約半年前(2018年10月)に取材した北千住のセレクトショップ、アマノジャクの定点観測を続けている。着々と売り上げを伸ばしており、月商は500万円を優に超えるそうだ。取材当時からは1.5倍以上、オープン直後(同年8月)からすれば約4倍の規模に達した。取材時に目標に掲げていた「月次売り上げ1000万円」(共同経営者の大津寿成さん)に順調に近付いている。
記者と同年代(20代後半~30代前半)の3人による共同経営とあって、応援したい気持ちはもちろんあったが、「こんなセレクトショップの不毛地帯でお店が運営できるのか……?」と一方で疑問を感じていたのも事実。だが、彼らは良い意味で予想を裏切ってくれている。北千住駅から徒歩10分程度の“天の邪鬼”な立地は、都心のショップとはまた違う客を呼び込んでいるようで、東東京や他県のファンもしっかり付いているようだ。
地道な接客努力が実を結ぶ
販売成約率は50%以上。オープン当時から信条としていた「まごころ接客」は、しっかり結果に結びついている。立地が立地なこともあり、来店客は1日平均10~15人程度と、決して多くはない。だからこそ、客一人一人の服の好み、職業、趣味といった情報は「カルテ」としてファイリングし、何よりも大切にしている。再来店の客の顔を覚えていないなんてことはないし、カルテを基にした手厚い接客に加え、服を選んでいる間は無料で靴磨きもしてくれる。
地道な努力は顧客の継続的な来店につながっており、18年秋冬は「100万円以上買ってくださるお客さまもいた」という。また、都会と下町の雰囲気が混じり合う、この地域ならではのエピソードも。「この前はふらっと立ち寄ってくれた近所のおばあちゃんが、(山形のニットブランドの)『バトナー(BATONER)』のニットを買ってくださいました」(大津さん)。
他では出合えない別注企画
同店は今秋冬、ユニークな別注商品にも取り組む。主要顧客層は20代だが玄人好みな商品も人気で、今回の協業相手である「マイヌ(MAINU)」もそんな服を作るブランドの一つ。ビンテージテイストのメンズブランド「ハバーサック(HAVERSACK)」で経験を積んだデザイナーの真鍋嘉伸氏が「サカイ(SACAI)」の元パタンナーとともに手掛け、クラシックを基本に置きながら独特のパターンや素材使いが特徴的。14年春夏のスタートからじわじわと取扱高を増やしているが、特にアマノジャクとの相性はよく、商品は「入荷とともに即完売している」という。
別注商品は、救命胴衣から着想を得たベスト(3万8000円)と、膝部にベルトを施したワイドカーゴパンツ(4万2000円)の2型で、インラインのテーラードジャケット(5万2000円)、ウールのプルオーバー(3万1000円)と合わせて4ピース(!)で着用できる。ジャケットの上からベストなんて、ごちゃごちゃした印象になるかと思いきや、滑らかな光沢をたたえた黒色のチョークストライプの生地が絶妙にマッチして、意外とすんなりハマる。「素材や色を少し変えただけの“なんちゃって別注”には、もう皆飽き飽きしているのでは。ウチじゃないと出合えないようなものを作ってこそ、お客さまに喜んでもらえるはず」(大津さん)。別注アイテムは先行予約は6月2日まで受け付けている。
ECの台頭やセレクトショップの品ぞろえの同質化などもあり、実店舗の役割が見えづらくなっている昨今。だが、そこでしか出合えないヒトやモノがあれば、わざわざ足を運ぶ理由にもなる。「地域のオンリーワン」であり続けようという彼らの姿勢は、小さなショップがこれからの時代を生き抜くための、一つの正しいあり方ではないかと感じさせられる。