ファッション

同じ「愛国」なのに何が違う? NYデザイナーとドナルド・トランプの「パトリオット」

 「パトリオット(Patriot)」。

 日本語では「愛国心」を意味しますが、今、この言葉を口にするには勇気が必要です。特にアメリカでは、バッシングも覚悟しなければ。政策に対して疑問が募るばかりのドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領の基本理念は「愛国主義」、そして、世界を見れば日本も含め右翼化の傾向が顕著で「コレでいいの?自分の国さえ良ければいいの?」という警鐘の音が日々大きくなっているからです。

 ところが2020年春夏ニューヨーク・コレクションでは、臆せず「パトリオット」を口にするデザイナーが何人も現れました。実に勇敢です。そして興味深かったのは、アメリカ人の彼らによる愛国のコレクションが、日本人の僕にとっても“共感ポイント”盛りだくさんだったこと。ドナルド・トランプに関するニュースを聞いている時のような“しかめっ面”にならなかったんです(笑)。それはデザイナーの「愛国心」が、ドナルド・トランプの「愛国主義」とは全く違うものだからでしょう。今日は、そんなお話です。

 ではまず、「今回のコレクションは、デザイナー人生で一番『パトリオット』」と話したデザイナーから紹介しましょう。マイケル・コース(Michael Kors)です。今回マイケルは、東欧出身の彼の祖母が、1900年代初頭から移民にとってニューヨークの玄関口だったエリス島を経て、ニューヨークで根を下ろしたパーソナルなヒストリーに焦点を当てました。人生で初めてエリス島を訪れ、当時の移民たちの力強さ、抱いていた希望の輝き、そして、前途多難ながらチャンスに溢れていたアメリカという国の魅力からコレクションを組み立てます。

 だからこそ、コレクションの根本はアメリカントラッド。袖を巨大なパフスリーブに変換した紺ブレにハイウエストパンツのスタイルは、アメリカそのものであり、実用主義を重んじる「マイケル・コース コレクション(MICHAEL KORS COLLECTION)」らしくもあります。当時のアメリカに溢れていた開拓者精神、そして、彼らを広く受け入れたダイバーシティー(多様性)のマインドは、アメリカンプレッピーに組み合わせた真逆のテイスト、パンクとなって現れました。チェック柄のトラッドには、ピカピカのシルバースタッズ。レトロなクラシックバッグには、やっぱり輝くゴールドスタッズ。その煌めきは、1920年代のアメリカの輝きであり、現在アメリカが最先端のダイバーシティーの象徴です。

 お次は、「プラバル グルン(PRABAL GURUNG)」です。ブランド設立10周年の今回は、「アメリカの理想」と題してビューティ・ページェント、いわゆるミスコンを着想源にコレクションを組み立てました。「パトリオット」でミスコン、2重でドキドキしますね(笑)。かつてからミスコンは、「女性蔑視ではないか?」と批判されるものでもありました。ところがプラバルは、全米各地からさまざまな女性が集うミスコンは、ダイバーシティーの象徴であると解釈。この“コンテスト”にメンズも登場させることで「女性蔑視」という批判を回避しました。

 コレクションは、ビューティ・ページェントに欠かせないド派手なドレス、バラのモチーフが盛りだくさん。そこにアメリカらしいデニム、混じり合う色がダイバーシティーを表現するタイダイ、そして、打ち上がってから消えるまでの数秒間に色が次々変わる花火のモチーフが加わります。フィナーレは、全員がタスキをかけて登場。ミスコンっぽいですね(笑)。「WHO GETS TO BE AMERICAN?」、直訳すれば「アメリカ人(になれるの)は誰?」、転ずれば「願えば皆、アメリカ人」という意味かな?フィリピン生まれ・ネパール育ち、移民としてやってきたプラバルが考える、理想のアメリカ像が伺えます。国への想いに溢れたコレクションです。

 黒人デザイナー、カービー・ジーン・レイモンド(Kerby Jean-Raymond)の「パイヤー モス(PYER MOSS)」は、まるで牧師のような黒人による教会の日曜礼拝みたいな説教から始まりました。会場に集った黒人ゲストに、奴隷としてこの国にやってきてから400年がたった今こそ、アメリカの一員として高貴であることを自覚せよと説きます。ほんの少し前までファッションショーの世界における黒人は、白人に対するカウンターカルチャーとして存在していた感がありますが、もはやそんな対立構造はなく、1つなんだと実感しました。

 そう、この対立構造ではない「愛国」が、思わず苦い顔をしてしまうドナルド・トランプの「愛国主義」とは違うんだと思います。彼の「愛国主義」に基づく政策や主義・主張は、例えば、メキシコを相手とした国境の壁構想、中国を相手とした貿易摩擦など、対立構造の基に成立している。でも20年春夏のデザイナーによる「パトリオット」には対立構造なんて存在せず、インクルージョン(包摂・包括性)の延長線上にある、多様な人々を1つに結束させるキーワードだと思うのです。だからこそデザイナーの「愛国」は、「アメリカへの愛」でありながら、日本人の僕らを否定しない。それが「アメリカ人の愛国心」に日本人の僕さえ共感できた最大の理由だと思うのです。

 時を同じくしてニューヨークに渡り、演劇を通してアメリカンカルチャーを考えている大学教授の友人は、「パトリオットは、アメリカの長所であり短所、強みであり弱みだと思う」と話していました。その通りです。

 でも、マイケルやプラバル、カービーの「パトリオット」なら、アメリカは新しい一歩を踏み出すことができる。そんな気がするのです。

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