ミドル・アッパー向けのメンズファッション誌が軒並み好調だが、なかでも、創刊11周年目の「サファリ」の強さが光っている。海外セレブのスナップ写真をベースに、カリフォルニア・スタイルを提案し続けているが、気づけば部数は大人のメンズ向けファッション誌の中でダントツの実売16万部という、驚くほどの数字を記録している。また、女性セレブのスナップや、アスリート向け、最近ではニューヨークスタイルのムック本を打ち出したり、通販サイトを拡充するなど、新しい収益モデルの構築も進んでいる。総勢17人を率いる榊原達弥・編集長と、彼を支える副編集長からは、穏やかな中にある強いこだわりが垣間見える。
WWDジャパン(以下、WWD):中堅出版社の星ともいえる「サファリ」。創刊1年後に編集長に就任してから10年になるが?
榊原達弥・編集長(以下、榊原):確かに長くなりました。ただ、大手出版社やブランドの方々とも話をしていて、男性誌の方が媒体数が少なく、しかも各々が個性が強いので、編集長が代わると媒体の内容も変わってしまうし、クライアントも戸惑ってしまう。そういう意味でも、「サファリ」は創刊時から変わらず、コンセプトを貫き続けられているのが好調の要因なのかもしれないですね。
WWD:改めて、「サファリ」のコンセプトとは?
榊原:「いくつになっても冒険野郎」をキーワードに、海が好きな大人の男のためのライフスタイル誌を追求し続けてきました。セレブのスナップ写真をもとに、男性が目指したいスタイルをキュレーションして提案しています。等身大すぎてもモードすぎてもダメ。リアルと夢とのバランスは大切。また、常にカリフォルニア・ムードを忘れずに、西海岸が好き、いいな、と思う人と共感を持てるような作りを心掛けています。
WWD:「モノが動く、モノが売れる雑誌だ」と言われることに対しては?
榊原:ありがたいこと。最近、若い読者の方々も増えているので、夢を与えることを特に強く意識しています。「服は値段じゃなくて、エモーショナルで買う方が楽しいよね! ?」というメッセージを伝え続けたいです。
WWD:最近の販売動向は?
榊原:昨年、10周年を迎えた際、ちょうど取次会社の販売キャンペーン時に、男性誌の中で選んでいただいたこともあり、2013年9月24日発売号を約25万部刷りました。最近は約22万部を刷って消化率が7割以上。東京だけでなく、関西が25~30%、東海地区が13~17%など、他誌より東京以外や地方での販売シェアが高いのと、女性読者が2割いるのも特徴です。これからも部数、広告ともに伸ばしていきたいですが、マーケティングを強調すると、角が取れてしまう。なので、あまり意識はしたくないのが正直なところです。
WWD:ここまでくるのに、何か転機はあった?
榊原:やはり、09年の「ロンハーマン」の日本上陸が大きいですね。もともと、「『ロンハーマン』みたいな雑誌を作ればいいじゃん!」という感覚で誌面を作っていたので、それが来たのは大きかったです。西海岸ブームと言われて久しいですが、ブームではなく、西海岸のライフスタイルとして定着してほしいと思っています。もちろん、その大きな潮流、ビッグウェーブにはこれからも乗っていきたいです。
ムックで女性セレブスナップを「ファッション辞典」として打ち出し人気
WWD:最近、「サファリ」を軸にした派生事業・エクステンション事業にも積極的だが?
榊原:雑誌ではムック本の形式で、11年秋冬から年2回のペースで「ウーマン・セレブリティ・スナップ」を出しています。もともとは、「『サファリ』の女性版はないんですか?」という問い合わせが多かったことから、ポテンシャルがあると考えていました。実際に出してみたら、1号目から増刷するほど好調で、8万部近く売れました。現在6号目で、販売部数は7万部前後で推移している。月刊化はしないのか、と聞かれることもありますが、年に2回というペースでの発行になっています。ただ、セレブスナップについては、ゴシップ系雑誌なども追随して一時は市場が飽和しましたが、淘汰されて今は部数も安定しています。実際の編集については、石垣紗耶サファリ副編集長が編集長として制作しています。
WWD:「ウーマン・セレブリティ・スナップ」の読者層は?
石垣紗耶・副編集長(以下、石垣):読者は30代の女性が中心で、最近では40代からのレスポンスも増えています。当初はもう少し若い層を狙っていたのですが、創刊の翌年(12年)に競合誌がたくさん出たので、もう少し上の層を狙ってみてもよいのかもと思って意識的に大人にシフトしたのも当たった理由だと思います。
WWD:かなり使用写真数も多いが、スタイルや提案など、編集がしっかりとなされている感じがする。誌面を作るうえでのこだわりポイントは?
石垣:「ファッション事典」のような作り方をコンセプトにしています。だからページもチャプター別にしてあって、キーワードごとにわかりやすく編集をしています。最近はパンツに対する反響が大きいので、パンツ特集は前のほうに置くようにしていますね。また、ミランダ・カーやアレッサンドラ・アンブロジオのようにママセレブも増えているので、ママセレブのコーナーを作ってみたりもしているからか、ママ読者も増えているようです。
WWD:2000年代の前半にLAセレブカジュアルブームなどがあったが、今もその人気が続いているということか?
石垣:セレブスナップは読者にとって、“ サンプル”として定着しているのだと思います。モデルが着たファッション写真ももちろんステキなものはありますが、セレブスナップは、彼女たちの生活の中で、どんなシーンでそのファッションを着ているのか、背景がわかるから、「こんなシーンで着てみよう」というリアルなお手本になる。毎号600点近くの画像をアフロとアマナから選んでくる際にも、だからこそ、画像に写っている背景やシーンといったものを重視しながらセレクトするようにしています。編集作業中は、まさに画像におぼれている状態(笑)。だからこそ最近では、彼女たちの定番アイテムやヘビーローテーションアイテム、そして、新しく買ったアイテムかどうかなどがわかるほどに鍛えられました。
WWD:600点とは膨大だ。コストもかかるのでは?
榊原:もちろんそれはかなりの金額になります。けれども、「サファリ」でスナップを使っているという前提があり、包括契約ができるため、単独でスナップ誌を作るよりもかなり効率的・効果的に使うことができています。
WWD:読者がセレブ風のスタイルを実現できるようにと、ブランドや商品をピックアップしておすすめしたり、コーディネート提案をしたりもしているが、その時に重要視していることは?
石垣:なるべく日常生活で使いやすいアイテムを立てるように心掛けています。例えば、最近は“腹見せ”が流行っているし、セレブたちは気にせずにおなかを出したりしているけれども、日本の大人の女性が街で着るとなったら、なかなかそこまではできないもの。アイテムやコーディネートに落とし込むときには、よりリアルに使い勝手がよいものを提案するようにしています。「NYスタイル」打ち出しにも驚きと可能性
WWD:ずっとカリフォルニアをテーマに誌面作りをしてきた「サファリ」だが、3月17日に「サファリニューヨーカー」を発行した。確かに東海岸やブルックリンは最近注目度が高まっているが、正直かなり驚いた。なぜ東海岸を?
榊原:西海岸ライフスタイルでは表現しきれないところがあるから。クライアントからも、カジュアル系のイメージが強いと思われていました。そこで、日本に近いビジネスシーンがある東海岸のファッションを取り上げるべきだと考えました。例えば、西海岸ではスティーブ・ジョブズを見てもわかるように、ビジネスシーンでもジーンズにTシャツといったラフなスタイルで、バッグも持たないでミーティングに出るイメージがあります。けれども、東海岸のビジネススタイルは、ジャケット、パンツ、スーツ、革靴、それに鞄を持っているし、電車に乗るシーンもある。ウォールストリートやミュージアムなどもあるので、アートやマネーなどのコンテンツもマッチします。これは「サファリ」にはない部分でした。しかも最近では、「サタデーズサーフNYC 」や「ピルグリム」に代表されるようなモントーク系など、東海岸でも海のカルチャーがあり、サーファーファッションも夜遊びもある。表現の幅が広がった感じです。
WWD:読者やブランドからの反響は?
榊原:広告的には好調でした。読者からの反響も概ね良かった。販売的には12万部を印刷。ただ全国区の「サファリ」本誌と違い、都心部では消化率が80%台のところも多かったが、地方は少し弱かった。次は秋に出す予定ですが、効率的な配本など、いろいろと工夫をしていきたいです。秋が良ければ来春から月刊化を予定しています。
通販サイト「サファリ ラウンジ」も絶好調
WWD:そのほかのエクステンション事業は?
榊原:10年からスタートし、年に3~4回ずつ出している「アスリートサファリ」が最新号で11号目になりました。また、タブロイド「スタイリストサファリ」も年に2回、3月と9月に発行。朝日新聞及び空港、ホテル、カーディーラーに33万部を入れています。配布エリアは東名阪地区と、千葉、神奈川の一部。それと、最近編集部の稼ぎ頭になっているのが、今年9月で5年目を迎えるeコマースサイトの「サファリ ラウンジ」。藤原晃・サファリ副編集長が責任者兼バイヤー、時々デザイナーを務めている。ジュリア―ノ・フジワラならぬ、アキラーノ・フジワラが活躍しています(笑)。
藤原晃・副編集長(以下、藤原):サイトの特色は、サファリの編集ガイドラインにのっとり、毎月の本誌特集テーマに連動して商品展開をしている点にあります。例えば、特集テーマがTシャツの場合は、旬なTシャツを数多くラインアップし、会員の購買意欲に応える内容にしています。また、本誌には当サイトの連載コーナーもあります。こちらでは、毎月企画される「サファリ ラウンジ」別注、先行発売などの、スペシャルアイテムも取り扱って好評を得ています。
WWD:ユーザー像は?
藤原:最近では、直接「サファリ ラウンジ」に訪れるユーザーもいるようですが、基本的には、「サファリ」の読者がユーザーで会員登録してくれています。熱烈な読者や顧客も多く、リピート率も高い。我々もクライアントも、本誌での反響を把握したうえで、オンラインで販売しているので、顧客ニーズがつかめているし、ブランドからの信頼も厚い。シーズンによって波があるが、毎月約3000万円を売り上げています。
榊原:本当にロイヤリティの高い方々が多くてありがたい。やはり商品のセレクトがいいのだと思います。
藤原:顧客の好きそうなものを念頭に置きながら、ブランドと交渉したり、LAで行商のように買い付けをしてくることもあります。現在、会員数は2万人。階段状に右肩上がりに増えているところ。目標は5万人。本誌(毎月15万部以上を販売)に追いつけ、追い越せの気持ちで取り組んでいます。メンズ、ウィメンズの複合型ブランドなどからもウィメンズアイテムの取り扱いのニーズがある。今後は「ウーマン・セレブリティ・スナップ」との連動も強めて女性に喜ばれるセレクトにも挑戦していきたいです。機会があれば、ブランドや売り場などとのポップアップストアやイベントなどもやりたいですね。まずは5周年に向けて腕によりをかけて別注品を仕込んでいるところ。
榊原:宿泊や旅行など、高額だけれども特別!というようなサービスも提供したいですね。また、新たにコンシェルジュサービスを加えたいです。会員の方々が何を購入されたのかデータもあるので、この色目のこのアイテムには、こちらのジャケットが似合いますよ、といった、積極的なコーディネート提案なども行なっていきたいです。
我が編集部の自慢は?
高田道場で鍛えた町中副編集長の体
「サファリ」を支えるもう一人の副編集長の町中真人・副編集長が、高田道場に通っていて、筋肉隆々であること。昔はガリガリで体重が50キロ台だったが、今はミラノでもモテモテの体形に(笑)。井戸端会議が大好きなのに、怒るとグラウンド(関節技)にもっていかれるので要注意!