ファッション
連載 #モードって何?

「“なんとなく”や“~っぽさ”の力は大きいと思います」by藤嶋陽子・ZOZO研究所リサーチサイエンティスト 連載「モードって何?」Vol.2

【#モードって何?】きっかけは読者から編集部に届いた質問「つまるところ、モードって何ですか?」だった。この素朴な疑問に答えを出すべく、「WWD ジャパン」9月16日号では特集「モードって何?」を企画し、デザイナーやバイヤー、経営者、学者など約30人にこの質問を投げかけた。答えは予想以上に多岐にわたり、各人のファッションに対する姿勢や思い、さらには現代社会とファッションの関係をも浮き彫りにするものとなっている。本ウエブ連載ではその一部を紹介。今回は藤嶋陽子・ZOZOテクノロジーズZOZO研究所リサーチサイエンティストに聞く。

共有しているルールのようなもの

WWD:“モード”とは何でしょうか?

藤嶋陽子・ZOZO研究所リサーチサイエンティスト(以下、藤嶋):“モード”はよく“流行”や“様式”と訳されますが、流行に関する単なる情報ではなく「こういうものを着るべきだ」や「こういう組み合わせが今風」など、決まり事のように感じさせる“共有しているルールのようなもの”という認識でいます。

WWD:共有はどこまでの範囲のことですか?

藤嶋:以前は雑誌や強烈なカリスマ的存在が、「いまこれがかっこいい」などを決めていましたが、最近の若い世代は自分が触れている範囲内の情報だけで解釈するようになっています。

WWD:カリスマ的存在がいた時代と比べてどう変化していますか?

藤嶋:今はその差が曖昧になっています。雑誌ごとにつくられるイメージはかなりわかりやすいものだったと思う。現在は「持っておくといいよ」くらいの曖昧なものになっているのかなと。

WWD:曖昧になっている理由とは?

藤嶋:似たようなものがたくさん出てきていて、そのコミュニティーに入ってみないと何が共有されているかわからない状態になっています。正直入っても、はっきりとはわからないですけれども。

この曖昧さはインターネットから情報を得るようになった影響だと思っています。雑誌だとある程度のセグメントがありますが、インスタグラムで情報を得る人は明確に分けることができない。だからどんどん差が曖昧になっています。

ユーザーと一緒に作り上げていく
ルール

WWD:現在の“モード”を反映しているクリエイターやブランドなどは?

藤嶋:最近一番面白いと思うのは、渡邉麻翔さんが編集長を務めるインスタグラムメディア「リリドットトーキョー(RiLi.tokyo以下、リリ)」です。オンラインサイトも運営していてユーザー投稿をキュレーションする媒体ですが、ネット上のコミュニティーになっています。

WWD:具体的に何が面白いと思いましたか?

「リリ」は浴衣の商品を企画した話が有名です。インスタユーザーは各投稿ごとのこだわりが強いのですが、フィードで見たときの色調にもこだわります。「リリ」ユーザーの投稿の調査で浴衣を着た投稿が少ないことを発見し、原因を調べたところ、一般的な浴衣の色合いがビビッドすぎることに問題があるとわかったそうです。そこで「リリ」は、ユーザーが好みそうな“リリっぽさ”のあるくすみ感が強い浴衣を発売しました。

この“リリっぽさ”は「リリ」側から発信しているというより、ユーザーが共有しているものでルールができている。以前イベントで渡邉さんは“リリっぽさ”を「リリ」側であまり決めすぎないようにしているとおっしゃっていました。押し付けるのではなく、ユーザーの行動やインスタグラムの時流を見て、ユーザーのことを想像しながら一緒に作っている。ユーザーと一緒にルールを作り上げていく感じがすごく今っぽいと思います。

WWD:そういったルールを一緒に作り上げていくには何が必要ですか?

藤嶋:コミュニケーションする場所のようなもの、たとえばコミュニティーなどのまとまりは必要だと思います。

WWD:それが今はインスタ?

藤嶋:インスタベースだと思いますが、それをさらに吸い上げるようなキュレーションメディアが強いと思います。

共有される
“なんとなく”や“~っぽさ”

WWD:若い人はどのように情報を選択しているのでしょうか?

藤嶋:インスタグラムも、アカウントを1つフォローすると似たようなアカウントが推奨されるじゃないですか。今は違うテイストや情報に触れることが難しくなっている、フィルターバブルが起きていると思います。

一方で、違うテイストとはどれくらい違うのだろう?とも思います。全部似ていて、ほかに全然違うスタイルがあるということを感じにくいのかなと。ファッションにおける差みたいなものがそもそも曖昧で小さくなっている。個人が触れている情報が狭くなっているのかもしれないけれど、そもそも選択肢としてあるもの自体が狭くなっている状況です。

WWD:そのなかでどのように服を選択しているのでしょうか?

藤嶋:例えば、若い人は肌触りをあまり重視していない気がします。写真を撮るかもしれない日に着る服と、普段着る服は違うと言っていた大学生がいました。大きなイベントレベルではなくてもインスタ映えするような、もしくはフィードに載せていない服を着て行く。前の投稿とは違う服を着るという観点もある。写真映えを考えた時には、着心地がイマイチでも映える服を優先する選び方が出てきています。

WWD:現在の共有するルールとはどのようなものですか?

藤嶋:“~っぽさ”だと思います。それってなんなの?と言われても誰も答えられないけれども、“なんとなく”みんなが思っているもの。この“なんとなく”や“~っぽさ”の力は大きいと思います。

WWD:“なんとなく”が共有されているってすごいですね。

藤嶋:情報が行き交う場があるからだと思います。世間一般で大ブームになっていなくても、一緒にいる友達のテイストや見ているタイムラインやフィードの傾向から共有する。それは、友達とSNS上で情報を交わしあうことの延長線上にあると思います。

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秋吉成紀(あきよしなるき):1994年生まれ。2018年1月から「WWDジャパン」でアルバイト中。

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