前シーズン、ブランド設立15周年を記念して東京で4年振りのショーを行った「アンリアレイジ(ANREALAGE)」。2019-20年秋冬も、パリ・コレクションでの発表に続いて東京でもショーを開催した。パリに発表の場を移した15年春夏以降、“光”をテーマにテクノロジーを全面に打ち出したコレクションを見せてきたが、それは前シーズンまでで一旦終了。今季は、設立以来のコンセプトである“神は細部に宿る”という言葉を改めて掲げ、「見慣れた服を拡大するとどうなるか」「拡大された服のディテールを身にまとうとどうなるか」という切り口で見せた。こうした手法は、パリ進出前にもデザイナーの森永邦彦が探求していたもの。原点回帰ともいえるこの変化を、東コレ有識者はどう見る?世界各国の若手ブランド事情に詳しいマスイユウと、東コレの重鎮ジャーナリスト、清水早苗に聞いた。
WWD:これまでと大きく変わった今季の「アンリアレイジ」を見て、2人はどう思った?
マスイユウ(以下、マスイ):分かりやすくていいんじゃない?今までのテクノロジーやガジェットを取り入れたクリエーションって、純粋に服として見ると分かりづらかったから。今季は見てすぐ分かる服になった。正直、今まで出してきた“フラッシュ撮影すると分かる服”とかって、意図は分かるんだけど、普段は常にフラッシュ撮影されるわけじゃないよね。今回はそういう能書きがなくて、服として完結していたと思う。いや、完結はしていないか。巨大なマネキンが会場に置いてあってこそ、今季は服を拡大してそのディテールを取り上げたと分かる仕掛けだったから。そういう意味では結局説明が必要な服ではあるけど、これまでよりは分かりやすい。
清水早苗(以下、清水):分かりやすかったというのは私も同意。“コンセプチュアルな服作り”って、すごく難しいものとして捉えられがちだけど、逆に非常に分かりやすいものなんだという証明になったと思う。テーマが拡大とか誇張であることは言われなくても分かったし、森永さんの「意図していることを伝えよう、伝えよう」という気持ちもすごく感じた。これまで以上にコミュニケーションを取ろうとしているように思った。
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WWD:デザインに分かりやすさを求めるのは、SNS全盛時代の世の流れでもあります。でも、長年取材をしている立場だと、それでは物足りないと感じる部分もあった?
清水:分かりやすい反面、ミステリアスじゃないよね。ずっとブランドを見てきた人間からすると、どうしても見たことのないもの、何か新しいものをこのブランドには求めてしまうから。
WWD:一方で、こうした分かりやすいアプローチに変えたことで、パリでのセールスは好調だったということを森永さん本人も囲み取材で話していましたね。
マスイ:“テクノロジーアレルギー”みたいな人って、この業界に結構な数いると思うよ。テクノロジー頼りみたいな服に対し、「…何それ?」って感じちゃうような人。だから、今回みたいに分かりやすく服そのものに焦点を当てるというのは、いいアプローチだと思う。
清水:テクノロジーを取り上げるというのはいいのよ。ただ、テクノロジーを日常の服に落とし込むところまでがなかなかできていない。そこは残念だと思う。森永さん本人もそれは課題だと思っているだろうけど。
マスイ:2018年に「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ」で大賞を取った「ダブレット(DOUBLET)」は、「ドリフ大爆笑」みたいな面白さがあるデザインが特徴だけど、彼の服ってその面白さが商品にまで落とし込まれているよね。だから消費者も面白い。ショーは面白いけど、商品そのものは面白くないというのでは消費者には伝わらないもん。今季の「アンリアレイジ」なら、ショーを見ていない消費者でも面白いと感じるんじゃない?
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WWD:服の縮尺を変えるというのは、ブランドが昔から行ってきた手法でもあります。当時と今回とで、伝えたいメッセージや探っているものがどう違うのかが見えづらいようにも感じたけど、2人はどう思った?
マスイ:その点は、やっていることと時代がようやく合ってきたっていうことなんじゃないの?
清水:昔テーマにしたことを今の時代感に合わせてもう一度取り上げるというのは、決して悪いことではないのよ。ただ、ジャーナリストとしてはどうしても森永さんに新奇性を求めてしまう。テーマがすぐ分かっちゃうようなコレクションだと、ぐいっとひき付けられたりはしない。ひねりを求めてしまうし、そのひねりにこそ未来を見るというか。
WWD:テクノロジーが全面に出ていた前シーズンまでは「もっと着る人に寄り添う服を」という声が強かったし、今回みたいにリアルになったらなったで「それでは物足りない」となる。それだけ期待が高いということだけど、改めて2人は「アンリアレイジ」に何を求めている?どうあって欲しい?
清水:デザイン的には、今季はこれまでよりぐっとエモーショナルになってよかったよね、エレガンスとまではいわないけど。ただ、やはりこのブランドには見たことのない新しさのようなものも求めてしまう。それに、テクノロジーを探求することは、森永さん自身が楽しくて楽しくてしょうがないんじゃないかな。だからどうしてもそれをやっちゃう、という。
マスイ:大事なのは、それが周りにとっても楽しいかどうかってことよね。今ってテクノロジーが身の回りに溢れているから、「フセイン チャラヤン(HUSSEIN CHALAYAN)」の機械仕掛けのドレスを見て感動した頃みたいに世の中がファッションで驚くことはそうそうない。正直、これまでの「アンリアレイジ」には、テクノロジーを打ち出されても「…で、それで何がしたいの?」っていう感じだったけど、今回はそうじゃなかったから、僕の周りは海外を含め「よかったね」って言っている人が多いよ。