サステナビリティに取り組まない企業は存続できない――といわれる一方で、具体的に何をどうしたらいいのか分からないという声も聞く。そこで「WWDジャパン」11月25日号では、特集「サステナビリティ推進か、ビジネスを失うか」を企画し、経営者やデザイナー、学者に話を聞きその解決策を探る。今回はビューティ業界から、LVMHグループのビューティブランドである「ゲラン(GUERLAIN)」のローラン・ボワロ(Laurent Boillot)前CEO(現メゾン ヘネシー社長)に、10数年かけて取り組んできた4つの活動の成果を聞く。
WWD:サステナブルな活動について取り組みを始めたのは?
ローラン・ボワロ=前ゲランCEO(以下ボワロ):2007年にCEOに就任して以来、持続可能な開発を長期にわたるテーマとして取り組んでいます。そこには2つの理由があり、1つ目は製品に使用する天然由来の原料を入手することは戦略的に極めて重要だと認識しているから。2つ目はCSR(企業の社会的責任に対する取り組み)を中心とした組織を作ることで、持続可能な開発へのアプローチが企業の展開モデルの中に浸透してくれるのではないかと考えたからです。そこで専任ディレクターを起用し活動を強化しています。
「排出二酸化炭素の約50%削減を実現」
ボワロ:まずは、持続可能開発計画(サステナブル ディベロップメント プログラム)として1.エコデザイン2.生物多様性(生物保護)3.気候変動対策への貢献4.社会的責任の4つの柱を立てました。今年1月にはこれらを企業のマニフェストとして文書化したのですが、CSRや持続可能な開発がいかに当社に浸透しているか、当社の存在価値をあらためて表すために行ったことです。
WWD:それぞれの具体例を教えてください。
ボワロ:エコデザインについては、全ての新製品に採用し徹底します。すでに主力製品である「オーキデ アンペリアル」や「アベイユ ロイヤル」では容量は変えずにボトルデザインを変更するなどして、排出二酸化炭素を約50%削減することを実現しました。今後、新しい製品を開発するに当たっては3R(リデュース=削減、リユース=再利用、リサイクル=再資源化)の手法を厳守します。生物多様性では、「アベイユ ロイヤル」の主成分であるハチミツ産地のフランス・ウエッサン島の養蜂を支援する団体をサポート。今年からは世界中の養蜂家を育成・支援するためにユネスコとパートナーシップを結びました。なぜ養蜂が大切かというと、ミツバチはハチミツやロイヤルゼリーなどの生産物を作り出すだけでなく、ポリネーター(花粉媒介者)としての役割を担っているからです。世界の食料の9割を占める100種類の作物種のうち、7割はミツバチなどが受粉を媒介しているともいわれているのです。地球上に2兆匹のミツバチが必要とされていますが、毎年20%減少しているため2兆匹を達成するには長い時間がかかります。当社は今後10年間で10億匹のミツバチを復活させるために活動を推進していきます。日本でもニホンミツバチの保護活動の支援を始めるところです。
気候変動政策では、2014年からパリの店舗へ商品を運搬する際に電気トラックを使用したり、生産工場はHQE(高環境基準)の建物だったり、フランスの全店舗と子会社の50%が環境マネジメントシステムに関する国際規格ISO14001を取得したりしています。28年までに二酸化炭素の排出を抑える仕組みを確立し、カーボンニュートラル(二酸化炭素の排出量を削減量で相殺すること)を達成します。社会貢献は、女性の尊厳を守り、全ての美にコミットするすることをテーマに、21年までに子会社の全てが世界的ながん支援プログラムの「ルック・グッド・フィール・ベター」や同様の活動に参加していきます。
「トレーサビリティーを閲覧できるデジタルプラットフォーム」
WWD:今年3月には「トレーサビリティー」を閲覧できるデジタルプラットフォームを導入しましたね。
ボワロ:ビューティ業界では例のないシステムで、3年の準備を経てようやく完成させたものです。もともとこのプラットフォームは「ゲラン」のチームのために作ったもの。環境に対するフットプリント(人間1人が生活するのに必要な各種資源の生産に必要な土地面積)を作成するには全てを測定するということが重要だったわけです。進めている中で、お客さまもこういった情報を知りたがっていることが分かり、公開することにしました。どのようなものかというと、製品を選んでいただくと、その原料がどこから来ているかをマッピングするようになっています。原料だけでなく、パッケージングや生産工場、輸送ルート、販売店、リサイクリングまで開示しています。現在はスキンケアとメイクアップ全製品で実現できていますが、来年早々にフレグランスの全製品にも反映できるでしょう。言語表記も来年中にはそれぞれの国に対応していきたいですね。これが確立すれば、売り上げにも好影響が出てくると予測しています。また、われわれの取り組みを他の企業が目にすることで刺激を与えられるきっかけになれればとも思っています。
「業界内外との連携を強める」
WWD:年2回“サステナブルなインスピレーション”をテーマにしたイベントを開催し、業界内外との連携を強めるなど、持続可能なビジネスを続けるための取り組みに積極的です。
ボワロ:3年前から「ミツバチの大学(BEE University)」というイベントを主催しています。商業的な目的は一切なく、ミツバチを守っていくという大義のため行ない、養蜂業者やNPO団体、政治家などが参加してくれています。年々参加者が増え、5月はイベントをユネスコ本部で開催して400人が集まり、メディアからも注目されました。その他、当社と同じような考え方を持つ著名な企業との出会いの場を設けています。参加企業にはエコデザインという意味で極めて強い問題意識を持っている「ネスプレッソ(NESPRESSO)」や「クラランス(CLARINS)」、グリーンな電力事業者などが含まれています。また、当社が属するLVMHグループの中で、環境問題に関わるスタッフが3カ月ごとに会合するのですが、しばしば「ゲラン」がベストプラクティス賞に選ばれ、グループ企業を指導することもあります。今後も12年間で培ってきた知識やノウハウを生かしながら、サステナブルな取り組みを進めていきます。