PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA / STYLING : RAMUDA TAKAHASHI / HAIR : DAIKI OKINAGA ベルト(2万4000円)、シューズ(6万9000円)ともに「トーガ ビリリース」(トーガ原宿店 03-6419-8136) / その他スタイリスト私物
もともとトラックメーカーとして活動していたJQが結成したバンドNulbarich。2016年に結成すると翌年にはジャミロクワイ(Jamiroquai)の日本公演でサポートアクトを務め、18年にはホンダのTVCMに楽曲「NEW ERA」が起用されるなど、実力は多方面から評価されてきた。さらに同年11月にはJQが「夢だった」と話す日本武道館公演も成功させ、先月にはサードアルバム「Blank Envelope」をリリース。これからの活躍にもますます注目のバンドを代表してフロントマンのJQに、アーティストを志したきっかけからバンド結成の経緯、親しい間柄にあるスタイリストの高橋ラムダについてまで話を聞いた。
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WWD:まずはアーティストを志した理由から教えてください。
JQ:4歳からピアノを習っていて、小学校では吹奏楽部に入ってパーカッションを担当していたりと、幼い頃からシンプルに演奏する側として音楽とは関わりがあったんです。吹奏楽部もたまたまマーチングの強豪校でレベルが高かったので中学校でも続け、パーカッションつながりでバンドでドラムをやったり、いろいろなものを聴きまくる音楽オタクではなかったんですが、演奏するのが好きだったので趣味程度に続けていました。それからヒップホップ周りのカルチャーを知り、専門学校に入って音楽を掘って掘っての毎日で、次第にトラックメーカーと作曲家を目指すようになった感じです。
WWD:専門学校では何科に?
JQ:別にDJをやりたかったわけでもないのに謎に専門学校のDJ科に入りました(笑)。まぁヒップホップが好きだったし、ラッパーとも出会えたらいいなみたいな。学校ではレコードやヒップホップの歴史といった座学が中心で、トラックメイキングとかは教えてくれなかったんですよ。だから技術的な面はクラブで知り合った先輩のDJに教えてもらったりと、独学なんです。と言っても、トラックを作る上ではサンプリングがメインだったので、技術というよりもどこを使うかを決めるセンスを磨くイメージでした。
WWD:トラックメイキングにおいて影響を受けたアーティストは?
JQ:DJプレミア(DJ Premier)は“神”って呼んでましたね(笑)。あとはカニエ・ウェスト(Kanye West)やファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)、ブラック・アイド・ピーズ(The Black Eyed Peas)のウィル・アイ・アム(will.i.am)、ジャスト・ブレイズ(Just Blaze)、ティンバランド(Timbaland)がわりかし好きです。ファレルは本当に好きで、ザ・ネプチューンズ(The Neptunes)の頃から聴いてました。ジャンルで言えば、90年代ヒップホップや、ジャジーヒップホップ(ジャズとヒップホップの融合ジャンル)が中心です。
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WWD:プロデューサーと呼ばれる人たちが好きなんですね。
JQ:サウンド感というか、誰に歌わせてもその人の色が出る感じがすごいクリエイティブだなっていう憧れがあるんでしょうね。もちろんナズ(Nas)とか普通にラッパーも好きですよ。ナズは単純にリリックセンスがいいというか、いわゆるヒップホップっぽくなさすぎなくて。
WWD:話を聞く限りブラックミュージックに大きな影響を受けているようですが、魅力は?
JQ:諸説ありますけどジャズもヒップホップもブラックカルチャーごと背負ってるジャンルで、人種を支えた音楽っていう成り立ちやルーツがある。やっぱり男って、洋服でもデッドストックって聞くと買っちゃうみたいにルーツを探りがちじゃないですか。ヒップホップでいうと、オーバーサイズの洋服を着る理由はお金がなくておやじのパンツをはいていたとか、長く着るために大きいサイズを買っていたとか。それが世界的にかっこいいとされて、1つのカルチャーになっていくみたいな流れが単純に好きなんです。音楽とファッションの関連性をはじめ歴史を知れば知るほど愛が生まれ、興味を持たせてくれたのがブラックミュージックだったんです。
WWD:その中でラッパーやMCを目指そうとは思わなかったんですか?
JQ:ラップは好きですけど僕にとってハードルが高かったし、自分を表現をするにはラップより今のスタイルの方が作品に落とし込みやすいと思ったからですね。
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WWD:では最近気になっているアーティストがいたら教えてください。
JQ:最近メンバーに教えてもらったスリーピースバンドのフィーバー333(THE FEVER 333)です。全然ヒップホップじゃないんですけど、久々に別ジャンルのところで超かっこいいと思いました。今の人たちなの?っていうくらいリンキン・パーク(Linkin Park)とレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(Rage Against the Machine)に影響を受けているようなサウンドで、ジェイ・Z(Jay Z)つながりでリンキンを聴いていたからなんか懐かしく感じるんです。
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WDD:トラックメーカーからNulbarichを結成した経緯は?
JQ:トラックメーカーの延長線上でプロデューサーもやるようになって、そこで出会った仲間たちと「こんなバンドができたらいいね」みたいな感じでぼやっとした夢があったんです。それからいろいろな巡り合わせで、僕がプロデューサーじゃなくてバンドのフロントマンとして立つチャンスが到来して、みんなに声をかけたらいい反応があったから結成しました。ただ、みんな僕とは長い付き合いだけど、メンバー同士は全然長くなかったりするので、集まり方的にバンドというよりも“クルー”と考えたほうがしっくりくると思います。
VIDEO 「ルールがない」と話すようにライブではJQがドラムを担当することも。昨年11月に行われた日本武道館公演の様子
WWD:バンドを結成するにあたり、コンセプトなどはなかったんですか?
JQ:「集まれる場所がほしいよね」ってところから始まったので、特にないんです。メンバーは本当に好きなジャンルやこだわりが全然違っていて、バラバラだからこそ一人一人がぶつからずにこだわれるんですよ。唯一の共通点は、ブラックミュージックに対してリスペクトがある点。視点や価値観の違う人が集まって、それぞれがいいと思うものがあるからこそ、バラバラにならず、ちょっとずつちょっとずついいものが集まってくる感じですね。ライブでもこれといったルールがなくて、それぞれがセッション的な感覚で自由に演奏をアレンジしてくるんです。ライブはオリジナル音源とは全くの別物レベルで、いい意味でみんなが自己表現をしています。
WWD:バンド名の由来は?
JQ:相反する言葉で繋がっているワードが好きだったので「Null(無の状態)」「but(しかし)」「Rich(満たされている)」を繋げて造語にしたんです。ネット社会の弊害ですけど、多くの人に届くためには検索に引っかからないとどうしようもないですし。
WWD:曲名が他のバンドと被ることについては気にしないのでしょうか?
JQ:これに関しては、日本語にしろ英語にしろ共通言語なのでしょうがないと思って割り切っています。
VIDEO 初期の代表曲「NEW ERA」
WWD:当初はあまり表に出る事なく活動していましたが、どういった意図が?
JQ:かっこよく言えば、先入観のない状態で音楽を純粋に聴いてもらいたかったからです。手に取ったときに「あ、こういう人たちが歌ってるんだ」って余計な違和感を生む情報を与えたくなかったんですよ。それに最初に作った曲がうれしい事に想定外に受け入れてもらえたから急ピッチでアルバムを作ることになって、ジャケットをどうするかってなったときに自分たちが載るイメージが湧かなかったんです。これに関しては今でもそうですね。あとはギターが3人いたりとメンバーが大勢で、演奏ごとに編成を変更しているのも関係しています。
WWD:まさに先ほどおっしゃっていた“クルー”ですね。
JQ:バンドってギターが1人替わるだけで本当に音が変わっちゃうんですよ。ファッションでいうとブランドのデザイナーが変わるようなもの。メンバーがたくさんいることがNulbarichの強みでもありますね。
サードアルバム「Blank Envelope」
WWD:先日、サードアルバム「Blank Envelope」をリリースしましたが、コンセプトは?
JQ:これからの展望だったり、先に向かう何かだったり、自分が描くもの、今感じているものを無心に詰め込んだアルバムっていう感覚で、明確なコンセプトは特にないです。昨年11月に初めて武道館でワンマンライブをやらせてもらったときに、初ライブから2年ちょっとであれだけの人たちが集まってくれたことへの感謝と、これからも続けていかなきゃいけないという思いが生まれたんです。
バンドがいつまで続けられるかはわからないですけど、自分たちがまっすぐに進んだことによって、今これだけの人たちがついてきれくれたという結果を武道館で知ることができた。自分が好きなように音楽を作って、世の中にポーンと落とせるのはすごい幸せなこと。だからこれからも変に考えすぎず、自分たちがいいと思う音楽を世の中に発信していきますって選手宣誓を改めてできた気持ちで、ライブ後に曲を作りまくったんです。それで完成したのが「Blank Envelope」。「余計なものをとっぱらって単純に今できるベストと、自分たちがかっこいいと思うものをできるだけがんばって形にしました。よかったら聴いてください」ってアルバムになったと思っています。
WWD:アルバムのアートワークは長場雄さんが描いていますが、長場さんからすればアルバムのコンセプトがない中で描くのは難しかったと思います。印象的なアートワークが生まれたきっかけを教えてください。
JQ:イラストレーターとしての魅力がすごいので今回は僕らからお声がけしました。曲が出来上がったフレッシュなうちにアルバムをリリースしたい気持ちが強くて、それを伝えつつ「アルバムのコンセプトがないんですよ」って話をしたら当然「何も浮かばない」って言われて(笑)。それからアートディレクターの前田晃伸さんを交えて、音楽に対する思いや好きなジャンルの話を1時間くらいしゃべってたら“ヒップホップが好き”ってところでリンクしたんです。ヒップホップの何かからインスパイアされたりテイストを掻い摘まんだりして自分たちのものにするサンプリングっていうカルチャーと、一般的にあるものを長場さんらしいポップなものに仕上げる点がなんとなく一致して、ジャケットが決まりました。
長場雄の公式インスタグラム(@kaerusensei)から
WWD:長場さんはなんでも一瞬で“長場さんの絵”にしますよね。
JQ:それがとにかくすごいと思っていて、一番衝撃だったのが長場さんの描いたスヌーピーなんですけど、スヌーピーってオリジナルが超シンプルで線の数も少ないのに、なぜか長場さんが描くと“長場さんのスヌーピー”になってるんですよ。だから今回も、どんな長場さんのタッチでジャケットが出来上がるんだろうって楽しみにしていたら、まさかの鉛筆画。最初スタッフと一緒に見たときに思わず「これラフですよね?」って聞いたんですけど、「今回は鉛筆でいきたかった」って言われてすぐに納得しました。ペンだと見えない強弱が鉛筆だと見えて、普段の長場さんのタッチからはあまり見られない強弱が感じられたので、僕的にはすごいうれしい収穫でした。スペイン人画家フランシスコ・デ・ゴヤの「黒い絵」シリーズをモチーフにしているんですけど、モチーフの元が見えるけど嫌な気持ちにならずポップさが表現されているところや、思いを形にして世の中に送り出すときに“長場雄”ってフィルターを通すことによっていろいろな人に見てもらえるようにしている感じが、改めて見習いたいと思いましたね。
READ MORE 2 / 2 “展示会小僧”だった若かりし頃とは?
PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA / STYLING : RAMUDA TAKAHASHI / HAIR : DAIKI OKINAGA
WWD:大のファッション好きとお聞きしましたが、何かエピソードがあれば教えてください。
JQ:若い頃は展示会に行くことが憧れだったので、先輩にお願いしてよく「ネクサスセブン(NEXUSVII)」とかの展示会に潜り込ませてもらってた“展示会小僧”でしたね。新作が自分の家に届く喜びを覚えて、案の定借金地獄になってましたけど(笑)。「デラックス(DELUXE)」「ワコマリア(WACKO MARIA)」「サスクワァッチファブリックス(SASQUATCHFABRIX.)」あたりのブランドさんには、“展示会小僧”の頃から仲良くしてもらってます。
WWD:日本のブランドがお好きなんですね。
JQ:知り合いのブランド、知り合いの知り合いのブランドだったり、近い人の作った洋服を着るのが個人的に好きなんです。仲良くなるとその人の思いが見えてきたりするので。
WWD:これまでで気になった海外ブランドはありますか?
WWD:一時期、謎に「ジェレミー スコット(JEREMY SCOTT)」が好きで買ってた時期がありましたが、具体的に好きなブランドはあまりないかもしれないですね。でもルックやコレクションの動画を見て、いいなって思ったものをなんとかして手に入れようとするけど手に入れられなかったり、手に入れたけどほとんど着ないで手放したり、ブランドもジャンルも気にせずとりあえず着てみるタイプですね。失敗も含めてチャレンジが好きなんです(笑)。
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昨年11月に行われた日本武道館公演の様子 PHOTO : TEPPEI KISHIDA
昨年11月に行われた日本武道館公演の様子 PHOTO : TEPPEI KISHIDA
昨年11月に行われた日本武道館公演の様子 PHOTO : YUJI HONDA
WWD:ステージ衣装にもこだわりがあるとお聞きしました。
JQ:ステージで目立つってすごい難しいんですよーー観客の目が行くようにしなきゃいけない。とはいえ、大きくて派手な何かを着れば目立つかっていったらそうじゃないし、照明でも全然変わってしまう。ステージ衣装は街中で目立つのとは全く違う素人には分からない領域なので、ほぼ全てのライブで高橋ラムダさんにスタイリングをお願いしてます。ラムダさんは僕が好きなものを理解してくれているので、選ぶのもスムーズだし刺激的です。
WWD:ラムダさんの「R.M ギャング(R.M GANG)」とのコラボのきっかけもスタイリングをお願いしていたからなんですね。
JQ:そもそも僕にとってカリスマなんで、引き受けてもらえると思ってなかったんですけど……本当に言ってみるもんだなと。今日もスタイリングを組んでもらいました。
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PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA / STYLING : RAMUDA TAKAHASHI / HAIR : DAIKI OKINAGA
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PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA / STYLING : RAMUDA TAKAHASHI / HAIR : DAIKI OKINAGA
PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA / STYLING : RAMUDA TAKAHASHI / HAIR : DAIKI OKINAGA
WWD:今日はJQさん的にはどこがポイントですか?
JQ:ギリギリで決まったんですけど、新鮮なスタイリングなので“NEW JQ”って感じですかね。中にはフィッシングベストを着てます。ちなみに「R.M ギャング」のフィッシングベストは、超大きくてペットボトルでもなんでも入るし、便利でいいですよ。
WWD:今気になるスタイルはありますか?
JQ:ベルトが絶対見えちゃうくらいトップスが短くて腕が長いシルエットが最近好きですね。あとは、ここ最近ラムダさんにハイウエストでインするスタイリングをしてもらうことが多かったんですけど、自分ではやらないスタイルの中で自分的にしっくりくるポイントが見つかったんで、今年もまた新たな糸口を見つけられればなと思っています。
WWD:世界的にはスニーカーブームが顕著ですが。
JQ:スニーカーもラムダさんがいろいろと教えてくれました。自分がスケーターだったのもあって、それまでスニーカーといえば「コンバース(CONVERSE)」や「ヴァンズ(VANS)」などのローテクばっかりだったんですけど、「ハイテクも履いてみようぜ」って言われてからはハイテクも履くようになって、「スポンジだな、俺」って思います(笑)。でもやっぱり新しい発見ができるのは楽しいので。
WWD:スニーカーはすぐ取り入れられるのがメリットですよね。
JQ:最初違和感があったりするんですけど、1週間くらい履き続けるともう戻れなくなったり、トレンドになってるものにとりあえずトライして、それを自分が似合うスタイルになじませることをよくやっていますね。ファッション業界に身を置いているわけではないですし、新しいものがどんどん作られているので「今これが流行っているんだ。せっかくだし着てみよう」って感覚で、わりかし楽に飛び込みがちです。
PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA / STYLING : RAMUDA TAKAHASHI / HAIR : DAIKI OKINAGA
WWD:昨年11月の武道館公演が夢の舞台だったということでしたが、次なる夢は?
JQ:武道館を終えたときに「このまま止まってしまうと終わっちゃう」って気がしたんで、クオリティや規模感、認知度も含めて、全てにおいてさらなる飛躍が目標ですね。少しでもいいので、去年よりもちゃんと成長することが大事かなと。