2020年春夏コレクションは、多くのデザイナーがファッションを通じて環境問題に対する問題提起を行った。アマゾンの森林火災をはじめ、16歳の環境活動家のグレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)による演説や世界中の若者が参加したグローバル気候マーチが続いたこともあり、デザイナーはジャングルプリントや花柄などを洋服に施したり、ラフィア(ヤシの繊維)などのナチュラルな素材を用いたりした。それに合わせ、「WWDビューティ」12月5日号でも解説しているのが、メイクでも生の花や植物をヘアやメイクの表現として用いる“ネイチャー”ルックが 浮上した。
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また、ルックのトレンドではないものの、重要なトピックスとして注目すべきはダイバーシティー(多様性)の表現だ。弊紙でもコレクションにおけるダイバーシティーは毎シーズン取り上げてきたが、一つのショーの中にもモデルの個性に合わせて幾通りかのヘアメイクを施すことが増えている。特にニューヨークでは61人のモデル全員に異なるヘア、メイク、ネイルを手掛けた「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」(詳しくは「WWDビューティ」10月10日号を参照)が大きな話題を呼んだが、ヨーロッパの都市でも一つのヘアメイクアップルックにとらわれず、自由にモデルや洋服に合わせて変えている。「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」は前髪に見立てた羽根の色を変えたり、リップとアイメイクの組み合わせを変えたりと、9種のルックを手掛けた。また、「サカイ(SACAI)」のように一部のモデルはロックでセンシュアルなスモーキーアイ、残りのモデルはスーパーナチュラルといったように相反するルックが混在することも珍しいことではなくなった。
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その背景には、モデル起用の多様化がある。10年ほど前は、ヨーロッパを中心とした白人モデルがランウエイを独占していたため、みんな同じヘアメイクが主流だった。だが時代はダイバーシティー&インクルージョン。さまざまな人種のモデルを迎えていることでそれだけ多様な肌色・肌質、髪色・髪質に対応しなければならなくなった。加えて宗教やセクシュアリティーの垣根を越え、例えばムスリムのモデルはヒジャブを着用するためヘアには手を加えないなど、一つのメイクルックを全員同じように施すことが難しくなっている。実際ヘアメイクアップアーティストやネイリストにインタビューをしても、ルックについて「モデルの個性を生かしている」「モデルの個性に合わせて変えている」と答えることが本当に多く、すっかり聞き慣れた回答にもなっているほどだ。
最近は皮膚疾患や障害があるモデルのほか、妊婦やトランスジェンダーモデルなどもランウエイを歩くようになり、多様性の幅も広がる一方だ。男女混合のショーも増える中で、多様なヘアメイクが存在することはもはや当たり前かもしれない。さらに若年層に絶大な影響力を発揮するリアーナ(Rihanna)が自身のコスメブランド「フェンティ ビューティ バイ リアーナ(FENTY BEAUTY BY RIHANNA)」を立ち上げた際、多様な肌色に対応するファンデーションを出したことで大きな話題を呼んだ。このようにランウエイのヘアメイクのダイバーシティーの流れは確実に商品へと落とされてきている。今後売り場にもこの流れが広く浸透することで消費者が当たり前に商品を選べる時代が来ることに期待したい。