古着や廃棄物をデザインの力でよみがえらせ、新たな価値を生み出す“アップサイクル”の動きは、環境保護やサステイナビリティーに敏感な新世代デザイナーの中で勢いを増している。香港の埋め立て地で見つけたビーズを使ってグラマラスなドレスを作りあげたケヴィン・ジェルマニエ(Kevin Germanier)、英セレクトショップのブラウンズ(BROWNS)とのカプセルコレクションを成功させたコナー・アイブズ(Conner Ives)、そしてホテルの古いカーテンなどからドレスを作りあげる「オテル・ヴェトモン(HOTEL VETEMENTS)」のアレクサンドラ・ハートマン(Alexandra Hartman)などがその代表格だろう。
しかし事業面に目を向けると、アップサイクルは素材の供給が限定的になってしまうため、大手小売店が必要とする数量を用意できず、ニッチ市場向けのブランドとなってしまうことが多い。だが若手デザイナーたちは、限定品だからこそビジネスチャンスがあると考えているようだ。
モデルのビアンカ・バルティ(Bianca Balti)が発表したマタニティーウエアは、デッドストックの素材で作られており、素材がなくなったら同じ製品はもう作れないのが特徴だ。「見つけた素材の在庫量にもよるが、デッドストックを使うことで自動的に限定品となるところが気に入っている」。アイブズも、この意見に賛同する。「デザインの最初のステップは素材を探すことで、それがインスピレーションになることもある。大手ブランドはビンテージアイテムを参照したり、それをコピーした製品を作ったりするが、僕はそれを素材として扱う。いかにして自分らしいものに生まれ変わらせられるかが勝負なんだ。いつも素材を集めているから、僕のスタジオはTシャツやら80年代のスパンコールシャツやらのビンテージアイテムであふれているよ」。
彼らの製品を扱う小売店側も、対応を考える必要があった。廃棄物などを再利用していて素材が限定的であるため、今までの常識であった年4回のコレクション発表や大量生産は見込めないからだ。ハートマンは、「アップサイクリングはオートクチュールみたいなもの。製品を作りあげるには手間暇がかかるし、デザインに素材を合わせるのではなく、素材に合わせてデザインを考えなくてはならない。また最初の頃は、大量生産はできないということをショップに分かってもらうのが大変だった。幸い、デンマークにある『ホリー・ゴライトリー(HOLLY GOLIGHTLY)』など、私たちのことを理解してくれる小売店や仕入れ業者と出合うことができたし、2019年に自社のオンラインショップを開店する予定だ」と語る。
アイブズの製品もハンドメードだ。デッドストック素材を受け入れてくれる縫製工場が見つからないこともあるが、大手ブランドのように大量生産したくないというのも大きな理由だという。「世の中にあふれ返っているビンテージ品を見ればわかるように、ファッション業界は過剰供給や大量消費という問題を抱えている。製造段階で環境を汚染する化学繊維で新たな服を作るより、すでにある服を再利用したほうがいい。しかも、そうして作られた服は他にない限定品だ。僕は、それは欠点ではなくむしろセールスポイントだと思う」。
アップサイクル品は確かに大量生産できないが、オートクチュールのようなハンドメードの限定品を、比べものにならないほど安価に提供できるという利点がある。アイダ・ピーターソン(Ida Petersson)=ブラウンズ ウィメンズウエア・バイイング・ディレクターは、「クチュールのアトリエでもない限り、これほど細かな手仕事で作られた服を買うことはできない。コナー・アイブズのカプセルコレクションはあっという間に売り切れるだろう」とコメントした。
ナタリー・キンガム(Natalie Kingham)=マッチズファッション・ドットコム(MATCHESFASHION.COM)バイイング・ディレクターは、「デッドストック素材などから作られた一点物を買いたいという顧客がたくさんいる。そうした、独自のストーリーや美しさを持った服を作るデザイナーをサポートしたい。彼らの製品を当社で扱うことで、彼らの活動を支援することができる」と述べた。
リヴィア・ファース(Livia Firth)=エコエイジ(ECOAGE)創設者は、「大量生産するのではなく、ニッチ市場向けの事業でいるのは賢いことだと思う。アパレル製品の原材料は世界的に減少しており、供給が難しくなってきている。大企業になるとサプライチェーンをコントロールするのは大変だが、小規模な事業であれば小回りが利き、効率的に事業を運営することができる」と語った。同社はサステイナビリティー関連のコンサルタント会社で、マッチズファッション・ドットコムなどと協働して持続可能な社会作りに取り組んでいる。