーロッパで初めてフリースを開発したことでも知られる。同社は17年、フリース部分の素材をポリエステルから天然由来のリヨセルに替えた“ビオパイル(Biopile)”を開発。16年から、天然由来の素材に切り替えられないかリクエストがあったというが、ポリエステルとリヨセルでは起毛の反応が異なり、フリースのふくらみをキープするのが難しく開発に時間を要した。ポリエステル製よりも1mあたり3ユーロ程度高額になるが、“マイクロプラスチックが出ないフリース”は、環境配慮型のブランドにとってみれば、選択肢の幅を広げてくれる素材である。同社は、ポリエルテルを再生ポリエステルに替えたフリースや、ウォッシャブルなメリノウールといったテクノウールなど、他にもサステイナブルな素材に切り換えた生地や、ドライクリーニングが不要な環境に配慮した生地をそろえる。
日本人にもなじみ深いフリースが実は環境に影響を及ぼしていること、また新たなサステイナブル素材によるフリースが開発されていることを知れば、メーカー、消費者の意識も変わるかもしれない。
瀧定名古屋がサステナ素材を強化
日本企業(PVに58社参加、うち新規出展は4社)に目を向けると、この流れに乗り遅れまいとさまざまな提案が行われていた。
瀧定名古屋もサステイナビリティーの追求に大きく舵を切った。きっかけは北欧進出だ。3年前からオランダ・アムステルダムに駐在し、欧州の現状を肌で感じたという黒田剛臣・国際貿易推進部長兼国際貿易推進課長兼瀧定ヨーロッパ社長は「これまではいかに安いか、早いかが求められたが、今は作る過程が重要になっている。特に北欧開拓に着手して強く感じた。かつて当社は環境配慮型の素材を一切扱っていなかった。しかし、企業の姿勢として地球に配慮したモノ作りの必要性を感じ、社長を説得した。1年前から社を挙げてサステイナビリティーの追求に取り組んでいる」と説明する。3週間前にRWS認証(ノンミュールジングであること、動物愛護が守られていること、土地管理がされていること、サプライチェーンが確保されていること、工程に関わるすべてのサプライヤーが認証を取得していること)を取得し、同社はPVで、RWS羊毛を用いた生地をそろえた。「ウールの海外販売においては、RWS原料を使ったものに限られることが多いと感じた」。加えて、ポリエステルは再生ポリエステルに替えたものも並べた。「2020年までにすべての素材(素材の〇%)をサステイナブルに替える戦略を立てているグローバルブランドも多い。今回は2019-20年秋冬展だが、次の2020年春夏展ではさらにその需要は高まるだろう」と語る。
サステナ素材のアピールが奏功 日本企業の打ち出し
旭化成はキュプラ素材“ベンベルグ(Bemberg)”を単体で出展してサステイナブルな素材であることをアピールした。“ベンベルグ”はコットンの種の周りに生えている産毛のコットンリーダーを原料とする再生素材で、グローバル認証を取得している。日本では“ベンベルグ”の名で広く知られているが、欧州ではキュプラとして浸透しており、あらためて“ベンベルグ”のサステイナビリティーを強調した。
エイガールズはオーガニックコットンを用いた生地を集めた「オーガニック」コーナーを設けた。その理由を尾崎孝夫・取締役兼企画部長は「これまでもオーガニックコットンの商品は扱っていたが、近年、『オーガニック素材に替えて作れないか』というリクエストも増えた。反響も大きく、次シーズンはよりバリエーションを増やして提案する」と話す。
リボンのSHINDOも、塩素を使用しないエコウールやオーガニックコットン、リサイクルポリエステルを用いた商品を提案した。堀健一・社長は「もともとオーガニック商品をそろえていたが、サステイナブルなものが求められるようになり、あらためて強化した。前々回から(各社の商品を集めた)スマート・クリエイションのトレンドエリアに出展していたが、今回が最も反響が大きかった。今後もさらに商品開発をしてアピールしていく」と語った。
2020年春夏展に向けて、地球や人、動物に配慮した素材開発がさらに加速しそうだ。