ファッション週刊紙「WWDジャパン」が2018年に掲載した中でも特に話題になった、もしくは話題にはそれほどならなかった(!)けど編集長の私が自信を持っておススメする記事を3回にわたって紹介します。1回目はSNSにまつわる話題から。
「プラダ(PRADA)」のデザイナー、ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)へのロングインタビュー(5月21日号)は名言のオンパレードでした。特に印象的だったのは、記者から「SNSの発達に伴いクリエイターたちが潜在的に自分たちのアイデアを抑えてしまう傾向にあることについてどう思うか」と問われた時の答えです。
ミウッチャは「それは、私の思考の大部分を占めているまさに現在進行中の問題」と前置きした後に「われわれは“秘密結社”を作らなければいけないと思う。もし道徳的に正しくないかもしれないことを自由に表現したり発言したりできないのであれば、思考や思想は進歩しないから」と話しています。トップを走り続ける人のヒリヒリとした危機感が伝わってくる言葉です。
デジタル社会では名が立つ人ほど、称賛だけではなく時に批判を受け、ともすれば監視の対象となり“思うまま”に声を上げることは年々難しくなっています。SNSを前向きに活用し、自らを積極的に露出させるクリエイターが多い一方で、ミウッチャはSNSを使わないどころか「SNSのコメントは読んでいないわ。もちろん何が起こっているかは知っているけれど、コメントを恐れてはいない。私は自分がやっていることを信じているし、それを好きな人がいれば、嫌いな人もいるということは特に気にしない」と言います。
SNSをまったく見ないことは、徹底的に活用するのと同じくらい難しいこと。ミウッチャだって評判は気にはなるはず。ですが、新しいモノや価値観を生み出し続けるために、そして思考や思想を進歩させるために、彼女はSNSのコメントは読まないのです。記者に回答しながら自分に言い聞かせている部分もあるのかもしれませんが、それにしても本当に強い女性です。もしかしたら、彼女の周囲には本音だけを発信し合う“秘密結社”が本当にあるのかもしれませんね。
「WWDジャパン」には “Chat Chat!”という、短い名文句を掲載するコーナーがあります。7月9日号の同コーナーに登場したのが、レンツォ・ロッソ(Renzo Rosso)「ディーゼル(DIESEL)」創始者兼OTB会長です。
「ディーゼル」の18-19年秋冬キャンペーンのメッセージ“Hate Couture(ヘイト クチュール)”と書かれたTシャツを着て「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」のショー会場に登場したロッソ会長は「世界中のヘイター(誹謗中傷ばかりする人)に立ち向かうメッセージだ」と言いました。ミウッチャとは角度は違いますが、これも強いリーダーの言葉です。そんなキャンペーンをテーマにしたイベントが東京でも10月末に開かれ、おしゃれな若い男女でとっても盛り上がっていました。強いメッセージは人を集める力もあるのだと思います。
多くの場合はポジティブな意味で、SNSがファッションとますます密接になってゆくのは明らか。だからと言って翻弄されるのはナンセンス。19年も疲れはてない程度にSNSの波を楽しみたいものですね。
最後に宣伝。ミウッチャのインタビューは週刊紙だけで掲載したものです。興味を持ってくださった方はぜひ!購読ページから現物をポチってくださいませ。