2月5~7日に開催された素材見本市「ミラノ・ウニカ(MILANO UNICA)」は、2020年春夏のトレンドコンセプトを“ミュージック メニュー”とし、音楽と料理からイメージを広げた。「ミラノ・ウニカ」やパリの「プルミエール・ヴィジョン(PREMIERE VISION)」といった素材見本市では、素材作りに入る前の段階で出展各社にトレンドの方向性を示している。
今回、音楽と料理にフォーカスした理由をステファノ・ファッダ(Stefano Fadda)「ミラノ・ウニカ」アーティスティック・ディレクターは、「春夏シーズンは楽しめるものを提案したいと考え、出発点になったのが音楽だった。パーティーや余暇、あるいは野外や未来の大都会の、宴・息抜き・幸福のひとときを思い描いた。そうして、その情景に奥行きを与えてくれるものを考えたら“食”だとひらめき、リズムと味覚が調和したときに新鮮なトレンドが提案できると考えた」と説明する。
同見本市のテーマは、1980年代のラップミュージックと北アフリカの料理からイメージを広げた“2080 クスクス・ラップ”、70年代のディスコミュージックとレバノン料理から着想した“2070 ファンキー・タブーリ”、50年代のジャズとフランスのお菓子を合わせた“2050 ボンボン・ジャズ”の3つに分けて提案した。それぞれのテーマを着想した時代の100年後に設定したのは、「未来を見せる必要があると考え、また、来場者にも未来を考えてほしいと思ったから」だという。
クスクス・ラップ
「若者に向けたストリートスタイルのための素材をイメージした。ラップミュージックのリズムと北アフリカの典型的な料理のクスクスの豊かさを結び付ける。オーバーな色、オーバーサイズ、オーバーシェイプ、オーバーな装飾などさまざまな“オーバー”を表現するための素材だ。いくつもの文化やスパイスを融合することで新しいストリートファッションが提案できるのではないか」とファッダ=アーティスティック・ディレクターは語る。
ポイントになる素材は、重ね合わせた素材、端切れを用いたパッチワーク、さまざまな素材を編み込んだもの、ジャカード織り、各種のデニム、色落ち加工、オーバーステッチのディテール、ヒョウ柄、カモフラージュ柄、大胆な花柄と、アクセサリー用には大きなプラスチックチェーンや飾り鋲などだ。赤をキーカラーに、サフラン、グレー、グリーン、ターコイズ、モロッコブルーとゴールド、そしてブラック&ホワイトと合わせて表現する。「端切れやリサイクルリボンなど、意図的にリサイクル素材を提案した。クオリティー重視というよりも誇張したデザインで遊び心を大切にした」とファッダ=アーティスティック・ディレクターは語る。
ファンキー・タブーリ
ドナ・サマー(Donna Summer)、ダイアナ・ロス(Diana Ross)、バリー・ホワイト(Barry White)、アマンダ・リア(Amanda Lear)といった無二の声がディスコで流れた80年代と、タブーリやフムス、ババガヌーシュなどレバノンの豊かなもてなし料理をミックス。きらびやかな光沢感のある生地に加え、バイオレットやオレンジといったディスコミュージックをほうふつとさせる明確なトーンの素材を並べてゴージャスなイメージをつくった。「鍵は色と光沢感。玉虫色やホログラム、ビニール系の素材をアクセントに入れた」とファッダ=アーティスティック・ディレクターは言う。
リサイクルプラスチックのフリンジ、玉虫色のネット素材、プリズムのようなジャカード織り、モダンなブロケード織り、スパンコール刺しゅうのジャージー、シルバー加工のコットンやナイロン、ミラー加工のナイロン、紙のようなプラスチック、奇抜なコンビネーションのストライプ、メタル加工のボタンなど、ふくらみのある素材や刺しゅうもポイントになっている。
ボンボン・ジャズ
「おぼろげにゆらめく雰囲気の中でいこうエレガントな装いをイメージしている。セクシーで洗練されていて繊細。クラシックジャズにフランス菓子のボンボンを加えることで、クリーミーさとユーモアを盛った。クオリティーが高く洗練された素材をそろえたが、クチュール的な素材を軽やかに表現したり、テクスチャーの面白さを生かしたりすることがポイントになる」とファッダ=アーティスティック・ディレクターは言う。
モノトーンをベースに、厚手でボリューム感があり、丸みを帯びたテクスチャーの生地、ボイル、ネット、チュールといった軽やかな生地、バターのように滑らかなタフタやサテン、トーン・オン・トーンまたはダブルカラーのジャカード織り、繊細な刺しゅうなどを並べた。水玉柄はミクロからマクロまでさまざまにあり、円形モチーフも多い。イレギュラーなチョークストライプも印象的だ。カラーパレットは白、プールブルー、キャラメル、ローズ、グリーンなどで、「上流階級のお嬢さんや奥さまがイメージ」という。最後に「市場をフォローすべく、これまでよりも少し若い世代に向けた提案にした」とまとめた。ミレニアルズ世代や、強まるアフリカ系アメリカ人の消費動向なども踏まえたトレンド提案だ。