ファッション

ファッションの安直な模倣に物申す

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 ファッションは、オマージュやサンプリングの繰り返しで歴史を築いてきた。今、モードのトップを走るデザイナーたちも、メゾンを象徴するモチーフやシルエットに敬意を払い、サンプリングすることで新たなクリエイションを生み出している。一方で、最近は歴史への敬意やデザインの背景すら感じられない、安直な模倣品も世界中で氾濫している。サンプリングと模倣品には明確な基準がないため、われわれメディアも含めて模倣に対する感覚が麻痺し、もはや見て見ぬ振りという意識さえないほどに、日常になってしまっていた。しかし、そんな状況が変わりつつある。(この記事はWWDジャパン2019年7月15日号からの抜粋です)

 日本のデザイナーズブランド「ザ・リラクス」がザラ・ジャパンを相手取り、「ザラ」が「ザ・リラクス」のコートの形態を模倣して販売したことが不正競争防止法上の不正競争行為に当たるとして約7000万円の損害賠償請求を申し立てた訴訟は2018年8月、東京地方裁判所がザラ・ジャパンに1041万7282円の支払いを命じた。提訴から実に約2年の末に出た判決だった。このニュースを弊社で11月に報じたところ大きな反響があった。

 19年5月には「週刊新潮」(新潮社)が、ストライプインターナショナルの「アース ミュージック&エコロジー」がブランドキャラクターである女優の広瀬すずとコラボレーションしたワンピースが、江角泰俊の「エズミ」が18-19年秋冬以降定番として発表しているサイドプリーツのワンピースとデザインが酷似していると報じた。また、清水えり子が手掛ける「ザジコ」は、国内アパレルブランドの商品が自身のブランドのアイテムと酷似しているとSNSを通じて発信し、数日後にアパレルブランドは謝罪文と商品の自主回収をホームページで発表するなど、立て続けに騒動になっている。同様のケースで、報じられていない事例はまだまだ山のようにあるのだろう。

 先日、東京でファッションショーを行うブランドから「WWDジャパン」に相談が寄せられた。18年10月に「アマゾン ファッション ウィーク東京」で発表した19年春夏コレクションのブラウスにあまりにも酷似している商品を、国内メーカーのショップで発見したという。東コレで発表したブランドの商品は19年3月発売で上代3万2000円なのに対し、国内メーカーがプライベートブランド(PB)として販売する商品は1月発売で1万2800円。発展途上の国内ブランドが一部上場企業のメーカーに生産のスピードでかなうはずはなく、先に安い価格で発売されてしまったというのだ。ブランドは弁護士を通じて正式に抗議したが、企業側は弁護士を通じて否定。その後の問いかけに対して返答はないまま、PBの公式インスタグラムから該当商品の投稿は何の連絡もなく削除されていたという。ブランドのデザイナーは「知名度的には圧倒的にあちらが上。だからわれわれがデザインを模倣したと思われてもおかしくない」と困惑する。

 今春には、海外SPAブランドの店内で日本の「ダブレット」が17-18年秋冬シーズンのランウエイショーで披露したグラフィックデザインをほぼそのまま使用したようなフーディを見つけた。あまりにも酷似しており驚いたが、おそらくほとんどの消費者はそんなことさえ知らず、そのフーディを手に取ったのだろう。井野将之「ダブレット」デザイナーがグラフィックを完成させるまでに費やした時間や労力などを考えると、複雑な心境だ。

 SPAは消費者の「今、欲しい」をスピーディーに生産するのが強みなはずである。それを意図的に国内の、しかもまだ規模がそこそこのブランドのデザインを模倣し、先に発売しているのであれば、かなり悪質だ。ましてや国内のファッション界で足を引っ張り合うような模倣は許すべきではない。色やシルエット、ディテールのトレンドを分析・反映したモノ作りの結果、類似した商品が市場に多く出回るのはファッション業界ではよく起こり得ることだ。そんなプロセスさえ感じられず、安直な模倣を良しとする企業やデザイナーがいるとしたら、ファッション業界から一刻も早く退場していただきたい。

 ブランドの大小にかかわらず、デザインの模倣にあったデザイナーはどうか声をあげてほしい。模倣には明確な基準がないため、例え法律で争うことは難しくても、炎上や嫌われることを恐れず、正しいと思ったことをまずは自ら発信してほしい。われわれもメディアとして中立であることは鉄則だが、明らかなパクりは見過ごさない。今はインターネットやSNSなど、模倣と戦う方法はいくらでもある。「ザ・リラクス」は訴訟で、「ザジコ」はSNSで自らアクションを起こすことで、クリエイションの価値を守った。「ザジコ」がツイッターで「今回の件で私のような小さなブランドも主張すれば権利が守られることを感じました」とつづっているように、今はデザイナーや経営者が勇敢に意志を示すことに価値がある。ファッション業界が強い意志で溢れれば、安直な模倣は減ると信じている。

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