ファッション

マドンナも「ディオール」も熱視線 アフリカのファッションがアツい

 ビヨンセ(Beyonce)は新曲「スピリット(Spirit)」のMVでセネガルのブランド「トンゴロ(TONGORO)」を着用し、ナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)はナイジェリア・ラゴスで開催されたアライズ・ファッション・ウイークでキャットウオークを披露した。「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ」では南アフリカのテーベ・マググ(Thebe Magugu)「テーベ マググ」デザイナーとナイジェリアのケネス・イズドンモウエン(Kenneth Izedonmwen)「ケネス イズ」デザイナーが2019年ファイナリストに選出された。今まさに、アフリカのファッションが国境を超えて脚光を浴びている。

 特に顕著な変化を見せているのがモロッコ中央部に位置する都市、マラケシュだ。17年にイヴ・サンローラン美術館が開館したこの地では、ファッションやアート、写真、ダンス、音楽をけん引する新たな世代のクリエイターが数多く登場し、ファッションに関するニュースも途切れることがない。

 昨年60歳の誕生日を迎えたマドンナ(Madonna)は自身のポートレートの撮影に、“マラケシュのアンディ・ウォーホル”として知られる芸術家のハッサン・ハッジャージュ(Hassan Hajjaj)とファッションデザイナーのアミーネ・ベンドリウィッチ(Amine Bendriouich)を起用した。07年にユニセックスブランドを立ち上げたベンドリウィッチは「当時は何もなかった。モロッコには4、5人のデザイナーしかおらず、彼らもクチュールか刺しゅうのどちらかの職人だった。どうやって生計を立てるのかとたびたび聞かれたものだった。それから今日になると、写真家、ブロガー、モデルとなる若い子が増えてきた。これはほんの始まりに過ぎないが、マラケシュに根付く美学は非常に力強いのだ」と話す。

 こういった現状にラグジュアリーブランドも注目し始めている。「ディオール(DIOR)」は今年4月に、マラケシュのエルバディ宮殿で20年プレ・スプリング・コレクションを発表した。飛行機2機をチャーターしてゲストを招待し合計110ルックを披露して、同時にアフリカのゲストデザイナーを招いた展示会も開催した。

 コレクションの中心となったのは、職人の技術を用いて伝統的なファブリックを生産するコートジボワールの工場、ユニワックス(UNIWAX)がデザインしたワックスパターンだ。同社のクリエイティブ・ディレクターであるアナベル・オリヴィエ(Annabel Olivier)は、「今回の『ディオール』のコレクションはわれわれがグローバルに販路を広げるチャンスとなった。現状ではアフリカでのみ販売しているが、新しいマシンに投資をし、オンライン販売のウェブサイトも開発している。今後は生地のカスタマイズにも応じられるようになり、これまで手が届かなかった多くの新しい市場が開拓できるだろう」と期待する。

 さらに「ディオール」の親会社であるLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)は社内誌でアフリカに関する特集を組んだ。その中でコンサルタントのコラリー・オンバ(Coralie Omgba)は「17年に59億ドル(約6254億円)ほどだったアフリカ大陸のラグジュアリー市場は今後5年間で30%成長する」と予測している。

■「アンリアレイジ」森永邦彦が「LVMHプライズ」ファイナリストにノミネート

 「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ」でファイナリストに選出された2人のデザイナーもアフリカの勢いに胸を踊らせる。テーべ・マググは3月のパリ・ファッション・ウイークで開催されたカクテルパーティーで、「これまでアフリカのファッションはちょっとしたスパイスを加えるものくらいに見過ごされてきた。しかし今はかなりエキサイティングでバブルのようなことが起きている」と話した。

 同時にファイナリストに選出された「ケネス イズ」のブースでは、ベルナール・アルノー(Bernard Arnault)LVMH会長兼最高経営責任者と長女のデルフィーヌ・アルノー(Delphine Arnault)「ルイ・ヴィトン」エグゼクティブ・バイス・プレジデントが、コレクションで使用した伝統的な布地に興味を示して立ち止まったという。デザイナーのケネス・イズドンモウエンは「夢みたいだった」と語り、「私がドイツのウィーン応用美術大学に留学するという道を選んだのは、これまでアフリカのデザイナーを見たことがなかったからだ。少しずつグローバルなブランドになりつつありとてもうれしい。これが私のしたかったことだ」と続けた。

 「これらは間違いなく素敵な兆候だ」と、「アダマ パリス(ADAMA PARIS)」のデザイナーでありブラック・ファッション・ウイークとダカール・ファッション・ウイークの創始者であるアダマ・ンジャイ(Adama Ndiaye)は言う。「2つのファッション・ウイークのプラットフォームをつくってから17年の月日が経った。数年前までは業界の人に足を運んでもらうことでさえとても苦労していたが、今では全てがとても簡単になった。インターネットがアフリカを世界に開かせたのだ」と続ける。

 9月にパリで開催される次のブラック・ファッション・ウイークでは、南アフリカ、ナイジェリア、セネガル、コートジボワール、モザンビークのデザイナーをフィーチャーする。しかし、問題はまだまだ山積みだ。彼女はダカールに衣料品工場を開設するために投資家を探しているが、金銭的な助成が不十分だという。「私たちはデザイナーを援助するために小さなファンドを設立し、私個人も5万ユーロ(約590万円)を投資した。しかし私はマザー・テレサではない。金銭的な行き詰まりを感じることも多い。政府がインフラを支援し、推進する必要がある」と主張する。

 「ディオール」のショーに協力した西アフリカのブルキナファソ出身のデザイナー、パテオ(Pathe’O)もンジャイの意見を繰り返した。「受賞などを通して認められたデザイナーたちが活躍するために、生産体制を確保し政府の支援を受けることが重要である。そうすればアフリカがこの戦いを制する日は近いだろう」。

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