ハヤカワ五味の運営するウツワはこのほど、LINE公式アカウントに連動した生理用品のセレクトEC「イルミネート(ILLUMINATE)」をオープンした。生理日予測と、予測に基づいたタイミングでの商品購入の提案をLINEで行うほか、必要なナプキン、タンポン、月経カップ、経血吸収パンツなどの生理用品を販売するサービスだ。広告無しのシンプルな作りや、従来の生理予測アプリが持つ「妊娠しやすい日(排卵日)」を表示する機能を付けないことで “生理のある全ての人”にフレンドリーな仕様にこだわった。
学生時代から小さい胸の“シンデレラバスト”向けランジェリーブランド「フィースト(FEAST)」などを手掛けてきた20代の経営者であるハヤカワ五味が、今なぜ生理用品市場に参入したのか?立ち上げの背景から今後の構想まで聞いた。
WWD:「イルミネート」をスタートさせた理由は?
ハヤカワ五味:もともとアパレルと下着ブランドの経営をしている中で、女性が多い職場にいました。管理職としての立場で感じたのは、女性同士でも「体調不良で仕事を休みます」と言いづらいということ。それが生理痛による理由だとしても、体調不良というと自己管理のできない人と見なされ、毎月休んでばっかりの人という印象を持たれてしまうことがあります。生理痛について相談できて、理解しあえれば、職場環境は変わっていくと思いました。
WWD:専用アプリではなく、LINE上でサービスを提供する理由は?
ハヤカワ五味:課金制や広告掲載で収益化している従来のアプリは、月2〜3回しか開かないことを不便に感じていました。でも、「イルミネート」は物販で収益を上げることで、予測機能は広告なしのフリーで提供します。ビジネスモデルの観点から、使用頻度の高いLINEといういつも使う動線にあった方がいいと思いました。
WWD:生理日予測の機能はシンプルにしている。
ハヤカワ五味:これまでひっかかっていた点をフラットにしたいと考えました。私の周りには女性同士の同性カップルもいますが、従来のサービスでは「妊娠しやすい日」を教えてくれる機能が付いていて、“生理のある女性が皆妊娠する”という前提であるところに疑問を感じました。また、「痩せやすい日」を表示する機能は、“女子は皆ダイエットしたい”という固まった観念。私は痩せていることがコンプレックスで、「逆に太りやすい日を教えてよ」と思ったことがあります(笑)。今まで通りのシステムも素晴らしく、妊活をしている人はそういった高機能なシステムを使っていただきたいのですが、「イルミネート」は最初に使う生理日予測ツールとしてシンプルに使いたい方におすすめしたいです。
1日で7000件集まった生理と性の悩み 浮き彫りになった“迷える人たち”
WWD:“生理のある人が誰でも使える”という仕様を意識している。
ハヤカワ五味:生理があるのは女性だけとは限らず、心が男性の方もいます。誰でも使いやすいようにECはネイビーを貴重に、商品動画も掲載しています。LINEではグレーをベースカラーにして、ピンクも甘すぎない色にしています。また、従来ありがちな“モテるため”をうたった広告コンテンツがないことも大きいと思います。ちょっとしたニュアンスですが、「イルミネート」のテキストは、女性向けではなく生理のある人に向けていて、固定観念にとらわれないフラットな文章にしています。
WWD:いつから“フラット”な価値観を持つようになったのか?
ハヤカワ五味:身近にLGBTQのコミュニティーがあり、さまざまな課題をクリティカル(深刻)に感じることがありました。私自身が悩んでいるわけではなくても、当事者はいっぱいいっぱいで解決することは難しい。余裕のある友だちとして、近くにいる自分が解決できないかという思いもベースにあります。
WWD:生理はタブーとされていて大声では話せないトピックだが、悩みを抱えている人は多い?
ハヤカワ五味:ツイッターで生理や性の悩みを募ったときに、1日で7000件も集まったんです。悩みの濃さがすごい……と思いました。本来は病院に相談に行くべきこと、頑張ってもどうにもならないこともあって、皆性の悩みについてどうしたらいいのか分からないといった感じでした。これまでそういった悩みを打ち明ける機会があまりなかったんだと思います。
“このビジネスモデルが成功すれば、生理用品の市場が拡大するはず”
WWD:今の生理用品の市場をどのように見ていますか?
ハヤカワ五味:国内の生理用品は99%を3社で持っている状況でどうしても変化が起こりにくく、ビジネス的にプレーヤーが少ない。ビジネスモデル的にECで販売すればゲームチェンジはできるとポテンシャルを感じました。一方で生理用品の年間購買価格は平均3600円くらいといわれて、単価が低くて渋い領域だからこそ、自分がやるしかないと思いました。
WWD:マネタイズ(収益化)はどう考えている?
ハヤカワ五味:一番時間を割いて考えているところです。海外ではフェムテック産業(女性が抱える健康問題をテクノロジーで解決する新興企業)が話題ですが、国内で出てこないのは日本に女性の投資家が少ないからだと思います。まだ成功事例がないということで、しっかりと数字を追える人がいないのも理由です。そこで、私たちのビジネスモデルが成功したら、投資もしやすくなって生理用品の市場ごと拡大するのではないか。「イルミネート」では、ユーザーにとって意味のある商品を充実させて儲けたいと思っています。例えば、鉄分のサプリメントなどは私が実際に飲んでよかったと感じたもので、販売していければと構想しています。また、長くサービスを使ってもらえるように評価を受けられるかが勝負だと思っています。
WWD:商品の選定はどのように行っている?
ハヤカワ五味:いらないものは作らない、売らないことを重要視し、生理についてのクリティカルな悩みを解決できるような商材を扱います。お客さまが気付いてもいない悩みに訴求するようなことはしたくない。例えば、バストアップやデリケートゾーンの悩みを過剰に煽るような商品はお客さまがハッピーになることではないので、ハマらないと思っています。
WWD:今後はオリジナル製品を作っていくのか?
ハヤカワ五味:計画をしていますが、まずは運営する中でどのような悩みがあって、どのような商品が売れていて、どんな売れ方をするかデータを集めたいと思っています。年始までに数商品を発売して反応がよかったものを伸ばしていきたい。商品をきっかけにして「イルミネート」を知ってもらえるようになるような成長でもいい。現状、生理用品はドラッグストアでの購入率が65%といわれています。地方のお店では品ぞろえも少ないので、ECにすることで多くの人に提供できると思っています。
初年度の売上高1億円を目指す “売り上げを立てることも正義”
WWD:昨今、SNS上では生理についての投稿をよく見かけるようになった。急に話題が増えたのはなぜ?
ハヤカワ五味:“第4の生理用品”と言われる経血吸収パンツがリリースされたり、漫画「生理ちゃん」の映画化が決まったりと、各社の話題が集中して出て来たからだと思います。私自身もユニ・チャームとの生理用品について考えるプロジェクト「#NoBagForMe」を行いました。業界自体も変わらなければならないという意識を感じます。
WWD:「イルミネート」のローンチ後の反応は?
ハヤカワ五味:9月12日にオープンして、ユーザー数は約9000人(10月2日現在)になりました。ポテンシャルとして生理について話したいと思っている人は2万人くらいいると想定しています。先日も匿名で参加できるLINEのオープンチャットで、デリケートゾーンのケアについての悩みについて話す会を開いたら、約400人も参加者が集まりました。こんな大勢で股の話しをするとは想像もしませんでしたが(笑)、やはり“話したい人”がいるということが分かりました。今後も「話さなきゃいけない」という強制的なものではなく、「話したいときに話せる」という、ゆるやかなコミュニティーを作りたいです。話すことで、病院に行ってみようとか、サプリを飲んでみようとか改善点が見つかることもあります。“誰も普通じゃない”ということに気づいて欲しい。ブラック企業に似ているんですが、会社の中にいるとそのヤバさが分からないけど、外から言われて「あ、これヤバイんだ」って知ることがあると思います。こういう風に話すきっかけ作りは、業界的に取り組むべきだと思いますね。
WWD:売り上げの目標は?
ハヤカワ五味: 1年目で売上高1億円を目指しています。オープンな市場が広がると今後他にも新たな生理用品が出てくると思います。なので、そのくらい売り上げを立てないと残っていけないと考えています。一時的な盛り上がりにせず市場を切り開いていけるよう、売り上げを立てることも正義だと思っています。