カウズ PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
ニューヨークを拠点に活動するアーティスト、カウズ(KAWS)ことブライアン・ドネリー(Brian Donnelly)。ディズニーでアニメーターとして働いていたことが象徴するポップな色使いのグラフィティーで早くからその名を知られ、1990年代から現在に至るまでストリートを代表するアーティストとして最前線をひた走ってきた。20年近く第一線で活躍する間、表現方法は平面的なものから彫刻やトイなどの立体物まで広がり、それに応じて扱う素材は絵の具やスプレーからブロンズ、ウッド、アルミニウムに、サイズも数十cmから数十mと多様になり、柔軟な発想力でさまざまな作品を生み出してきた。
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「カウズ:ホリデイ ジャパン」で展示された全長40m超えの巨大コンパニオン PHOTO : nk7
「カウズ:ホリデイ ジャパン」で展示された全長40m超えの巨大コンパニオン PHOTO : AllRightsReserved
「カウズ:ホリデイ ジャパン」で展示された全長40m超えの巨大コンパニオン PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
「カウズ:ホリデイ ジャパン」で展示された全長40m超えの巨大コンパニオン PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
「カウズ:ホリデイ ジャパン」で展示された全長40m超えの巨大コンパニオン PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
「カウズ:ホリデイ ジャパン」で展示された全長40m超えの巨大コンパニオン PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
「カウズ:ホリデイ ジャパン」で展示された全長40m超えの巨大コンパニオン PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
「カウズ:ホリデイ ジャパン」で展示された全長40m超えの巨大コンパニオン PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
「カウズ:ホリデイ ジャパン」で展示された全長40m超えの巨大コンパニオン PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
そんな彼が先日日本で発表したのは、アクリル絵の具で描いたペインティングでもブロンズ製の彫刻でもない、全長40mを超す巨大なビニール製のバルーン作品だった。これは目が×印のカウズの代表的なキャラクター「コンパニオン(COMPANION)」の巨大作品が“世界中を旅する”というコンセプトのプロジェクト「カウズ:ホリデイ(KAWS: HOLIDAY)」の一環で、2018年7月に韓国・ソウルで初開催され、その後19年1月に台湾・台北、19年3月に中国・香港とアジア3都市で巨大コンパニオンを展示。そして、4都市目の開催地として静岡が選ばれた。仕掛けたのは、香港を拠点とするクリエイティブスタジオのオール ライツ リザーブド(All Rights Reserved以下、ARR)。ARRのクリエイティブ・ディレクターを務めるエスケイ・ラム(SK LAM)は、香港随一のプロデューサーとしてカウズをビジネス面で支える一方、長年の友人でもある。
カウズ(左)とエスケイ・ラム PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
展示初日の7月18日、開催地の「ふもとっぱらキャンプ場」でカウズとエスケイの2人に話を聞く機会を得ることができた。普段は多くを語りたがらないカウズだが、自然溢れる富士山の麓で気心知れたエスケイとのインタビューということもあってか、終始リラックスした状態で静岡での開催理由から、今後の「カウズ:ホリデイ」の展開、アートとファッションの関係までを語ってくれた。
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展示「パッシング スルー」の様子 オール ライツ リザーブドの公式サイトから
展示「パッシング スルー」の様子 オール ライツ リザーブドの公式サイトから
展示「パッシング スルー」の様子 オール ライツ リザーブドの公式サイトから
展示「パッシング スルー」の様子 オール ライツ リザーブドの公式サイトから
展示「パッシング スルー」の様子 オール ライツ リザーブドの公式サイトから
WWD:まずは2人が一緒に仕事をするようになった経緯から教えてください。
カウズ:エスケイ、君が話してくれ。僕は覚えてないから(笑)。というのは冗談で、ずっと前からお互いに知っていてグループでプロジェクトを進めることはあったんだ。でも初めてちゃんと一緒に仕事をしたのは2010年10月に香港のハーバーシティーで行った展示「パッシング スルー(PassingThrough)」かな。
エスケイ:それから幾度となく仕事をしているけど、「パッシング スルー」はもう10年も前になるのか……光陰矢の如しだね。
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「カウズ:ホリデイ ソウル」の様子 PHOTO : AllRightsReserved
「カウズ:ホリデイ ソウル」の様子 PHOTO : AllRightsReserved
「カウズ:ホリデイ タイペイ」の様子 PHOTO:AllRightsReserved
「カウズ:ホリデイ タイペイ」の様子 PHOTO : s.yin.h_
「カウズ:ホリデイ タイペイ」の様子 PHOTO : rkrkrk
「カウズ:ホリデイ ホンコン」の様子 PHOTO : gareth.hayman
「カウズ:ホリデイ ホンコン」の様子 PHOTO : nk7
「カウズ:ホリデイ ホンコン」の様子 PHOTO : harimaolee
「カウズ:ホリデイ ホンコン」の様子 PHOTO : harimaolee
WWD:長年ビジネスパートナーである中で、18年から「カウズ:ホリデイ」をスタートしたきっかけは?
エスケイ:たしか17年11月にカウズから、「興味ある?」ってメッセージと寝っ転がったコンパニオンのスケッチが急に送られてきたんだ。とにかくクレイジーなスケッチだったから驚いたんだけど、面白そうだったから協力することにした。それが「カウズ:ホリデイ」の始まりさ。そのスケッチは今じゃどこを探しても見つからないんだけどね……。
カウズ:2人で何か別のプロジェクトの話をしているときに何となく思いついた気がするけど、僕らのプロジェクトは全部こんな感じでスタートしているんだ。思いついたプロジェクトをとりあえずエスケイに投げておくと、彼はそれを形にしてくれるんだ。君も“エスケイ的な存在”をつくっておくといいよ(笑)。にしても初開催のソウルが1年前だなんて信じられないね。最近いそがし過ぎるせいか大昔に感じるよ。
WWD:なぜソウルを初開催の地に選んだのでしょうか?
エスケイ:特に計画していたわけじゃないんだけど7月に披露したいと思っていて、スペースやさまざまな条件で開催場所を絞っていたらソウルの関係者が興味を示してくれた。だから本当に意味はなくて自然な流れで決まったんだよ。
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WWD:4都市目の開催地を東京ではなく静岡のキャンプ場に決めた理由は?
カウズ:エスケイと僕のチームとみんなで相談して、最初は富士山の麓でやる案を前提に、きれいだからって理由で山を背景にした湖にコンパニオンを浮かべることを構想していたんだ。でも現実的に厳しくて、代わりにキャンプ場でやるアイデアを思いついたんだ。キャンプ場であれば当初考えていた湖よりは東京から近いし、周りにキャンプする人がいた方が楽しくてつながりも感じられるかなって。
エスケイ:ソウル、台北、香港と回ってきた経験を生かしつつ他都市とは違う新鮮味がほしくて、人々がシリアスな気分になる都会的な場所よりもリラックスできる場所で開催したいと思ったのさ。
WWD:都会的な他3都市とは対照的な、言ってしまえば田舎の場所を選んだ理由が疑問だったのですっきりしました。
カウズ:前回の香港を筆頭に、テーマが“ホリデー”なのに開催期間中はめちゃくちゃいそがしくて疲れたんだ(笑)。だから意識的に自然の中で開催したいって気持ちがあったんだよ。
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静岡での展示前に「としまえん」で行われたテスト設置の様子 PHOTO : nk7
静岡での展示前に「としまえん」で行われたテスト設置の様子 PHOTO : rkrkrk
WWD:今回のコンパニオンは「カウズ:ホリデイ」としてだけでなく自身としても最大の作品ですね。
カウズ:これに関しては、エスケイと彼のチームが本気で魔法使いだと思っている。コンパニオンはそこまで複雑な作りのキャラクターでもないし、今回の作品は表面的にはすごくシンプルに作られているように見えるんだけど、シンプルなものこそ中身や過程が複雑で、そのすごさは全て裏側に隠されているんだ。素材はビニールで空気で膨らませるバルーンタイプなんだけど、ブロンズ像や木造に比べて移動や設置が楽なのがいいところ。でも風など自然環境にはめっぽう弱くて、それが予想できなくて難しかったね。
エスケイ:ソウルと香港の作品もバルーンタイプで、サイズはソウルが28mで香港が37m。今この2つは香港の倉庫で保管しているよ。
WWD:これまではアジア圏での開催でしたが、ほかの都市や地域での開催は計画していますか?
カウズ:「カウズ:ホリデイ」は「次はどうしよう、次もやらなくちゃ」ってプレッシャーを感じずにやることが目標みたいなものだから、もし機会があってそれが面白そうで、プロジェクトに新たな面を加えてくれるようなものだったら喜んで開催するよ。でもエスケイはしばらく休みたいと思っているんじゃないかな(笑)。
カウズ(左)とエスケイ・ラム PHOTO : YOSHIAKI HIKINUMA
WWD:先ほど「カウズ:ホリデイ」は思いつきでスタートしたと話していましたが、カウズさんが作品を生み出すきっかけはひらめきが多いんでしょうか?それとも感情の変化や爆発からでしょうか?
カウズ:僕の妻に聞いてもらったら分かるけど、僕が感情を爆発させることなんて全くないんだよ(笑)。だからどっちかと言えばひらめきが多いかな。
エスケイ:この間、誰かがカウズの顔を見て「怒ってるの?」って聞いてきたんだけど「いや、もとからああいう顔なんだ」って答えたくらい彼は感情が表に出ないんだよ(笑)。
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2012年に行われた百貨店メイシーズ(Maysy’s)による感謝祭パレードの様子 カウズの公式インスタグラム(@kaws)から
2012年に行われた百貨店メイシーズ(Maysy’s)による感謝祭パレードの様子 カウズの公式インスタグラム(@kaws)から
WWD:今回のコンパニオンはビニール製で、普段の作品の素材とは異なるかと思いますが、制作における一貫したルールなどはありますか?
カウズ:一切ないんだ。物事に対しては常にオープンマインドでいる必要があって、ある状況でいいものが別の状況でもいいとは限らないからね。面白いのは、君が言うように僕はこれまでブロンズやウッドをメインの素材にずっと制作してきたから、空気で膨らませるバルーンタイプの作品は“ズル”だと思っていた。でも、2012年に百貨店のメイシーズ(Maycy’s)が毎年行っている感謝祭パレードのためにバルーンタイプのコンパニオンを制作したとき、とても効果的な手法だと思ったし楽しかったんだ。その翌年にも、「MTVビデオ・ミュージック・アワード(MTV VIDEO MUSIC AWARDS)」で同様に18mのコンパニオンを手掛けたんだけど、一晩のイベントなのに設置がとにかく大変で、それだけで丸々2日もかかったにもかかわらず、利点のほうが多いと感じたのさ。
エスケイ:カウズがバルーンタイプの作品を手掛けるようになった背景には、テクノロジーの進化も大きいね。10年前にバルーンタイプの作品を作るとなると、彫刻などと比べてあまり出来がいいものじゃないし、極めて簡単な形のものに限定されていた。でも技術発展のおかげで今はかなり複雑なものが作れるし、より大きなものも作れるようになったんだ。
WWD:「カウズ:ホリデイ」はアジア圏での開催でしたが、ニューヨークを拠点とするカウズさんから見て欧米とアジアでアートを取り巻くシーンに違いはありますか?
カウズ:シーンを理解するためには外に出ないといけないけど、正直に言うとニューヨークにいるときはずっと家にいるからアートシーンがどんな状況なのかよくわかってないんだ(笑)。僕は旅をするのが好きで、さまざまな環境や違う都市に身を置くことを楽しんでいるけど、アジアはいつも温かく迎えてくれるから好きな土地だよ。ニューヨークでも「カウズ:ホリデイ」を開催したらみんながキャンプしに来てくれたらうれしいね。
エスケイ:相手が誰であれ、しっかりと向き合い信頼を築くことがどこのシーンでも重要かな。信頼を得るのが難しいアーティストも多いけど。
WWD:ここ数年、アートとファッションがより蜜月関係になっていると思いますが、どう見ていますか?
カウズ:僕からすると、1990年代にはすでにアートとファッションを隔てる境界線はなかったと思うよ。
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「ユニクロ」とは2016年から協業をスタートした。画像は2018年6月に発売された「UT」 × カウズ × 「セサミストリート」のトリプルコラボTシャツの一部
「ユニクロ」とは2016年から協業をスタートした。画像は2018年6月に発売された「UT」 × カウズ × 「セサミストリート」のトリプルコラボTシャツの一部
「ユニクロ」とは2016年から協業をスタートした。画像は2018年6月に発売された「UT」 × カウズ × 「セサミストリート」のトリプルコラボTシャツの一部
「ユニクロ」とは2016年から協業をスタートした。画像は2018年6月に発売された「UT」 × カウズ × 「セサミストリート」のトリプルコラボTシャツの一部
WWD:と言っても、「ユニクロ(UNIQLO)」とのコラボをはじめ“アートのマス化”という点でファッションが貢献している部分は大きいのではないでしょうか?
カウズ:そういう意味では取り巻く環境が以前とはずいぶん変わったし、変わっていないと言えばウソになるね。これまで多くの企業やブランドとコラボをしてきたけど、どれも限定品であるがゆえに希少品になり転売されてきた。これが嫌で退屈だと思っていた。だから作品を世界中に届けてくれる信頼できる企業と仕事ができたらいいなと思っていたら、「ユニクロ」からコラボの話があったんだ。2000年代前半であれば、僕の作品があしらわれたTシャツを着ているのは、僕の知り合いか、知り合いの知り合いぐらいの距離感だった。でも今や娘と一緒に公園に行けば娘の友だちが着ている。その子たちは僕が誰かなんて知らなくて、僕を見てもまばたき一つしないけどね(笑)。
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「ディオール」2019年春夏メンズ・コレクションのフィナーレの様子。会場中央には7万本のバラで作られた全長10mのコンパニオン BFFが設置されていた PHOTO : ADRIEN DIRAND
2016年に発売された「ナンシー・ゴンザレス」とのコラボバッグの一部 WWD (c) Fairchild Fashion Madia
2016年に発売された「ナンシー・ゴンザレス」とのコラボバッグの一部 WWD (c) Fairchild Fashion Madia
2016年に発売された「ナンシー・ゴンザレス」とのコラボバッグの一部 WWD (c) Fairchild Fashion Madia
2016年に発売された「ナンシー・ゴンザレス」とのコラボバッグの一部 WWD (c) Fairchild Fashion Madia
WWD:同時期(18年6月)に「ディオール(DIOR)」とのコラボも発表していましたね。
カウズ:キム・ジョーンズ(Kim Jones)が「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」にいる時から「何かやりたいね」という話はしてたんだけど、「ディオール」とのコラボは僕自身素晴らしいものになったと思っているよ。これまで「ナンシー・ゴンザレス(NANCY GONZALEZ)」とはバッグ、「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」とはシューズ、「アンダーカバー(UNDERCOVER)」や「ア ベイシング エイプ(R)(A BATHING APE(R))」とはTシャツを発表してきたように、「ディオール」がハイエンドだからとか、それ以外がローエンドだからとかでコラボを敬遠したことはこれまで一度もない。800ドルのパンツに14ドルのTシャツを合わせるようなミックス感が好きだから、ブランド側がどう思うかは置いといて“ハイ”の「ディオール」と“ロー”の「ユニクロ」のコラボをほぼ同時期に発表したんだ。
WWD:最後に、こうした大掛かりなプロジェクトをはじめアーティストとして活動するにはビジネスマンとしての手腕も試されます。アートとビジネスの関係はどうお考えですか?
カウズ:僕は昔から、自分がやりたいことをやりながら成功するにはどうしたらいいかを考えるのが好きで、商売気がもともとあったんだ。アーティストとして生きていくためにはビジネス面で賢くある必要は大切さ。
エスケイ:やりたいことをやるために資金が必要なことは間違いない。ただ、僕は発注された商業系のプロジェクトもやるけれど、アートは本来もっとカルチャーやインスピレーションを探索したり、表現したりするための意義深いものであるべきだ。そうあることが難しいんだけどね。