ロンドンメンズ3日目、衝撃のランウエイショーに立ち合いました。「アイター スロープ(AITOR THROUP)」というブランドのショーです。ランウエイと言っても、モデルは一人も出てきません。写真を見てください。登場したのは、「アイター スロープ」の洋服を着た、人とまったく同じ大きさの人形たち。それを5人の人形師たちが動かし、ランウエイを歩かせるのです。人形と言っても、劇団ピッカリ座のシンデレラとか、ブロードウェイ・ミュージカルのアベニューQみたいに笑いに溢れたものではありません。聞くだけだと「ライオンキング!?」と想像したくなりますが、雰囲気はもっとダークサイドです。仮面をかぶった漆黒の人形、ショーの最中2回も僕たちを驚かせた頭と体の大爆発、そしてモノトーンの洋服から感じたのは、闇。デザイナー、アイターの積年の鬱屈した思いを垣間見たような気がします。
このデザイナーに出会ったのは、今から3年前。ロンドンメンズのスタート時です。アイターはアートへの造詣が深く、当時も彫刻や、スカルプチュアルで本物ソックリ、だからこそ背中に背負うには勇気が必要だったスカルのバックパックなどを発表し、闇の片りんを見せつけていました。(上の写真は今シーズンの作品ですが、本人曰く、「これは、今までの僕」だそうです)それが、しばらくの沈黙を経て(と言っても、実際、彼は今デニムブランド「ジースター ロゥ」のクリエイティブ・コンサルタントを務めています)発表したのが、コレ。彼の心の内が気になります。
そう思って話を聞いてみると、アイターは、「15年間もクリエイティブなエゴを作り続けてきたのは、自分を人からの独断や偏見から守るために必要なことだった。そして3年前にその集大成を発表したけれど、心は晴れず、いつも不幸せだった。今、僕はようやく目覚めたんだ。これからは、コマーシャルなコレクションを作っていくよ。今回発表した洋服は、そのプロトタイプなんだ」と話します。ううっ、結構な重たさです。彼のこの思い、果たして受け止めきれるでしょうか(苦笑)?そんなことを考えました。
ただ、アイターは極めて今ドキのデザイナーな気がします。実は僕、ここ2年くらい、「いつからかデザイナーは、クラスの人気者ではなく、どちらかと言えば目立たない、もしかしたら根暗だった人に変わってきているのでは?」と思っています。それは、日本人デザイナーを見ると、なんとなくわかります。
次ページ:時代は「イケてるグループ」から「イケてないグループ」へ?
ここからは独断や偏見が多分に含まれているかもしれませんが、僕(もうすぐ39歳です)より年上の日本人デザイナーって、たぶん皆、学生時代は人気者だったり、イケてるグループの一員だったり、もしかするといじめっ子だったりの人たちです。「アンダーカバー(UNDERCOVER)」の高橋盾さん、「ヒステリック グラマー(HYSTERIC GLAMOUR)」の北村信彦さん、「N.ハリウッド(N.HOOLYWOOD)」の尾花大輔さん……。ほら、なんだかそんな気がしませんか?僕より年上のデザイナーたちは、本人がカッコよくって、だから僕らは憧れ、洋服を買っているのです。
それが同年代から年下のデザイナーになると、どうでしょう?一人ひとりに「学生時代、イケてました?根暗じゃなかったですか?」と聞いたわけではありませんが、「アンリアレイジ(ANREALAGE)」の森永邦彦さん、「ミキオ サカベ」の坂部三樹郎さん、「リトゥン アフターワーズ(WRITTENAFTERWARDS)」の山縣良和さん、「クリスチャン ダダ」の森川マサノリさん……。みな、たぶん学生時代は控えめな存在だったのでは、と勝手に推測します。少なくとも、ジョニオさんのようではなかったハズです。そんな彼らは、口に出せなかった心の思いを洋服で表現し、共感を誘っているような気がするんです。そう考えると、後者の若手デザイナーがアニメやアイドル、オタクカルチャーとつながるのも納得です。だってアニメやアイドル、オタクもまた、学生時代は控えめだった人たちの、内に秘めたる思いが形になって表れた存在と言えますからね。
ってことで、アイターの闇には若干ビビりつつも、「もしかして、化けるかも!?」と思っています。ちなみにバクハツした人形含め、今回の彼のクリエイションは、ロンドンのドーバー ストリート マーケットに展示予定。洋服も来年1月から、店頭に並ぶそうです。
次ページ:【オマケ】超私的コレクション・ランキング!
【オマケ】2017年春夏も挑戦!?独断と偏見で決める、超私的コレクション・ランキング
今年も、拝見したランウエイショーとプレゼンテーションを対象に、独断と偏見だけに基づいたコレクション・ランキングづくりに挑戦します!上位に食い込むブランドはいずれも、「ブランドらしい」「新しい」「受け入れるマーケットがありそう、もしくは作ってくれそう」「業界全体を次のステージに押し上げてくれそう」と期待するところ。もちろん、「カワイイ」や「単純にスキ」という直感もランキングに影響します(笑)。さぁ、今季の1位はどこでしょう?
ロンドンメンズ3日目は、「シブリング」!今シーズンも純粋に楽しいコレクションを発表してくれました。今回はメンズの時期に、ウィメンズと一本化したランウエイショーを開催。メンズ担当記者として、その心意気もうれしいし、ペアルックは純粋にカワイイっす。「J.W.アンダーソン」は、久々にノージェンダームードを再び強め、繊細な王子様風。「アイター スロープ」も、ちょっとコワいけど、将来を感じるのでランクインです。「マーガレット・ハウエル メンズ」は、6月のロンドンにさわやかな風をもたらしてくれました。
1.クレイグ グリーン
2.シブリング
3.ケイスリー ヘイフォード
4.マーガレット・ハウエル メンズ
5.ナイジェル・ケーボン
6.マッキントッシュ
7.アイター スロープ
8.アストリッド アンデルセン
9.トップマン デザイン
10.コモン スウェーデン
11.イー トウツ
12.KTZ
13.MCM × クリストファー レイバーン
14.アギ & サム
15.ベルスタッフ
16.オリバー スペンサー
17.ルー ダルトン
18.ハウス オブ ホランド
19.ナジール マザー
20.ボビー アブリー
[rel][item title="【メンズコレ連載】17年春夏メンズ最大のトピックスは、何だ!?" href="https://www.wwdjapan.com/focus/column/collection/2016-06-12/16662" img="" size="small" font="large"][/rel]
[rel][item title="最速最多!2017年春夏ロンドン・メンズ・コレクション一覧" href="https://www.wwdjapan.com/collection/season/2017-ss-london-mens-collection/" img="no" size="small" font="large"][/rel]