アダストリアは主力ブランド「ニコアンド(NIKO AND...)」の中国出店に乗り出す。年内に上海に旗艦店をオープンし、ここを拠点にしたドミナント(地域集中出店)戦略によって認知度を高める。全社の営業部門のトップでありながら、現地駐在で陣頭指揮を執ることになった北村嘉輝取締役を上海で直撃取材した。
WWD:中国の暮らしには慣れた?
北村嘉輝取締役(以下、北村):慣れるも何も一昨日(6月4日)引っ越したばかりだ(笑)。しばらくは日本と中国を頻繁に行き来する生活になるだろうが、いずれ月の3分の2は中国で働き、3分の1で日本や東南アジアを見るようになる。アダストリアの取締役営業統括本部長として全エリアに目を配らなければならないが、日本はある程度チームに任せることになるだろう。海外での成長基盤を作ることが私の当面のミッションだ。
WWD:中国でアダストリアは複数のブランドを集積した「コレクトポイント(COLLECT POINT)」業態を展開してきたが、2019年2月期(前期)には不採算・低収益の40店を閉じた。中国市場は何が難しいのか?
北村:変化のスピードが速い。日本とは比較にならないくらい速い。中国で成功している日本のブランドは「ユニクロ」と「無印良品」くらいで、当社を含めた多くは対応できていない。日本の成功モデルをちょっといじったくらいでは通用しないことを痛感している。中国市場をリスペクトし、中国のお客さまが望んでいることは何かをとことん考え抜かないと。そのために私が現地に乗り込んで、当社で一番勢いがある「ニコアンド」で勝負することを決めた。
突き抜けた旗艦店でなければ
勝負にならない
WWD:アダストリアは海外売上高の比率が現状で1割に満たない。営業統括本部長が上海駐在になるのは異例では?
北村:中国を含めたグローバル市場で戦える基盤を作ることは、アダストリアの今後のために極めて重要な仕事であり、本腰を入れなければいけない。営業部門の責任者である私が駐在し、中国市場を理解した上で素早く策を講ずる。日本から見た中国市場ではなく、世界の先端を走る中国から見て日本市場をこうすべきという発想につなげる。商品やMDについてはヘッドクオーターの日本がリードする形を継続しつつも、アダストリアの社員が常にグローバルを意識するようにしたい。
WWD:19年2月期の「ニコアンド」の国内売上高は前期比9%増の309億円。先に進出した韓国や台湾でも滑り出しは好調で、アダストリアにとって切り札のようなブランドだ。
北村: 年内にオープン予定の上海の旗艦店は、これまでの「ニコアンド」より数段上のステージに上げるプロジェクトになる。3フロアで売り場面積は約2000平方メートル。東京・原宿の旗艦店「ニコアンド トーキョー」のほぼ2倍に相当する。当社としても経験したことのないスケールになる。
WWD:ここまで大きな旗艦店にする理由は?
北村:原宿と同じ規模ではダメだ。圧倒的なものを作らないと勝負にならない。中国のお客さまはもちろん、上海を訪れる世界中のお客さまが「『ニコアンド』ってすごい」と感動してもらえる店でないと旗艦店とは呼べない。日本でやり慣れた坪数(売り場面積)ではなく、思い切り背伸びしたスケールで挑戦し、私たちに足りないものを習得していく。これまでにない最大で最高の「ニコアンド」を作り上げる。
WWD:足りないものとは具体的にどんな分野か?
北村:まだ内緒。日本と中国のライフスタイルは違うけれど、「ニコアンド」は服だけでなく、たくさんのカテゴリーがあるのでうまくフィットできるだろう。中国の企業やブランドと協業することも考えている。上海の旗艦店でしか出合えないコンテンツを充実させる。
来年から上海エリアで
集中的な出店を開始
WWD:出店予定地はどんな場所なのか?
北村:多くの有名ブランドが軒を連ねる淮海中路(ワイハイジョンルー)沿いだ。出店エリアの周辺はグローバルブランドの大型店がたくさんあり、ファッション感度の高い若者が買い物を楽しんでいる。通りを挟んで隣にある(15年に開店した)「無印良品」の旗艦店とは、3階部分が連絡通路でつながっている。
WWD:今後の中国での事業計画は?
北村:まずは圧倒的な旗艦店で「ニコアンド」を知ってもらう。併行して来年からはドミナント戦略を進める。上海エリアに330〜495平方メートルの標準店の出店を重ねる。北京や成都など他の大都市にばらばらと出店するのではなく、まずは上海での集中的な出店で認知を確立する。
WWD:ECは?
北村:旗艦店オープンと前後して有力ECモールや自社ECでの販売を始める予定だ。ただ当面は旗艦店の訴求力でブランドの認知を図ることが第一だと考えている。リアル店舗でブランドを確立できなければ、ECでも売れない。日本では自社ECモール「.st(ドットエスティ)」でリアル店舗とECのシームレス化が進んでいる。ECやデジタルマーケティングにおいても、日本とは別の手法を考えている。