サステナビリティに取り組まない企業は存続できない――といわれる一方で、具体的に何をどうしたらいいのかわからないという声も聞く。そこで「WWDジャパン」11月25日号では、特集「サステナビリティ推進か、ビジネスを失うか」を企画し、経営者やデザイナー、学者に話を聞きその解決策を探る。今回はファッションデザイナーのキャサリン・ハムネットに話を聞く。
WWD:今回イベントのための来日をキャンセルしたのはなぜ?
キャサリン・ハムネット(以下、ハムネット):来日をキャンセルしたことに関して、大変申し訳ないと思っている。日本の台風による災害をはじめ、深刻な気候変動を目の前にサステナビリティを語るために飛行機に乗り、1.5トンもの二酸化炭素をまき散らして日本に向かうことはできなかった。その行動自体がサステナブルではなく、解決すべき問題を自ら遅らせることになる。それは、偽善者のすることで正当化できないと思ったから。
WWD:自身が環境問題をはじめ社会問題に対する意識を持ち始めたきっかけは?
ハムネット:セントマーチンズ美術大学(CENTRAL SAINT MARTINS)でファッションを学んだ後、ビジネスをスタートさせた。世界で一番のファッションデザイナーになりたいと思い、それを実現させた。それが正しいことであるという確信を得たいと、1989年にアパレルや繊維業界が環境・社会に与えている影響をリサーチした。その結果、悪夢のような状況だと分かった。ファッションという巨大産業が地球上の全ての生命を脅かすことが分かったのだ。
WWD:サステナビリティに関するファッション業界の問題は何か?
ハムネット:コットンやポリエステル、ナイロン、アクリル、デニム、PVCなど、あらゆる素材の製造や加工がもたらす環境や生態系へのダメージ。サステナブルと言われているビスコースもレンチング社以外のものは環境破壊をもたらす。発展途上国の衣料生産労働や綿花栽培農家などは業界における奴隷のようなものだ。
WWD:持続可能なファッションとは?
ハムネット:ファッションは常に私たちと共にある。なぜなら、それは人間的な活動だから。ファッションは自分が誰であるかを表すと同時に、仲間を引き付けるものでもある。ファッションは地球上で最も大きな産業の一つだが、私たちが知っているこの世界が存続するためには今までとは違う方法を取るしかない。あらゆる生き物に害を与えない産業になるべきだ。
WWD:何年も前からエシカル、サステナブルを打ち出しているファッションブランドがあるが、一般に広がらない理由は?
ハムネット:商品自体に魅力がないことと、劣悪な労働環境で作られたファストファッションとの競争が理由だと思う。
WWD:サステナブルな活動をしているブランドやデザイナーで注目しているのは?
ハムネット:「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)」はもちろんだけど、彼女に続くデザイナーが各地にいる。ニュージーランドの「マギー マリリン(MAGGIE MARYLIN)」やロンドンの「フィービー イングリッシュ(PHOEBE ENGLISH)」「リチャード マローン(RICHARD MALONE)」「クリストファー レイバーン(CHRISTOPHER RAEBURN)」「アルワイヤ(AHLUWALIA)」、ニューヨークの「マラ ホフマン(MARA HOFFMAN)」、シューズはフランスの「ヴェジャ(VEJA)」。
WWD:サステナビリティの鍵となることは何か?
ハムネット:サステナブルを促進するか、この地球を失うか……。一人ひとりがどのように消費するかの判断が地球の未来を左右する。現代の消費者は、より意識を持った消費をするようになった。生物が存在する地球の未来を私たち人間が背負っているとしたら、消費者は自分の消費がどのような結果や変化をもたらすか意識せざるを得ない。
WWD:自分が生活する上でサステナビリティに関して気にかけていることは?
ハムネット:ハイブリッドカーを運転し、歩いて仕事に行き、オーガニック食品を食べ、リサイクルし、サステナビリティという言葉を広げること。
WWD:日本におけるサステナビリティは、欧米に比べるとかなり遅れている。情報が少ないのはメディアの責任でもあるが、消費者の意識が低い。消費者の意識を変えるには何をするべきか?
ハムネット:われわれが愛している今の生活と世界は、私たちが正しい決断を下せるかどうかに懸かっているということを伝える必要がある。私たちの消費の仕方が、地球の未来を決めるのだ。
WWD:究極のサステナビリティとは?
ハムネット:消費や行いが、あらゆる生き物に一切害を与えないこと。
キャサリン・ハムネットによるビデオメッセージ