ジャパンイマジネーションの「セシルマクビー(CECIL MCBEE)」は、2019年秋からリブランディングを進めている。1番店の渋谷109店を9日にリニューアルオープンする。新コンセプト「今の時代にちょうどいい」を掲げて、商品全般をガーリーテイストにトレンド感を加味したデザインに一新。店内もより明るく、親しみやすい雰囲気に変える。
1985年にスタートした同ブランドは、「セクシーカジュアル」をコンセプトに2000年代の渋谷のギャル文化をけん引し、00年~13年まで同館の売り上げナンバーワンの座に君臨。しかしギャルブームの衰退に伴い、次第に苦戦を強いられるようになる。17年には「モテ服ナンバーワン」をテーマに、従来のセクシーカジュアル路線から大胆にフェミニン路線へ変更。だが2年で今回のリブランディングに踏み切った。
かつて大流行したブランドショッパーに踊ったブランドロゴも、モダンなサンセリフ体に変え、旧来のブランドイメージからの決別を強調する。「セシル」はギャルを捨て、どこへ向かっているのか。ギャルブームの全盛期に渋谷109店で店長を務め、現在はブランドを統括する手塚邦洋営業統括リーダーに聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):エッジィなスタイルでギャルトレンドを引っ張ってきたイメージ。だが、今回のリブランディングで「今の時代にちょうどいい」を掲げた。理由は?
手塚邦洋「セシルマクビー」営業統括リーダー(以下、手塚):創業から34年がたち、若い女性のライフスタイルも変化している。ギャルブーム(2000年代)当時の若い女性は、「右へならえ」のようにメディアから発信されるトレンドを追い求めていた。だが今はテレビを見ず、コスメやファッションの情報はインスタグラムから仕入れ、SNS投稿のために多くの時間を費やしている。いたずらに露出はせず、でもインスタで映えるようなデザイン性はあって、他の女の子と同調できるような、自然なかわいらしさのある服が“今”求められている。
WWD:「ギャル」を捨てる?
手塚:キラキラのネイルに、眩しいくらいの金髪をなびかせていたギャルは、スタッフにすらもうほとんどいない。女性のスタイルも多様化し、うちが得意としてきた「こうするのがイケてる」という方程式のような着こなしを提案するやり方も通用しなくなっている。17年には、乃木坂46の白石麻衣をブランドアイコンに立てて“モテ服ナンバーワン”を掲げてフェミニン路線へ大胆にモデルチェンジしたが、少しやりすぎだったかもと反省している(笑)。現在も館の年間売り上げ5位以内にはランクインしているが、店の面積(115平方メートル)から考えてももっと売れるはずだと考え、さらなるテコ入れに踏み切った。
WWD:ヤングカジュアル市場では、男性に媚びない魅力や自立した女性の強さにフォーカスしたブランドが多い。そういったポジションを狙う?
手塚:真逆だ。むしろ、回りの目を気にして、SNS投稿で「いいね」をもらえることに喜びを感じるような、等身大の女の子がターゲット。想定の客層は従来どおり10代から20代前半までだが、金髪のギャルではない。ペルソナは川崎、もしくは横浜の公立高校に通う17歳の女子高校生で、名前はメルちゃん。好きなブランドも特にないおしゃれ初心者で、自分探し中の“平均JK”だ。創業当時からの強みであるワンピースも、露出を強調するのではなく、ガーリーな長丈のものも増やす。売り上げ構成比を現状の30%から40%まで引き上げたい。
WWD:トレンドに寄せるあまり、デザインが同質化してしまう恐れはないか?
手塚:OEM・ODM生産が強みになる。「セシル」は安価なSPAブランドが競合となるゾーンで、うちのようなビジネスモデルは後ろ向きの文脈で語られがちだが、デザイン面で彼らにはない強みを生み出せる。ブランドの34年の歴史の中で、取引先とは長く太い関係を構築してきた。われわれと同じくらい「セシル」を愛し、「セシル」のことを理解してくれている同志だ。取引先からは1ブランド1人の企画担当者がつくのが通常だが、うちに5人も割いてくれる取引先もある。今後も膝をつきあわせながら、面白いものを作っていきたい。
WWD:時代にあわせて、今後もブランドは変化していく?
手塚:木村(達央社長)の言葉を借りれば、「われわれはアパレルではなく小売業」。消費者が何を求めるかによって、大胆に変えていくこともありえる。ただ、スタート当時から変わらないもの、変えてはならないものは当然ある。それはブランドへの愛だ。僕が「セシル」の店長をしていた当時は、日サロで焼けた身体に、「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」のスーツを羽織り、「ヴェルサーチェ(VERSACE)」のネクタイを締めて店頭に立ち、常に20~30人の行列ができているレジをさばいた。この格好で汗まみれになりながら、バックヤードと店を往復し、それでも在庫が足りなければ、レンタカーで倉庫まで行った。「僕の彼女だったらこれを着てほしいな」という接客の口説き文句で成約率は4割ほどで、「プロ野球なら首位打者だ」と自慢して回った。ほかのスタッフも金髪で魔女のようなネイルをして、接客マニュアルもない無法地帯だったが、体力と情熱、何よりブランドが好きだから乗り越えられた。
WWD:生まれ変わった渋谷109店の目標は?
手塚:バカ売れしていたころの経験を、今の若いスタッフにも伝えて「自分たちでもやれる」というモチベーションを引き出したい。今も、「セシル」で働きたいという男の子からの応募がある。こういう情熱のあるスタッフを何より大切にしていかなければならない。新しい渋谷109の店は、リニューアル前から売上高20%増を目指す。生まれ変わった「セシル」で、もう一度渋谷の台風の目になる気概でやっていく。