渋谷109が、開業40周年を迎える4月29日に新ロゴの点灯式を行った。渋谷スクランブル交差点を見下ろし、シリンダー型の建物の先端にある渋谷109のロゴは、単なる商業施設のサインにとどまらず、世界でもよく知られた東京のアイコニックな風景の一つだった。開業以来初となるロゴ変更の理由を、渋谷109の運営会社SHIBUYA109エンタテイメントの木村知郎社長は「日本のマーケットは大きく変わった。渋谷109も変わらなければならない。ロゴの変更を機に、過去をリセットして、いま一度独自性と存在意義を再設定する必要がある」と語った。かつて”ギャルの聖地”と言われた渋谷109は平成に何を置いていき、令和にどう変わるのか。
「ギャルはいま、渋谷にはいない。SNSの中にいる」――と言うのは、弱冠21歳(当時)で復刊したギャル雑誌「エッグ(egg)」の編集長に就任した赤荻瞳だ。彼女自身はかつて中学生時代から通っていた渋谷で、ギャルサー(ギャルサークル)に入って1000人単位のイベントを仕切っていたこともある。赤荻編集長が社長を務め、ウェブ版エッグを運営するエムアールエーの親会社エイチジェイの池田隼人代表もギャルサー出身だった。だがそのギャルサーも「かつては数え切れないほどあったけど、サークルも所属メンバーも激減している。昔は渋谷のセンター街に行けば誰かがいて、ギャルサーもあって、どんどんギャルの友だちが増えていった。でも今はインスタやTikTokでつながる時代」と指摘する。昔と言ってもわずか5〜6年前の話だが、それほどまでに激しく変わったとも言える。赤荻編集長は「一口にギャルと言ってもバリエーションはさまざま。だから私的にはギャルは外見じゃない。“自由とオシャレを求める魂”って定義している」。
渋谷109も、10年前の2008年度に280億円(WWDジャパン推定)あった売上高は、18年度には140億円程(同)と、約半分にまで落ち込んでいた。木村社長も「昔を振り返るつもりはない。ヤングファッションの聖地と言われ40年間発展してきたが、最近は独自性が失われ、売り上げも落ちていた」と率直に認める。ギャルが渋谷の街から減り続ける中で、渋谷109もテナント構成を見直し、オムニ型のポップアップスペースの導入や飲食などを導入してきたが、“ギャルの聖地”というイメージは社内外に強く、なかなか脱却できなかった。
木村社長は2年以上前から、開業40周年の19年4月29日をゴールと定め、ロゴ変更の準備を進めてきた。マーケティング機関「シブヤイチマルキューラボ(SHIBUYA109 lab)」を設立し、若者たちの生態を探った。「今は好きなブランドは?と聞いても『ありません』と答える若者が多い。その一方で好きなこと、楽しいことにはとことんお金を使う。いま商業施設に求められているのは、何を売っているかではない。行くこと自体にワクワクドキドキして、その体験や感動を共有できる場所」という仮説に行き着いた。昨年4月には旧マルキューメンズ館を“シブヤ系”を謳った飲食やエンターテインメント系のテナントを多数導入した「マグネット」としてリニューアル。体験型シフトへの手応えを掴んだ。
日本有数の知名度を持つ渋谷109のロゴならば多くのグラフィックデザイナーが手を挙げることも予想できたが、あえて一般公募制を取った。渋谷109の重要なキーコンセプトに“参加型、共有型”を掲げているからだ。「われわれが目指すのは、エクスペリエンス(体験)、アメージング(驚き)、ドリーミング(夢)の3つをテーマにした、新しいエンターテインメントリテールだ」。
ロゴのリニューアルを機に、ファッションに加え、フードやスイーツ、カフェなどの運営に乗り出す。6月には地下2階に「イマダキッチン」を開設し、複数の企業と一緒に商品開発し、実際に販売も行う予定だ。「若者たち、彼女・彼らの夢や感動が交差する新しいエンターテイメントプラットフォームにする。109は新ロゴとともにリ・ボーン(生まれ変わる)する。新ロゴは文字通り始まりのサインにしたい」。
奇しくも開業40周年のためのロゴリニューアルと、平成と令和という年号の入れ替わりが交わった。渋谷109は、再び令和を彩る若者の聖地へと生まれ変われるか。