美容師の離職率の高さや、年間の開業軒数に対する廃業軒数の多さなど、ヘアサロン業界を取り巻く環境にはたくさんのマイナス要素が転がっている。またアシスタントからスタイリストへと経験を重ね満を持して独立しても、技術力の高さや顧客の多さと経営者としての手腕とは一致せず、独立して間もなく廃業に追い込まれるというのも往々にしてある話だ。また近年働き方改革の流れや、独立のリスクを避けて、フリーランス美容師としてシェアサロンで働く人も増えている。今では、美容学校を卒業後すぐにシェアサロンで働くことを選択する人もいるほどだ。それでも「自分の城を持つことが夢」と語る美容師も多い。
このような状況中で、シェアサロンともこれまでの独立とも異なる、“完全個室型美容室モール”という業態をとる「ザ サロンズ(THE SALONS)」が今年5月に東京・表参道にオープンした。ワンフロアに11部屋(各部屋15~16.5平方メートル)が設けられ、それぞれにサロンが出店する。美容師のオーナーから「ザ サロンズ」への支払いは月の利用料(26万5000円~)のみで、これには水道光熱費や300枚までのレンタルタオル代が含まれる。都内に店舗を持つ美容室オーナーによると、表参道という立地であれば毎月の家賃だけでも20万円ほどは必要だという。シェアサロンよりも自由度が高く、独立店舗よりも出店リスクの低い同サロンは、表参道店のオープンから約半年たった今、出店率は100%で全店舗が定着している。「ザ サロンズ」はヘアサロン業界における新風となるのか、清水秀仁代表取締役と窪島剣璽取締役に話を聞いた。
WWD:まず「ザ サロンズ」がとっているモール型サロンという業態について教えてください。
清水秀仁代表取締役(以下、清水):商業ビルのワンフロアを借り切りそれを個室に区切って、一つの個室につきシャンプー台1台とセット面2面を備えて提供しています。ワンフロアにはだいたい10店舗ほどヘアやエステ、ネイルなどのサロンが入っています。月額の利用料には、家賃と光熱費、300枚のレンタルタオル代も含まれているので、すぐに開店することが可能です。
WWD:これまでにない業態だと思いますが、考えたきっかけは。
清水:現在アメリカではこのビジネスモデルがヘアサロン業界を席巻しています。この業態でトップシェアを持つ「ソラ サロン(SOLA SALON)」は全米ですでに1000店舗を展開し、定着率がよく退店率は10%以下です。退店する場合も、自らが出店するといった前向きな理由がほとんどだそうです。日本の美容業界にも革命をもたらすべくこのアメリカのビジネスモデルの視察・研究を重ね、日本向けにブラッシュアップして展開を始めました。日本では5月に1号店の表参道店をオープンし、11室を設け10店舗が営業しています。部屋を区切っている壁は取り外すことも可能なので2室分を1サロンにして、セット面を3つ、シャンプー台を2台にしているサロンがあり全て埋まっています。
WWD:「ザ サロンズ」の特徴はどのような点ですか。
清水:シェアサロンでは、顧客が増えると席の確保の難しさに直面すると思います。さらに利用料に加え技術売り上げから1~3割をシェアサロンに収める形をとっていることが多く、売り上げの上限が見えてしまい、フリーランスの美容師で活動することが次第に難しくなると思います。そういった人のための次のステップとしてイメージしてもらいたいです。われわれは企業理念に“美容師ファースト”を掲げて、使用料以外は美容師もしくは店舗の収益になるというモデルにしています。最低限の賃料収入は得ていますが、売り上げ手数料など美容師からお金を取るモデルは考えていません。今後拡大していくにあたり、ECや広告などのビジネスモデルを構築し、美容師へフィードバックができ、持続可能なプラットフォームの構築を目指します。今後はアプリ開発などを行っていく予定です。
WWD:出店するメリットはどのような点ですか。
窪島剣璽取締役(以下、窪島):フリーランスの場合は個人事業主となるが、「ザ サロンズ」への出店は各自で営業許可を取って店舗登録を行い、1店舗として扱われるので、銀行や公庫に売上高などの決算を出すことができます。つまり店舗の売り上げとして計上することができるので、ゆくゆくは自分で出店しようとしたときに社会的な信用を得ることができます。フリーランスは決して悪いことではありませんが、将来的に自ら店舗をもちたいという思いがあるのであれば、ファイナンスの面も考慮する必要があります。たいてい出店する際には少なくとも1000万円ほどの資金が必要になってきます。大金を借り入れながら経営経験なく独立することが業界の当たり前になっていますが、このようなリスクを取りたくないと考える人も今では増えてきました。だからフリーランスで活動したり、独立をあきらめる人も多いと思います。それがこの業態では大きな借金をせずに出店できます。顧客がいるので自分でブランディングをしたい人や、独立するには資金面が間に合わない人、独立に向けて勉強したい人など前向きな気持ちで出店する人が多いです。
WWD:リスク少なく出店でき、さらに自分の店舗をつくるためのステップにもなりますね。
清水:今までは一か八かで出店をしてしまう人もいたと思います。この業態での出店を経験することで、“自分の店を持つ”という夢がより現実的になると思います。ここで力をつけて経営者としての能力があるのであればあらためて自分の店を持つという、養成所に近い役割を果たせると考えています。
WWD:今後の展開について教えてください。
窪島:12月に銀座店を出店します。銀座は地代が高く、なかなか個人で出店するには難しいエリアなので、すでに多くの出店の問い合わせをもらっています。また今後はフランチャイズ化をしながら店舗を増やして100店を目指しています。