ファッション

パリコレに臨む日本ブランド多数 新参者に対し欧州メディアの講評は?

 2019-20年秋冬メンズ・コレクション発表の場が、1月15~20日開催されたパリ・メンズ・ファッション・ウイークに集中した。エディ・スリマン(Hedi Slimane)が就任してメンズを開始した「セリーヌ(CELINE)」、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)自身のブランド「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」とクリエイティブ・ディレクターを務める「ロエベ(LOWE)」もともに初めてパリメンズでショーを開催し、ルーシー・メイヤー(Lucie Meier)とルーク・メイヤー(Luke Meier)夫妻が率いる「ジル・サンダー(JIL SANDER)」も今季はミラノではなくパリを選んだ。多くの日本人デザイナーもパリコレに臨み、一日2つ計12の日本ブランドが公式スケジュールに名を連ねた。メゾンから若手まで、話題に尽きることのなかった今季のパリコレだが、やはり日本人として気になるのは日本ブランドの活躍。特にパリコレ初参加や、メンズでの発表は初となる日本ブランドをフランスのジャーナリストたちはどのように評したのか、いくつかのフランスメディアに目を通した。

 筆者にとって予想通りだったのは、「アンダーカバー(UNDERCOVER)」に対するジャーナリストたちの意見だ。これまでウィメンズのコレクションで日本を代表するブランドの一つとして認知され、創造性に富んだショーは評価されてきた。仏新聞「ル・フィガロ(Le Figaro)」のバレリー・グエドン(Valerie Guedon)は「若い世代が愛するストリートスタイルに、新しいビジョンを与えるような新鮮さがあった」と感心し、仏新聞「ロブ(L’obs)」のソフィー・フォンタネル(Sophie Fontanel)は特に「ヴァレンティノ(VALENTINO)」とのコラボレーションについて「シックで詩的で、子ども時代の純真さを兼ね備えている。その純真さで私たちを暴力から守って欲しい」と、フランスで続く黄色いベスト運動の暴動と関連付けて、「アンダーカバー」の描いた無垢な世界観を称えた。

 英国の雑誌「システム・マガジン(System Magazine)」の創始者エリザベス・ウォン・ガットマン(Elizabeth von Guttman)は「創造性が商業的アイデアに打ち勝った」と表現した。唯一のネガティブなコメントは、仏ウェブメディア「ファッション・ネットワーク(Fashion Network)」のゴドフリー・ディーニー(Godfrey Deeny)の「巧妙で素晴らしいショーだったが、ファッションのメッセージとしてはそれほど大きいものは届けられなかった。演劇的ファッション作品という意味では見事だ」という言葉だった。「アンダーカバー」はショーで存在感を発揮しただけでなく、17日にはヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」メンズ アーティスティック・ディレクターと共同でナイトクラブ、コンクリート(Concrete)でアフターパーティーを開き、レディオヘッド(Radiohead)のトム・ヨーク(Thom Yorke)をゲストDJに招いて朝方まで盛り上がった。

 多くのメディアがビッグネームのブランドを中心に記事を掲載するため、パリコレで初めてショーを開催する新参者は取り上げられることが少ない中で、「フミト ガンリュウ(FUMITO GANRYU)」のコレクションレビューはいくつかのメディアに掲載された。仏新聞「ル・モンド(Le Monde)」のヴァランタン・ペレス(Valentin Perez)は「彼は独自のスタイルをしっかりと主張したが、もう少し簡潔であるべきだった」とコメント。この場合、賛否は問題ではないと私は考える。現地大手メディアに記事が掲載されること自体が大きな意味を持つからで、個人的には、ネガティブなコメントは褒め言葉よりとても貴重だと思うからだ。

 「ファッション・ネットワーク」のシュニュ・アレクシス(Chenu Alexis)は「デザイナーは英語を話さず、彼自身を表現しようとはしないが、素晴らしい技術を持ったクリエイターであることは洋服を見ればすぐに認識できる」と取材した感想を記していた。筆者も彼の意見には同感で、ショールームで「フミト ガンリュウ」の洋服を実際に見て、パターンが格段に美しいという印象を持った。視覚的にインパクトのあるコレクションではないため爆発的に話題になることはないが、洋服の美しさや着やすさといった基盤がしっかりとしたブランドは、少しずつでも着実に大きくなり、広く深く認知されるだろうと、個人的には最も期待している。

 同記事で彼は、パリのオフスケジュールでコレクションを発表した「ヨシオ クボ(YOSHIO KUBO)」についても、「日本人のアイデンティティーを持ちながらアメリカでファッションの教育を受けてアメリカ文化に感化される、他の日本人デザイナーとは一線を画す注目のデザイナー」として取り上げた。その他、17年LVMHヤング ファッション デザイナー プライズのセミファイナリストに選出され、パリコレ参加は2度目となる「サルバム(SULVAM)」も新進デザイナーとして紹介した。一方、知る限り多くのフランスメディアに目を通したが、名前さえ紹介されておらず残念に思ったのは「ホワイトマウンテニアリング(WHITE MOUNTAINEERING)」だ。

 パリはファッションの聖地でありながら、新しい世代、異文化、新しい流れを受け入れる土壌のある自由な地として、発表の場にふさわしいと考えられているのだろう。パリコレに参加すれば、他都市での発表に比べて格段に世界から注目もされる。しかし、パリでの発表というのは一つの過程であってゴールではないはず。さらに、何事も”継続”することこそ重要だと思う。今季パリコレデビューを果たしたブランドが今後、どのような道を歩んでいくのか楽しみである。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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