WWDジャパン(以下、WWD):「進撃の巨人展」を担当することになった経緯は?
山田竜太(以下、山田):以前に「井上雄彦 最後のマンガ展」を手掛けたことがあった縁で、「進撃の巨人」を知らない人でも楽しめる「お化け屋敷」のような空間を作りたいという依頼をいただいた。乃村工藝社は韓国でもお化け屋敷のディレクションを手掛けるなど、お化け屋敷の企画・制作を行っていたし、私はもともと「進撃の巨人」のファンで、人を「ワクワクドキドキ」させたくて乃村工藝社に入社したので、なんてぴったりな仕事なのだろうと思った。
WWD:空間演出を手掛けるうえで、一番大切にしたことは?
山田:来場者の気持ちになって、どうしたら「ワクワクドキドキ」するだろうかと考えた。原画ファンはもちろん、アニメからファンになった人にも楽しんで、もう一度ファンになって帰ってもらえるような空間を目指した。まずは入口のシアター「巨人体感シアター〜上野、陥落の日」で作品の世界観を3分半に凝縮して伝え、そこでマインドセットしてから原画を見てもらえるようにしている。来場者の見やすさを意識して、照明や音の使い方を工夫したり、展示物を黒背景にするか、白背景にするか、サイズはどのぐらいにするか、といったことを決めている。
山田:原画の展示は照明を赤くすることで「巨人に喰われる」という感覚を演出し、原画に合わせて展示している。作品がハッピーなものではなく、恐怖感があるものなので、ホラー手法の空間演出には向いている。作中に出てくる「立体機動装置」を体験できるコーナーでは、壁を斜めに切り出すことで没入感を強めたり、天井から吊るした「女型の巨人」が登場するコマは効果音とともに掲出することでメリハリを出したり、さまざまな工夫を凝らしている。作中でアニという登場人物が階段で仲間を裏切るシーンがあるのだが、美術館の階段を取り込み、そのシーンを再現している。空間が来場者の気持ちを後押しするような造りを意識している。
WWD:どんなところでアイデアを考えているのか?
山田:展示のアイデアは電車など移動体の中で考えることが多い。ちょっとノイズがあるぐらいの方が良いアイデアが浮かんで集中できる。
WWD:60メートル級の「超大型巨人」が印象的だが?
山田:細かいものも含め5つ模型を作り、ポージングや展示空間の検証を行った。「超大型巨人」の制作にあたっては原作者の諫山創さんから「口を開けた恐ろしい顔のものよりも、むしろ『巨人』は穏やかで優しい顔をしている方が怖ろしい」というアドバイスをいただいたので、あえて巨人の口は閉じた。展覧会の2カ月前、諫山さん立会いのもとディテールを決め、そこで「超大型巨人」にまつ毛と鼻毛を加えてより人間らしくした。「超大型巨人」は口から息が出るのだが、「超大型巨人」の両肩は呼吸に合わせて収縮する素材を使うなど、「人間の体はどうなっているか?」という点に立ち返ってリアルさを追求している。
山田:有名な作品なので期待が大きく、質に妥協しなかった点。来場者の方に「さすが『進撃の巨人』だ」と言われるように試行錯誤しながら工夫を凝らした。
▪山田竜太(やまだ りゅうた)
乃村工藝社 CC事業本部 クリエイティブ局 デザイン1部 デザイナー
1977年東京都生まれ。幼少期に訪れた米ディズニーランドに感銘を受け、テーマパーク作りを志すようになる。早稲田大学理工学部、千葉大学大学院自然科学研究科デザイン卒。2002 年乃村工藝社入社。エンターテインメントデザイナーとして、エンターテインメント空間を中心に、企業の展示会やショールーム、展覧会、ショップ、飲食施設まで集客施設デザインを幅広く手掛ける。
「ナガシマスカ」など富士急ハイランドのアトラクションを手掛ける一方、韓国・エバーランドのアトラクション「Horror Maze」では日本のお化け屋敷を実現するため、企画、空間、演出だけでなく、アクターの演技指導まで行う。デザインコンセプトは、訪れた人が「ワクワクドキドキ」する空間づくり。エンターテインメント空間の魅力をつくるため、空間デザインだけでなく、照明や音、ギミックなどを取り入れた複合演出全体のデザインを得意とする。
2008年 「井上雄彦 最後のマンガ展」:空間デザイン
2011年 富士急ハイランド アトラクション「高飛車」:クリエイティブディレクション(企画/空間/演出)
2014年 「進撃の巨人展」:空間演出ディレクション(企画/空間/演出)
©諫山創・講談社/「進撃の巨人展」製作委員会