ファッション

再始動のアルベール・エルバス、新会社は「夢を具現化する“ドリームファクトリー”」

 元「ランバン(LANVIN)」アーティスティック・ディレクターのアルベール・エルバス(Alber Elbaz)は10月25日、「カルティエ(CARTIER)」などを擁するコンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT以下、リシュモン)と合弁会社AZファッション(AZFASHION)を設立した。

 女性のための“ソリューション・ワードローブ”を提供するという同社について、ヨハン・ルパート(Johann Rupert)=リシュモン会長は、「アルベールのアイデアに感心した。われわれは心から彼を歓迎しており、この素晴らしい協業を楽しみにしている」と語っている。

 エルバスは合弁会社を設立した経緯について、「また違うブランドで雇われて、かつてと同じようなことをしたいとは思わなかった」と説明。「私は革命には興味がないし、業界を混乱させたいとも思わない。今回の合弁会社設立はいわば再起動であり、再始動だ。iPadを再起動する際にそれを放り投げて壊す必要はないのと同じで、私も平和的かつ楽観的に再始動して、新たなストーリーを生み出したいと思う」と話すエルバスに、米「WWD」が詳しく聞いた。

WWD:リシュモンをパートナーに選んだ理由は?

アルベール・エルバス(以下、エルバス):直観的な決断だった。ファッションやクリエイティブな分野では直観を信じることが大切で、それによって物事が前進する。リシュモンと何回かミーティングをしたが、ポジティブなエネルギーに満ちた実りの多いものだった。エレガントで洗練された雰囲気であると同時に、とても人間的な会社だと感じた。これまでリシュモンに知り合いはおらず、ルパート会長とも今回初めて会った。

WWD:さまざまなアイデアや製品カテゴリーを検討していると思うが、AZファッションではどの程度ファッションを扱う予定なのか。

エルバス:ファッションが大好きだから、社名もAZファッションとした。長年にわたって私を支えてくれたこの業界で活動できることをとても光栄に思っている。今後の展望についていろいろと話しているので、それを形にしていきたいと思う。リシュモンは長期的に物事を見てくれるし、時間的な余裕を与えてくれる。デザイナーには、そうした余裕が必要だ。最近のデザイナーが以前より劣っているということはなくて、単にもっと時間が必要なんだ。そうすれば、本当に楽しみながらいい仕事ができる。

WWD:今回の合弁会社について“ドリームファクトリー(夢工場)”と表現したが、それについて詳しく教えてほしい。

エルバス:現代では、“ドリームファクトリー”という言葉はあまり使わない。話すことといえばデータやアルゴリズムについて、そして生産や、いかに効率よく繰り返すかということばかりだ。“ドリームファクトリー”は毎日そこで楽しい時間を過ごして、自分らしくいられる場所だ。しかし、いわゆるインキュベーターではないので、しっかりとプロダクトを作りたい。アイデアを創出する場所であると同時に、それを形にする場所でもある。夢を具現化して生産する場所、それが“ドリームファクトリー”だ。

WWD:どのような会社やブランドへと育てていきたいか。

エルバス:AZファッションはスタートアップであり、新たな歴史、新たな一ページのスタートだ。今の時代ならではのプロジェクトを立ち上げ、男性にも女性にも喜んでもらえる製品を作りたい。まずは才気あふれる人々を集めていく。

WWD:多くのブランドはドレスやスニーカーなど、何か一つのカテゴリーに絞って成功を収めている。そうした中、なぜライフスタイルという複合的な分野を選んだのか。

エルバス:誰もがやっていることを、なぜやるのか?私自身が多面的な人間であり、AZファッションはさまざまなプロジェクトを実施するためのスタートアップだ。

WWD:どこで販売する予定?

エルバス:オンラインはもちろんだが、店舗や百貨店でも販売したい。私は新しいものやイノベーションが大好きだが、歴史や伝統、職人技の大ファンでもある。どちらかを選ばなければならないと思っている人も多いけれど、その両方が好きでも構わないと思う。なので、オンラインとオフラインの両方で販売したいと考えている。メインはオンラインになると思うが、店舗のことを忘れたりはしない。以前からある小売店などのビジネスを守り、維持していく必要がある。

WWD:オンラインでは、リシュモン傘下の大手ECサイト「ネッタポルテ(NET-A-PORTER)」や「ミスターポーター(MR PORTER)」で販売する予定か。

エルバス:彼らが私を気に入ってくれたら、ぜひ提携したいと思う。

WWD:リシュモンはラグジュアリー企業だが、AZファッションではどの程度ラグジュアリーを扱うのか。

エルバス:もちろんラグジュアリーブランドを設立するつもりだが、現代における“ラグジュアリー”とは価格帯だけの問題ではない。手にしている製品や口にしている料理がどうやって作られたのか、その原材料は何か、それらがどこから来たのかを知ること。つまり倫理的であることがラグジュアリーだと思う。

WWD:先ほど、店舗や百貨店を“維持する”ことについて述べていたが、AZファッションでサステナビリティはどれぐらい重視する?

エルバス:現在、“サステイナブル”や“サステナビリティ”という言葉が繰り返し使われているが、それはこうしたことを気にする必要があるからだ。政治的に正しいというだけではなく、その考え方自体が重要だと思う。AZファッションでもサステナビリティは当然プロジェクトに含まれるし、そうしたビジョンを共有する人々と仕事をしていきたいと考えている。

WWD:リシュモンと合弁会社を設立したわけだが、今後も「トッズ(TOD’S)」などとのコラボレーションは継続する?

エルバス:リシュモンに心を捧げたというのもあるが、私はそもそも同時に2つの家族を率いることはできないタイプだ。「レスポートサック(LESPORTSAC)」や「コンバース(CONVERSE)」との協業はいずれも本当に心から楽しいものだったし、その時点でそれぞれぴったりくるものだった。コラボレーションは、例えるなら救急処置室で働くようなもので、ぱっと仕事をして成果を出し、そこで完了する。しかし、私は最初から最後まで関わることができるプロジェクトをやりたいと考えていた。

AZファッションの社名もそれが由来になっている。実は私の名前の最初と最後のアルファベットでもあるが、私だけの会社ではない。AからZまで、つまり最初から最後までという意味が込められており、スタートアップにふさわしい社名だと思う。会社の指揮者は私だが、チームというオーケストラなしでは指揮者もどうしようもないからね。頼れるチームがあってこそ会社は成り立つ。

WWD:戦略やアイデアについて、リシュモンやほかのブランドとはどれぐらい緊密に連携していくのか。

エルバス:私はとても親しみやすい人間だと思うが、同時に複数のことをしたくはないし、今はこのプロジェクトを生み出して育てていくことに集中したい。とはいえ、こうしてリシュモンという家族の一員になったので、いろいろ話したり一緒に食事をしたりして、彼らのことをもっとよく知りたいと考えている。リシュモンには知り合いがいないので、これから個人的にも知っていきたいと思う。今のところ、会った誰もがエレガントで洗練された佇まいだった。「なぜリシュモンと提携したのか?」と聞かれたら、「素晴らしい人たちがいるからだ」というのが答えだ。それに加えて、クリエイティビティー、ノウハウ、伝統、そして職人技を大切にしている会社だから。それでいてイノベーションも重視していて、こうして私を迎え入れてくれた。とてもありがたく思っている。

WWD:AZファッションのデザインでは、実用性や機能性をどの程度重視する?

エルバス:実用性や機能性は非常に重要だ。現代の女性は一つの場所にとどまっていないし、将来的にはさらにいろいろな場所へと赴くだろう。デザイナーの仕事は人々の声を聞き、理解することだ。私はキャリア全体を通じてずっと女性たちと共に働き、女性たちのために仕事をしてきた。さまざまなものを見て、本を読み、思考を巡らせ、夢を膨らませてきた。私たちは伝統や職人技などの過去を大切にしつつ、未来へと進んでいかなくてはならない。

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