今、スピリットの世界で最も注目されているのがフィンランド発のジン“アークティック ブルー ジン(以下、ABG)”だ。“ABG”は、2018年の「世界スピリッツアワード」で2つの金賞を受賞して一躍脚光を集めているのだ。
“ABG”を創ろうと考えたのは2人のフィンランドの若者、ミコ・スプーフ(Mikko Spoof)とキモ・コイヴィッコ(Kimmo Koivikko)だ。2人のコンセプトは「フィンランドの自然を閉じ込めた世界一のジン」。そのきっかけになったのは、ミコが機内で見かけた年々急増するフィンランドの観光客に関する記事。「その自然に触れるために毎年何百万人の人々がフィンランドにやってくるのだから、ユネスコが世界で最も美しいと認めているその水と空気を閉じ込めたジンを作れば、これは素晴らしいことになるのではないか?」という思いが出発点だった。2016年春から世界一のジンを作る試みがフィンランドのカレリア地方の北部イロマンスティで行われることになった。
原材料は、北極地方の雪解け水、そして凍土から生え出てくるワイルドブルーベリー(ビルベリー)をベースにした、ビルベリーの葉、ジュニパー、スプルース、カルダモン、コリアンダーの種子、フェンネルの種子、そしてもう一つ独自の成分が加えられた。
ミコとコイヴィッコに加えて、料理人のジャッコ・ソルサ(Jaakko Sorsa)と蒸留業者のアスコ・リナネン(Asko Ryynanen)もメンバーに加わった。4人は「世界一のジンという称号を得るまでは販売はしない」という誓いを立てた。
「なぜ、ジンだったのか?」という問いには、「他のスピリッツに比べて、ジンのゾーンに突出した存在がないように思ったから」とミコ。「しかしその考えは間違っていたね。そんな簡単なことではなかった」とミコは苦笑いする。試作は1200回を超え、3回ほど倒産しそうになったという。
「2017年の春に蒸留法の間違いに気が付いた。アルコール臭を取り除く凍結濾過蒸留の過程で素晴らしい香りも取り除いていたのだ。それでアメリカ、デンマーク、ドイツの蒸留学者を招き対策をしていくうちに全く新しい凍結しないで蒸留する方法に辿りついた」とミコ。「完成したABGがいかにピュアな存在であるかをワールドスピリットコンペティションアワードの事務局に説明しても信じてもらえなかったのでサンプルを送ったら、それがヨーロッパのホワイトスピリットとしては初の金賞の授賞につながった。
すでに“ABG”は欧米を中心に販売されており、すでに生産本数も年間200万本に迫る勢いだという。「年間600万本は見えている。工場を増設しないといけない。将来的には2000万本までいくのではないか」とミコ。
コンセプトが強固だと、ラグジュアリーなブランドが短期間に誕生するという稀有の例かもしれない。フィンランドのブランドといえば、携帯電話の「ノキア(NOKIA)」、ファッションの「マリメッコ(MARIMEKKO)」が日本では有名だが、ずばりフィンランドそのものの「アークティック ブルー ジン」もその仲間入りをするのではないだろうか。
さて日本での販売は、恵比寿の三ツ星シャトーレストラン「ジョエル・ロブション」の「ルージュ・バー」での提供を皮切りにラグジュアリーなレストランやセレクトストアで販売される予定だ。販売代理店は株式会社ルイRだ。“ABG”(アルコール度数46.2%、税込小売価格6000円税込)のほかに、“アークティック ブルー ジン ネイビー ストレングス”(アルコール度数58.5%、税込小売価格7400円)がある。
また来年のオリンピック期間中に東京のフィンランド大使館の敷地内にフィンランドの魅力を伝えるために設けられるパビリオンにて“ABG”のバーがオープンする予定だ。