イタリア発の「GCDS」は、飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長しているストリートウエアブランドです。名前は「God Can't Destroy Streetwear(神はストリートウエアを破壊できない)」の頭文字。31歳のデザイナー、ジュリアーノ・カルツァ(Giuliano Calza)と、33歳の兄でビジネスを担うジョルダーノ(Giordano)がブランドを開始して4年目ですが、世界中で400店舗以上の取り扱いがあり、売上高は1000万ユーロ(約11億8000万円)を超えています。
ベラ・バディッド(Bella Hadid)らセレブモデルの心も掴んでおり、少し毛色は異なりますがヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)の「オフ-ホワイト ヴァージル アブロー(OFF-WHITE ℅ VIRGIL ABLOH)」のような成長で、ジュリアーノによるド派手なデザインは、“ネクスト ジェレミー・スコット(Jeremy Scott)”の呼び声も高いです。日本での知名度はまだ高くないものの、ミラノ・ファッション・ウイークで行ったショーのフロントローには渡辺直美の姿がありました。このブランドがなぜそんなにスゴイのか、2020年春夏のショーから解説していきたいと思います。
上海への留学経験のあるアジア好きデザイナー
「GCDS」のジュリアーノは31歳のイタリア人でポップカルチャーが大好物。上海の大学での留学経験もあり、アジア文化に大きな影響を受けています。1年前の19年春夏では「ポケモン」、今回はサンリオのハローキティとマイメロディとのコラボも発表しています。天井に巨大なタコ足が張り巡らされた会場入口を抜けると、大きなGCDSのサイン前でスナップ撮影が行われていて、ハローキティのバブルティースタンドがありました。メニューはタピオカミルクティーもあれば、フルーツフレーバーのゼリー入りドリンクなど数種類などが自由に楽しめます。また、招待状は本物のココナツで、ストロー付きで飲むことができました。私はコレクション期間中にお腹を壊すのを恐れて飲みませんでしたが、会場では「あれ飲んだ?」という会話を何度も聞きました(笑)。このドリンクにまつわる仕掛けは序の口で、その先にはさらなるサプライズが待っていました。
しっぽを振った恐竜現わる キティやジュラシック・パークのコラボ祭り
「K-HAWAII」と題したショーは文字通り、ハワイの南国感と日本のカワイイカルチャーのミックス。会場は大きなホールで、デジタルサイネージには金魚の泳ぐ姿が映し出されていて、ランウエイの真ん中には大きな箱が置かれています。ショーが開始すると恐竜の鳴き声と共に、箱の中からティラノサウルスが出現。これには度肝を抜かれました(笑)。会場内がザワザワと写真撮影を開始する中、アメリカ発のクマのキャラクター「ケアベア(Care Bears)」の顔型をかたどったビキニを着たモデルが登場します。そこから、ハローキティのバッグやマイメロディのトップス、映画「ジュラシック・パーク」のロゴを使ったTシャツやブーツなどのコラボのオンパレード。終盤には“ストリートウエアは永久不滅”と書かれたアダルトアニメ風のアキバ系プリントのウエアを着た、人気インフルエンサーのけみおもランウエイを歩いていました。
コラボアイテムのほか、ショーではブランドの認知度を押し上げた定番人気のロゴ入りセーターやソックスなどのストリートウエアしっかりとラインアップ。テイストも、テーマの“カワイイ”を象徴するフリルなどの要素に、イタリアらしい色気のあるクロップドカシュクール、オフショルダーのトップス、ドレスもそろえています。アメリカや日本の文化を融合しながらも、モノ作りは100%地元のイタリア生産にこだわっているのも特徴です。ショーには出てきていませんが、キッズラインもあります。
アニメの目を再現した!? コスプレーヤー風メイク
4年目のブランドと思わせないのは、すでにコスメラインもローンチしていること。昨年末に発表されたイタリアのカラーコスメメーカーのインターコス(INTERCOS)との協業によるリップスティックとネイルはコンパクトなラインアップですが、今季のショーでも使用されていていました。ネイルチップにはブランド名のチャームを装着。ヘア&メイクはコスプレーヤーを意識したのでしょう。アニメのキャラクターになりきるかのように、ほぼ全員のモデルに真っ黒のカラーコンタクトを入れ、黒目の位置にアイラインを引いて強調。ヘアも現実離れしたツヤのあるハーフツインテールやボブのウィッグで、モデルたちを人形顔に変身させていました。
ウエアもメイクも海外目線のジャポニスムの解釈でしたが、私の感想は嫌な気持ちになることもなく、ファニーな世界観を楽しめました。20年春夏は全体的に脱ストリートウエアの傾向が見られます。「GCDS」の急成長は間違いなくこの数年間のストリートブームが追い風になっていますが、ショーの仕掛けやSNS、商品のコラボレーション、ドロップ形式の商品販売を見る限り、ブランド力を強く感じるので、独自の発信力でファンを魅了するのではないでしょうか。
また、ある日本人来場者はショー会場を出た後に、外で待機していたブランドファンに「何でもいいから、会場内でもらった紙をくれませんか?」とねだられたと言います。そんな熱狂的ファンを抱えるジュリアーノが、どのようにブランドを成長させていくのか今後も興味深いです。