渋谷駅周辺の大規模再開発がその全貌を見せ始めた。駅直結の巨大なタワーが出現する一方、2019年には建て替え開業の渋谷パルコ、三井不動産による宮下公園の再開発など、大型商業施設の開業も多く控える。長くこの地に店を構える百貨店などの商業施設にとって、現在の“変わりゆく渋谷”はどのように映っているのか、東急百貨店本店の高橋功・店長に話を聞いた。
WWD:まず、渋谷という街の変化を感じているか?
高橋本店長(以下、高橋):かつて当店や西武渋谷店、渋谷パルコなどの商業施設オープンとともに、NHKやBunkamuraができたことで渋谷の文化的側面が強くなった。21世紀になるとIT企業が参入して“ビットバレー”とも呼ばれたわけだが、渋谷の街は変わり続けていると実感する。どんどん楽しくなっている。
WWD:現在の渋谷をどう見ているか。
高橋:渋谷区が行政としてダイバーシティーに取り組むように、多様性が大きなキーワードだろう。にぎやかな街、ある意味ではカオスとも表現できる。いい部分も悪い部分もあるが、全体としてみればいい方向に進んでいるはずだ。東急グループでは“エンターテイメントシティしぶや”をうたっているが、競合施設も含めて大きな街の枠組みの中でさらなる回遊ができるようになるだろう。その中で何をすべきか、しっかり当店の役割を見定める必要がある。
WWD:東急百貨店本店では外商顧客が多いと聞く。
高橋:外商の売り上げ構成は約40%。新規客が増えていることで、比率としては下がっている。しかし、以前私も外商部長だった際に、営業員やお客さまから話を聞いて外商に支えられているということは肌で感じていた。今いる顧客を大事にしつつも、私としては新規顧客を増やしたいと考えた。新しく渋谷・松濤に住み始めたファミリーがいるが、彼らは特に文化に対する造詣が深い。当店で足りない部分は駅周辺の商業施設での買い回りもあっていいが、彼らが渋谷散策の行きと帰りに寄ってもらえるような役目を当店が果たしたい。そのためには、これまでの50年以上の外商の強みが生かせるはずだ。
WWD:どのように新規顧客を獲得するのか。
高橋:2005年に外商とは別でゲスト・ソリューションズというコンシェルジュサービスを作った。外商ではなく、電話一本で困りごとに対応できるサービスだ。このチームに若手メンバーを起用したが、今では彼らに固定客がつくようになった。そこで、そのまま顧客と担当社員を外商チームに移管して、また新たな若手をゲスト・ソリューションズに任命するというサイクルを作ることに成功した。もちろん外商に入りたくないというお客さまに無理強いはしないが、こうした仕組みは東急百貨店の強みだといえるだろう。
WWD:MD(マーチャンダイジング)面の変更は?
高橋:しっかりとMDを見直すときが来ている。単なるブランドの集積にならずに、渋谷の他の施設と共存していくために、違った視点での組み合わせ・編集の仕方を考えたい。
WWD:インバウンド顧客の割合は?
高橋:増えているが、それでも7%。旅行客というより、定住者や日本にも拠点を持つ顧客が多い印象だ。インバウンドと言いつつも、固定客を獲得できているように感じる。
WWD:今年秋には渋谷スクランブルスクエアをはじめ数々の大型商業施設オープンを控えるが、影響は?
高橋:まず、プラスだろう。街がますますにぎやかになって“エンターテイメントシティ”になっていく。東急東横店が今後どのようになるのかはわからないが、その点も踏まえて、本店の役割を明確にしたい。最近ではBunkamuraとの連携がうまくいっているように、「わざわざ訪れたい」街として文化との融合をしっかり考えることが必要だ。
WWD:生き残るカギは?
高橋:大事なことは人材育成だと思っている。若いメンバーを積極的に東急本店に採用したいと本社にも伝えているが、若いメンバーが言いやすいことを言える環境を作っていきたい。そのためにはCS(顧客満足度)も重要だが、ES(従業員満足度)の充実も欠かせない。そのためにEH(従業員がハッピーになれるか)が重要で、ここ数年は予算を割いて従業員用トイレや社員食堂の改善・改修などのこれまで後回しにしてきた部分に注力をしてきた。そうするうちに、若い従業員が好き勝手を言えるようになってきた。
あるとき「予算をつけるから好きなことをやってみろ」と若手メンバーに託したところ、もちろん失敗案もたくさん出てきたが、例えば屋上におけるバーベキューやカーリングといった奇抜なアイデアが話題を呼び、成功した例も出てきた。バーベキューのためにデパ地下に安価なお肉や野菜も用意したほどだ。その土台となる若手人材に広い勉強をしながら試行錯誤させることが重要だと実感できた。
WWD:今後、本店のリニューアルは計画しているか?
高橋:もちろん考えている。空間としてゆったりとしたお店作りをしていきたいと考えている。特に駅周辺がにぎやかになるからこそ、ブランド数を増やしたり坪単価を上げていくということよりも、いかにお客さまがゆったりと過ごせる場を作るかが大切だ。