フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)が「セリーヌ(CELINE)」を去り、“フィービーロス”現象が起きている。フィービーはメンズウエアをベースに、実用性と女性らしさを兼ね備えた洋服を提案し、多くの大人の女性と、時には男性たちの心も捉えてこれまでになかった市場を開拓した。オーバーサイズでしなやかさも備えるその服は、新しいテキスタイルや加工技術に加えて色の選び方も独特で、まさにフィービーのセンスの良さが凝縮されたものだった。上質で奇をてらわないがコンサバではないモダンな服――この“フィービー市場”をカバーできるブランドはあるのか。連載第2回は藤井かんなエストネーション・ウィメンズディレクターに聞いた。
藤井ディレクターは「この10年、「セリーヌ(CELINE)」でフィービーは大きな流れを作っただけに、現在さまざまな潮流があったり、多方面でデザイナーが登場してきたりとカオス状態だと感じる。現代のマチュアな女性が本当に着たい服、は何?みんなが影響を受けるブランドは何?と考えていた」という。
大本命が「ジル・サンダー」の理由
「群を抜いて、『ジル・サンダー(JIL SANDER)』。ルーシー・メイヤー(Lucie Meier)とルーク・メイヤー(Luke Meier)の夫婦が手掛けるコレクションには、クリーン、シンプル、ミニマル、パターンやシルエットの独創性、上質な素材使いのうまさがある。さらに、フィービーにはなかった要素として、デザイナーがデュオであるせいか、ワークやスポーツが適度にハイブリッドされている。大人の女性のためのリアルクローズでありながら、ユニセックス性やフレッシュさが感じられ、時代にも合っていて新鮮。そして、なんといっても、プレタポルテ以外のシューズ&バッグへの期待も大きい。特に、アンクルジュエリー付きのシューズシリーズは名品だと思う。いわゆるサロン系シューズブランドからは出てこないタイプのデザインで、そこも、まさに「セリーヌ」が担っていたマーケットでもある。また、バッグも以前のアーカイブを復活させるなど、ミニマルで使いやすいものが出てきている。プロモーションの仕方によってはさらに顧客層が広がる可能性も。ただ、資本力の問題はあるかもしれないが……。少なくとも、フィービーファンだった私自身も今のところ『ジル・サンダー』に移行している(笑)。エストネーションでも『ジル・サンダー』の売り上げが伸びており、19年春夏も買い付け額を増やして強化している」と称賛する。
“フィービー・チルドレン”をウオッチング
「セリーヌ」のデザインチームで経験を積んだデザイナーが手掛ける「ロック(ROKH)」や「カイダン エディションズ(KWAIDAN EDITIONS)」も以前から気になっているという。「数シーズン展示会でコレクションを見ているが、まだまだコレクションが小さく、もう少し完成度の高さがほしいと感じておりオーダーには至っていない。でも、『カイダン』は素材の使い方やコレクションの幅が広がってきたら、もっと良くなるのではないかと期待している」と話す。
リカルド・ティッシによる「バーバリー」
エストネーションで19年春夏から新規導入するリカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)による「バーバリー(BURBERRY)」も注目だという。「“ポスト・フィービー”とは直結しないかもしれないが、“大人の上質なリアルクローズ”という点では、間違いなく今後、着たいブランドとして、また、売れるブランドとしても浮上してくると思う。バッグ&シューズに関してはこれからだろう。特にトレンチコートを中心とするアウターやジャケット、セットアップ、ニット、シャツなど伝統的な要素をエレガントに昇華させている。加えて、ストリートの要素を入れたスタイルもある。秋冬に向けてさらに期待度が高いブランド」と話す。
再注目は「ザ・ロウ」
「『ザ・ロウ(THE ROW)』はゆるぎないミニマルラグジュアリーで定着していて、『セリーヌ』派だった方々にもあらためて視野に入るかもしれない。ニットやアウターなどすばらしく上質。でも、モノによってコンサバと捉える人もいそうな点と、かなり高額な点は、浸透性というと難しいかもしれない。最近、ハンドバッグに力を入れていて、バリエーションが増えてきているのもプラス要素。エターナル派のおしゃれな人には、要注目だと思う」。