ファッション

「シャネル」とファーフェッチが“未来のブティック”で協業 アプリを活用したパーソナルな買い物体験

 「シャネル(CHANEL)」とラグジュアリーEC大手ファーフェッチ(FARFETCH)が協業して進めている「未来のブティック(Boutique of Tomorrow)」プロジェクトが実を結びつつある。パリのカンボン通りにある「シャネル」本店の近くに建つ新旗艦店で、7カ月前からテスト導入していたデジタル戦略が一定の成果を上げているという。これは販売員用と顧客用の2種類のアプリ、そして試着室に置かれた“コネクテッド・ミラー”からなっており、顧客ごとのパーソナル接客を目指すというものだ。

 顧客向けのアプリは招待制で、現在のところ1400人程度の得意客にダウンロードリンクが送られている。このアプリを使い、顧客は店舗を訪れる前に製品を見てウィッシュリストを作成することが可能だ。顧客のアプリにあるQRコードを販売員が自身のアプリで読み取ると、顧客が作成したリストなどのデータが表示される。これに従って試着室に持っていくアイテムをそろえ、かつそれに合わせた追加のアイテムなども準備できる。ほかにも販売員用のアプリで店内にある製品を試着室にあるコネクテッド・ミラーに映し、顧客がそれを実際に見たいかどうかを確認できるため行き来する回数が減り、時間が節約できるという。また顧客用のアプリには、ガブリエル・シャネル(Gabrielle Chanel)が実際に住んでいたアパートメントのバーチャルツアーや、コレクションに登場したアイテムの詳細、ランウェイショーに使われた音楽のプレーリストなどのコンテンツが用意されている。

 ブルーノ・パブロフスキー(Bruno Pavlovsky)=シャネル ファッション部門プレジデントは、「ここは世界で最高のブティックだ」と自信を見せる。「『シャネル』の顧客は忙しいので、店を訪れた際にはその限られた時間内で好みのアイテムをできるだけたくさん見たいと思っている。ECではサイト上にあるものを何でも購入できるが、新旗艦店では一味違う買い物体験を提供するべく尽力した。例えば、ここでは顧客が選んだジャケットが本当にその人に合うものであるように販売員が気を配ることができる」と語った。同氏はまた、以前から発言している通り今後もウエアやバッグ類のECを行う予定はないと付け加えた。

 新旗艦店のエリサ・ラガイエット(Elisa Lagayette)=ストアマネジャーは、「このアプリは顧客の好みやワードローブを把握した上でさまざまなアイテムを薦めることができるため、すでに売り上げにプラスの影響が出ている。また顧客エンゲージメントも上昇していると思う。来店回数の増加は、購入額の増加に直結する」とその効果について話した。

 ファーフェッチのリテール・イノベーション事業であるストア・オブ・ザ・フューチャー部門のサンドリーヌ・デヴォー(Sandrine Deveaux)=エグゼクティブ・バイス・プレジデントは、「最高のテクノロジーとは、ユーザーが意識せずに使える目に付かないものだ。『シャネル』とのプロジェクトでも、テクノロジーは販売員と顧客のやりとりをサポートするために使われており、販売員の代わりとなるものではない。そこがECとは全く異なる」と述べた。

 ジョゼ・ネヴェス(Jose Neves)=ファーフェッチ創業者兼最高経営責任者は、「『シャネル』新旗艦店での好評を受け、今後は他店にも展開していく予定だ」と語った。将来的には、同社が擁する英セレクトショップのブラウンズ(BROWNS)や、「トム ブラウン(THOM BROWNE)」などにも同様のシステムを導入していく計画だとしている。「これはただの販売員支援アプリではない。顧客とブランドのやりとりをスムーズにすることで店舗での買い物体験を向上させ、ブランド独自のコンテンツなども提供して顧客との結び付きを強化することができる“システム”だ。ユーザーごとに違う使い方ができるので、ブランドが違えば全く違う活用法になると思うし、同じ『シャネル』でも国や店舗によって異なる使い方になるだろう」と説明した。

 パブロフスキー=シャネル ファッション部門プレジデントによれば、新旗艦店を訪れる得意客は週におよそ60人で、販売員は50人ほどいる。その双方の意見を取り入れながら、アプリなどをさらに改良していきたいという。「本当に重要なのはテクノロジーではない。技術的な部分は同じでも、買い物体験はそれぞれのブランドで異なったものになる。今回、われわれは『シャネル』ならではのサービスや付加価値を開発できたと自負している」と語った。

 なお、「シャネル」は2020年にパリの3店舗にもこの「未来のブティック」システムを導入する予定だが、どの店舗なのかは明らかにされていない。同氏は、「ブティックごとに特徴があるので、新旗艦店と全く同じものにはならないだろう。『シャネル』では、“1つのブティック、1つのストーリー”という考えで店を運営している。地域や国によってアプリをカスタマイズする必要があるかもしれない。ゆえに、明日すぐに全店に導入ということはない」と締めくくった。

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