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写真家・桑島智輝はなぜ安達祐実を撮り続けるのか 「自分を知りたいから撮影する」と語るその真意とは

 ポートレートを中心に広告や写真集、雑誌の分野で活躍する写真家の桑島智輝。新境地ともなる写真集「我我(がが)」を今年の9月14日青幻舎から出版した。桑島は妻である俳優の安達祐実を毎日撮り続けており、「我我」にはそこからセレクトされた写真が文章と共に掲載されている。「夫婦間では、写真を撮ることが一つのコミュニケーションになっている」と語る桑島に、「我我」に込めた思いを聞いた。

WWD:はじめに写真集「我我」を出そうと思ったきっかけを教えてください。

桑島智輝(以下、桑島):前回の写真集「私生活」(集英社)を2013年に出版したんですが、それ以降も安達さんを撮影し続けていて、どこかのタイミングで写真集を出そうとずっと思っていました。具体的な話になったのは2年ほど前からです。今回のアートディレクターを務めてくれた町口景(まちぐち・ひかり)さんに撮った写真を見せて相談をするようになり、そこからですね。

WWD:このタイミングで出版に至ったのは?

桑島:出版日の9月14日は、安達さんの誕生日なんです。今回の写真集は日付が重要で、日付が入っている写真も多いです。基本的に写真は時系列で並んでいて、15年11月13日の結婚記念日のトンネルの写真から始まり、終わりは19年8月15日の終戦記念日です。

WWD:どのくらいの期間、安達さんを撮り続けているんですか?

桑島:8年ほど撮り続けています。最初は前回の写真集を出すための企画だったんですが、撮り終わって写真集ができるまでの過程もずっと撮っていて、そのうちに安達さんと付き合うようになって、結婚して。そうすると自然と毎日撮影していますね。安達さんを撮ることが楽しいです。

WWD:例えばケンカをした日も撮影するんですか?

桑島:そんな日もあります。でもこれは安達さんの度量の広さだと思うんですが、写真を撮ることに対しては怒らない。夫婦のルールとして、何をしていても撮影してOKということになっています。だからすごく怒っている写真もあります。正直、相手が怒っているときに撮影するのって恐いし、勇気がいること。でもそこで撮ることが重要で、「そこで撮らないんだったら、やめちまえよ」って安達さんは思うはず。だからある意味、そういったときは僕と安達さんとの闘いでもあります。

WWD:お互いに認め合っているということなんでしょうね。

桑島:写真が介在しないと成り立たないという変わった夫婦関係なんです。撮るのが愛かというとそれだけではないけど、興味があるという意思表示にはなるので、写真を撮ることがコミュニケーションの一つになっています。撮った写真は定期的に見せていて、それは夫婦の記録であり、自分たちがどういう風に生きてきたかの確認作業でもあります。

“安達さんはからっぽ”だから撮り続けていられる

WWD:桑島さんはいろいろな女優を撮影していますが、その中で安達さんの魅力は?

桑島:安達さんは中身がからっぽなんです。それは俳優の特性なのかなと思っていて、自分を“依り代”にして、役が降りてくる。そういうのをすごく感じるんです。安達さんがそこにいるけど、いない感じがして。からっぽだからこそ、撮っても撮っても撮り切れない。そして結果、空っぽの人を撮り続けるとことで、自分自身が見えてくるんです。だから何で安達さんを撮り続けるのかっていうと、楽しいからだし、夫婦の記録としても撮っているのももちろんあるけど、結局は自分を知りたいから撮影するのだと思います。写真を撮ることで、被写体を介して自分自身が現れてくるんです。

WWD:具体的にはどういった写真にそれを感じていますか?

桑島:大きな構成でいうと、「我我」は出産前と出産後になっています。出産前の写真は何だか硬くて、“私写真とはこういう風に撮らないといけない”というのが強く出過ぎていて、打算的な写真が多い。例えば、“安達祐実がこういうことをしたらおもしろいな”っていう狙いが見えすぎる。出産を機に、もしかしたら自分に男としての自信がでてきたのか、そういうことを考えなくなって、いいなと思ったら撮影するようになりました。写真の雰囲気もリラックスした感じになりました。

WWD:写真集のあとがきには写真家の平間至さんの文章も掲載されていますね。

桑島:この平間さんの文章はすごく核になっています。被写体が強烈だと、撮影者はその被写体を超えられない。なぜなら写真が全てその人の写真になってしまうからです。それは僕の課題でした。ともすれば、今回の写真集も安達祐実の私生活を撮影した写真集になってしまいがちですが、結果としてそうはなっていなくて、それはなぜかというのを書いてくれたんです。今までの、よくわからないけど撮り続けるという行為に対して、全肯定をしてくれている。このあとがきを読んで、布団の中で号泣しました。

夫婦って一番近い他人同士 だからこその喜びもある

WWD:タイトルの「我我」にはどういった意味が込められている?

桑島:現在「クイックジャパン」(太田出版)で“はじまりの一枚”という写真と文の連載をしていて、そこでは自分たちのことを「我々」と表記することが多くて、「我々」っていいなと思っていたんです。でも「我々」と書くよりは、ちゃんと一対一が伝わる「我我」の方がいいなとデザイナーの町口さんに相談したんです、そこで読み方は「われわれ」よりも「がが」の方がいいってことになって。それで「我我(がが)」になりました。

WWD:装丁にもこだわっている。

桑島:カバーに使っている紙は、シワがあってあまり写真を印刷することがないらしいです。僕も最初見たときには、少し怖く見えたんです。それでデザイナーの町口さんに言ったら、「これは昼に安達さんが『この野郎』と怒ってくしゃくしゃにした写真を、夜に桑島君がリビングで伸ばした感じをイメージしている」という説明を受けて、それがすごく納得できたんです。それでこの紙でいくこと決めました。

WWD:表紙の1枚はすぐ決まった?

桑島:最初はモノクロ写真も考えていたんですが、カラーの方がポップだし、なるべく多くの人に見てもらいたいと思ったのでこの写真にしました。判型も手に取りやすいように、このサイズにしています。

WWD:ここまで見せるんだという写真もありますね。

桑島:本当に彼女自身が無防備で、何もしないからそういう感じが出せているんだと思います。

WWD:写真集では、写真と共に、桑島さんと安達さんのコメントも添えられている。

桑島:相手が何を書いているか分からないようにして、お互いに自分が思ったことを書いているので、たまに真逆のことを書いたりしています(笑)。

WWD:どんな人にこの写真を見てもらいたいですか?

桑島:夫婦って大変なんです。一番近い他人だし、正直、他人のことって分からない。でもその中で夫婦なりのルールを決めたり、夫婦なりの喜びがあったりする。写真家と俳優というと特別な感じはするけど、ベースは同じ。これを見て、どこの夫婦も一緒なんだなと思ってもらえるといいですね。

WWD:今後も撮影は続ける?

桑島:続けていきますし、今後も定期的に写真集は出版していきたいと思っています。

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