歴史あるブランドはアイコンと呼ばれるアイテムや意匠を持ち、引き継ぐ者はそれを時代に合わせて再解釈・デザインする。アイコン誕生の背景をひもとけば、才能ある作り手たちの頭の中をのぞき、歴史を知ることができる。この連載では1946年創業の「ディオール(DIOR)」が持つ数々のアイコンを一つずつひもといてゆく。奥が深いファッションの旅へようこそ!
フランスを代表するメゾンの「ディオール」と、スコットランド・英国の伝統を象徴するタータンチェック柄の関係性がなぜ深いのか?その答えは、創業者、クリスチャン・ディオール(Christian Dior)の幼少期の思い出にあるという。ムッシュ・ディオールが幼少期を過ごしたフランス・グランヴィルの邸宅は海の上に張り出すように建ち、目の前にはイギリス海峡が広がっていた。少年は海の向こうの英国へと思いをはせ、タータンへの興味もこのころから抱いていたそうだ。誕生日パーティーでバグパイプ奏者の仮装を考えた時には、スカートを作るために自分でタータンのモチーフを描いたというほほえましいエピソードもある。後にクチュリエとなったムッシュは、「ファッション小辞典」を出版するが、その中にはもちろん「タータン」の項目があり説明には「おそらく、奇抜な生地で唯一、ファッションに耐えうるもの。毎シーズン再来し、常に若々しく陽気なモデルに登場」とある。
タータンに限らず異国の文化への関心と探求心は、「ディオール」が多面的な魅力を持つひとつの理由である。このメゾンが広く世界で受け入れられる理由も異国・多民族への深い理解にあるのではないだろうか。ムッシュ以降、メゾンを引き継いだ代々のデザイナーたちもその精神を引き継ぎ、タータンをデザインに取り入れてきた。たとえばイヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)はウール製のグリーンとベージュのタータンコートをデザインし、マルク・ボアン(Marc Bohan)はウィンザー公爵夫人から特注を受けた。ジャンフランコ・フェレ(Gianfranco Ferre)はほぼ全てのフォルムとシーズンでタータンを用いている。英国人ジョン・ガリアーノ(John Galliano)はもちろんのこと、ベルギー出身のラフ・シモンズ(Raf Simons)もパステルカラーでタータンを取り入れている。現アーティスティック・ディレクターのマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)は、2019 -20年秋冬コレクションで英国を大きく取り上げた。マーガレット王女に着想を得たドレスからストリートのテディ・ガールをほうふつとさせるカジュアルなスタイルまでのハイ&ローの英国文化が「ディオール」の上で交差する。
そして今秋、「ディオール」のチェックが伊勢丹新宿本店をジャックする。同ブランドの伊勢丹新宿本店出店20周年を記念し9月4〜17日まで、同店1〜6階でポップアップストアをオープンしている。ウィメンズ、メンズ、ジュエリーに加えて、コーデリア・ドゥ・カステラーヌ(Cordelia de Castellane)による“ディオール メゾン”も伊勢丹に初登場。パーソナリゼーション刺しゅうが可能な“ブック トート”の限定バージョンも扱っている。(開催期間は売り場によって異なる)