ファッション

カニエ・ウェストの元スタイリストが手掛ける「ダリル ブラウン」と「ミッドウエスト キッズ」とは?

 全米3位の人口を有するシカゴを筆頭としたアメリカの中西部、いわゆる“ミッドウエスト”は、カニエ・ウェスト(Kanye West)やヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)ら、現代のメンズ市場を動かす男たちの出身地として知られる。同じくミッドウエスト出身のダリル・ブラウン(Darryl Brown)は、自身の名を冠した「ダリル ブラウン(DARRYL BROWN)」と「ミッドウエスト キッズ(MIDWEST KIDS)」のデザイナーだ。彼を一躍有名にしたのが、カニエ・ウェスト(Kanye West)の元スタイリストという経歴で、4月に来日したカニエが“MIDWEST KIDS”と書かれたパーカを着ていたことは、ファンの間で記憶に新しい。ダリルはこのほど、バーニーズ ニューヨーク六本木店にイベントの為、来店。デザイナーとして本格的にキャリアをスタートしたダリルに、ブランドのことや自身のルーツのこと、スタイリスト時代のことなどを聞いた。

WWD:ファッション業界の前は鉄道会社に勤めていたとか。

ダリル・ブラウンデザイナー(以下、ブラウン):僕はオハイオ州の小さな街出身で、その街の鉄道会社で働いていたんだ。数年後に地元で友達がセレクトショップを始めたから、そこで働かせてもらうことにした。当時はストリートブランドの全盛期で、「ロックスミス(ROCK SMITH)」(日本人のDJ MASTER KEYが立ち上げたNYを拠点とするストリートブランド)を取り扱っていたんだけど、彼らが店に視察に来た時に「君はNYに来た方がいい。仕事は用意するから」と誘ってくれて、それがきっかけでNYに行くことにした。「ロックスミス」では7年間働いたんだけど、ラッパーのマシン・ガン・ケリー(Machine Gun Kelly)からスタイリングを頼まれて、スタイリストとしての活動をスタートした。最後のクライアントはカニエ・ウェストで、自分のブランドを立ち上げた去年までの4年間、カニエのスタイリストをしていたんだ。

WWD:ブランドを立ち上げた経緯は?

ダリル:「イージー(YEEZY)」(カニエの手掛けるブランド)の仕事で、レファレンスとなるモノを世界中から探していたから、僕もそのチームの一人として、世界中のいろんな都市に行っていた。でも最後の1~2年はもう買いたいモノが無くなってしまって……。それなら、自分たちが着たいモノを作った方がいいなと考えた。それがブランドを立ち上げたきっかけだね。

WWD:「ダリル ブラウン」と「ミッドウエスト キッズ」、それぞれのブランドコンセプトは?

ダリル:「ダリル ブラウン」は自分のクリエイションを反映したブランドで、ワークウエアがベースとなっている。コンセプトは、例えば「カーハート(CARHARTT)」や「ディッキーズ(DICKIES)」といった既存のワークブランドにはない、まるで「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」みたいなエレガントなワークウエア。一方で「ミッドウエスト キッズ」はセカンドラインという位置付けで、ストリートウエアとして発信している。アメリカだとミッドウエスト出身と言うと、まるで異国のような印象を持たれるけど、ミッドウエストの素晴らしさをメッセージとして伝えたかったんだ。20年かけて、誰でも気軽に着られる「チャンピオン(CHAMPION)」のようなブランドに育てたいと思っている。

WWD:スタイリストの経験が今の仕事に生かされていると思うことは?

ダリル:今僕がこうしているのは、スタイリストの経験がものすごく生きているけど、販売員だったり、ブランドのマーケティングマネジャーだったり、ストックルームで在庫を整理していたことでさえ、全てが大事な経験だよ。そういう経験がコレクションには反映されていて、それを感じてもらえたらいいなと思う。ラッパーは言葉で自分のメッセージを伝えるけど、僕は洋服を通して“自分はこんな人間なんだ”って伝えていきたいからね。

WWD:「ミッドウエスト キッズ」は4月に来日したカニエも着ていましたね。

ダリル:カニエとは、僕が自分のブランドを始めた時から別の道を歩むことになったんだけど、今でもいい関係は続いている。まるで兄や師匠のような存在だね。カニエと一緒に働くことで学校では学べないことをたくさん学んだ。カニエに「ミッドウエスト キッズ」のパーカを贈ったら着てくれたんだ。とても頭のいい人だから自分が着て外に出れば写真を撮られることだってもちろん分かっているけど、それを分かった上で着てくれた。今でも僕のことをサポートしてくれているということを実感しているよ。

WWD:カニエやカニエが輩出した人たちが今のメンズトレンドマーケットの中心にいることについてはどう思う?

ダリル:ヴァージル(・アブロー)とかドン・Cとか、“Ye大学”(カニエのニックネームである“イェー”を付けたチーム名)の出身者だよね。自分もそのうちの一人で、外から見たらトレンドって思われるかも知れないけど、みんなそれぞれ自分のストーリーを持っていて、そのメッセージを伝えることが何よりも大事だと思っている。ステレオタイプな言い方だけど、カニエやヴァージルは、子どもたちに「こうやってアメリカンドリームを掴むんだ」ってメッセージを発信しているんだよ。

WWD:今後のビジョンは?

ダリル:今のファッションシーンを例えるなら“沸騰したお湯”みたいなものだよ。お湯がこぼれると水を足さなければならないから、今は水を足すことが必要な変革期だと思う。僕のやっていることは、ちょっと先の事かも知れないけど、シルエットやシェイプ、色、生地にこだわったシンプルな洋服でロゴだけじゃない。「バレンシアガ」や「オフ-ホワイト」のロゴですら、6カ月後には“古い”って言われる中で、僕は5年後、10年後に着られるような服作りをしたいんだ。ファッションショーではみんな派手な洋服を作るけど、ショーの最後にデザイナーが登場した時は、すごくシンプルな格好だよね。僕はそれが最終的なファッションの答えなんじゃないかと思っている。シンプルで何も主張しないけどほかとは違う、そういうブランドを目指している。

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