12月初旬、イギリス海峡に浮かぶガーンジー島のベッドルームから世界の音楽シーンを席巻するプロデューサーのムラ・マサ(Mura Masa)と、同じくイギリス出身でかわいらしいハイトーンボイスが特徴的なネオソウル・シンガーのネイオ(NAO)が、それぞれ来日公演を果たした。
ムラ・マサは15歳から本格的に曲作りを始めると、すぐにその才能を開花。エレクトロニックからヒップホップ、ファンクまでさまざまなジャンルを横断しながらも、どこか懐かしさを感じさせるメロウなサウンドはたちまち評判を呼び、一昨年20歳で発表したデビューアルバム「Mura Masa」はグラミー賞にノミネートされた。同アルバムはその音楽性もさることながら、豪華アーティストが参加していることでも話題に。何を隠そうネイオもエイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)やデーモン・アルバーン(Damon Albarn)、チャーリー XCX(Charli XCX)らと共に参加アーティストの1人として名を連ねている。
デビューアルバム「Mura Masa」収録曲で、もともと発表していた楽曲「Lovesick Fuck」にエイサップ・ロッキーを迎えて新たにリリースした「Love$ick」
そんな2人は同郷ということもあって公私ともに仲が良く、今回のムラ・マサの来日公演ではネイオがオープニング・アクトとして急きょ出演が決定。当初「WWDジャパン」は、ライブ前のムラ・マサに単独インタビューする予定だったが、前述のこともあり、ネイオも交えてインタビューすることに。ライブ直前にもかかわらず終始リラックスした様子を見せた2人のインタビューをお届けする。
WWD:2人はいつ日本に到着しましたか?
ムラ・マサ:2日前だけど、着いてから昼に寝て、夜起きる生活で時間帯がひっくり返っちゃってるんだ。いま(15時ごろ)ぐらいの時間は、寝ていたほうがいいんだろうな……。
ネイオ:ライブ(19時)の前に昼寝するつもり?
ムラ・マサ:まさか(笑)。もうすぐ始まるしこのまま起きているつもり。インタビューもこのまま続けて問題ないよ。
WWD:ありがとうございます(笑)。ネイオは初となる来日公演ですね。
ネイオ:とにかく楽しみ!でもパフォーマンスするのは初めてだけど、旅行では来たことがあるの。2016年に3週間ぐらいだったかな。東京の下北沢って街にエアービーアンドビー(Airbnb)を利用して泊まって、札幌、京都、大阪とかに遊びに行ったわ。だから昨日渋谷に行ったとき「私、ここ知ってる!」って感じだったの。
WWD:ムラ・マサは今年1月に来日公演を果たしていますが。
ムラ・マサ:あれ?今年の1月だっけ?......本当に時間が経つのはあっという間だね。一昨年にも「フジロック」に出演するために来たから、これが3度目。日本は「RAGE」(国内最大級のeスポーツイベント)もあるし大好きな国さ。
WWD:再来日までの間にグラミー賞の発表がありましたが、ムラ・マサはノミネートされていました。環境など何か変化はありましたか?
ムラ・マサ:特に変化という変化はなかったかな。(ノミネートは)予想外だったけど、とにかくお祝いの言葉をたくさんもらってうれしかったよ。
WWD:あなたのインスタグラムを見ていると、今でもベッドルームで曲作りをしているように見えますが……。
ムラ・マサ:今年ようやく自分のスタジオを持てたから、半々ぐらいかな。とはいえ、今でもベッドルームで作業をするのは楽しいし、何より家と仕事場が一緒だと楽でいいよ。
WWD:ライフワークの一部ということでしょうか?
ムラ・マサ:そんな感じ。もう生活の一部だね。ヘッドフォンとパソコンがあれば十分だし、高い機材よりも楽しんでやることが重要さ。
「Firefly」。再生回数は2000万回を超えている
WWD:2人はノミネートされたアルバム「Mura Masa」収録曲の「Firefly」で共演していますが、同楽曲は15年に発表してたものですよね?協働した経緯を教えてください。
ムラ・マサ:それについて聞く?(笑)。僕はその頃18〜19歳で、まだ赤ん坊みたいなもんだった。
ネイオ:あなたは本当に小さくて、シリアルばっかり食べてたね(笑)。
ムラ・マサ:きっかけは単純、ネイオと僕のマネジャーが同じだったから。君はそのときのこと、どんな感じだったか覚えてる?
ネイオ:ベッドの上でくつろいでいたらマネジャーから「ムラ・マサが君のために曲を作った」って聞いて、「本当!?」って答えたのを覚えてるわ。最初はすごくストレートに素直な感じで歌詞を書いていたんだけど、「もっと変な感じにしてほしい」ってムラ・マサが言ってきて悩んだの。
「Firefly」の制作に大きな影響を与えたサブトラクトとリトル・ドラゴンの「Wildfire」
それで当時の私は、リトル・ドラゴン(Little Dragon、日系スウェーデン人のユキミ・ナガノがヴォーカルを務めるスウェーデンのバンド)にすごいハマってて、彼らとサブトラクト(SBTRKT)との楽曲「Wildfire」が大好きだったから、「Fire, Fire, Fire……Firefly」って感じで歌詞が生まれたの(笑)。
ムラ・マサ:そうなんだ、その話は知らなかったよ。でも歌詞は最初に作ったものから少し変えたけど、あとはあまり変わってないよね?すごいすんなりと曲が完成したのを覚えてる。
ネイオ:そうね。でもあの時はまだ実際にムラ・マサと会ったことがなくて、お互いよく知らないのにネットを通じてコミュニケーションしているから不思議な感じだったわ。
ムラ・マサ:すごく現代的だよね。今はもちろんよく知っているけど。
「Complicated」の監督を務めたヨニ・ラッピンは、ムラ・マサのほぼ全てのMVで監督を務めている
WWD:8月に発表した「Complicated」でも共演していますが、何かエピソードはありますか?
ムラ・マサ:「Complicated」はもともと、ネイオが僕ではなくスクリレックス(Skrillex)のために書いた曲だったんだ。
ネイオ:私はMVの撮影をすごく覚えているかな。ヨニ・ラッピン(Yoni Lappin)が監督で、私に踊ってほしいと思っていたみたいなんだけど、私はMVで踊ったことなんかなかったから、彼は私にあえて事前にそのことを伝えず、カメラを回した状態でいきなり「踊って!」って言ってきたの。「え?なに!?」ってもうパニックだった(笑)。でもダンサーがいたから、私がダメでもちゃんといい感じに撮れてたし、楽しかったわ。
ムラ・マサ:ネイオもちゃんといい感じだったよ(笑)。
WWD:いま、2人の間で進んでるプロジェクトはありますか?
ムラ・マサ:実は、「Firefly」と「Complicated」以外にもいろいろと一緒にやっているけど、まだ発表してないのもあるんだ。最近だとネイオの最新アルバム「Saturn」に入ってる曲でもコラボしてるよ。
ファンの間でも人気が高い「If You Ever」
ネイオ:「If You Ever」って曲のプロデュースをしてもらったの。私のスタジオで歌詞を書いて、ブラック(6Lack、アトランタ育ちのシンガー・ソングライターでラッパー)も参加してくれたわ。