イギリス海峡に浮かぶ孤島・ガーンジー出身の若き天才プロデューサーのムラ・マサ(Mura Masa)が、待望のセカンドアルバム「R.Y.C」を来年1月17日にリリースする。
現在23歳のムラ・マサは、15歳の頃から自室のベッドルームをスタジオに曲作りをスタート。すると、そのキャッチーでメロウかつ先鋭的なサウンドが早くから国内外で好意的な評価を受け、20歳で発表したデビューアルバム「MURA MASA」には、エイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)やゴリラズ(Gorillaz)のデーモン・アルバーン(Damon Albarn)ら彼のサウンドに魅了されたさまざまなジャンルの豪華アーティストがゲストとして参加し、世界的なセンセーションを巻き起こした。
衝撃のデビューアルバム発表から2年以上を費やして制作されたセカンドアルバム「R.Y.C」は、前作よりもバンド色が濃くなっている。はたしてムラ・マサのクリエイションや心境にはどんな変化があったのか?先日行われた東京公演の直前に話を聞いた。
WWD:デビューアルバムでは自身の名前を冠していましたが、セカンドアルバムを「R.Y.C」と名付けた理由は?
ムラ・マサ:「R.Y.C」は「Raw Youth Collage」の略で、子どもの頃の記憶や体験、ストーリーなどがコラージュされたノスタルジアを感じられるアルバムにしたくて、歌詞もアルバムを通してそうした内容が中心になっているからさ。「R.Y.C」にしたのは、単純に言いやすくしたくて(笑)。
WWD:デビューアルバムのアートワークはグラミー賞で「最優秀レコーディング・パッケージ賞」にノミネートされるほどデザイン性の高いものでしたが、「R.Y.C」はとてもシンプルですね。
ムラ・マサ:表現したかった音楽性が前作とは正反対だから、アートワークもそれに合わせたんだよ。前面をグレーでただ塗りつぶすことで、現代社会というか政治的にも社会的にもつまらない今の時代を表していて、スマイルマークはその陰から覗いている幸せだった頃の記憶やノスタルジアを表現しているんだ。スマイルマークは、子どもの頃からテレビゲームをたくさんプレーして育ったからテレビゲームのようなピクセルアートで描いていて、よく見ると右目が「Raw」、左目が「Youth」、口が「Collage」になっているんだよ。
「R.Y.C」収録曲でスロータイを迎えた「Deal Wiv It」
WWD:音楽性の話があがりましたが、「R.Y.C」にはウルフ・アリス(Wolf Alice、ロンドンのロックバンド)のエリー・ロウセル(Ellie Rowsell)や、スロータイ(Slowthai、ノーサンプトンのグライムMC)が参加していたりと、前作よりもバンドやパンクサウンドの色が強い印象です。
ムラ・マサ:最初にノスタルジアを感じられるアルバムにしたいって話をしたけど、僕は幼い頃にいろいろなパンクバンドやロックバンドを聴いて、そうしたバンドサウンドを実際に演奏することでアーティストとしてスキルアップしてきた。だから今作ではそういったジャンルの要素を音楽的に取り入れることで、僕のノスタルジアを表現しているんだ。それと同時に今の音楽シーンを見ていると、来年あたりに同様のジャンルがすごく重要になり、ポップミュージックでまたギターサウンドが盛大にカムバックする気配を感じているから。「R.Y.C」がその燃料になればいいなという気持ちと、そういった動きがあることを示したかったーー“ツァイトガイスト(Zeitgeist、ドイツ語で時代精神)”って感じだね。
ファーストアルバムは、幅広い意味でのポップミュージックを作りたかったからいろんなサウンドをたくさん取り込んで、ゲストアーティストにも好きなように歌詞を書いてもらった自由でオープンな作品。でも今回のアルバムは、1つのテーマに沿ってゲストアーティストにはそのテーマで歌詞を書いてもらうようにお願いしたから、よりコンセプトに基づいてキュレーションされた感じの作品。だから当然、サウンドもかなり違うものに仕上がったね。
WWD:前作から制作期間中によく聴くアーティストなどは変わりましたか?
ムラ・マサ:ファーストの頃に何を聴いていたのかもう覚えていないや(笑)。今回は、トーキング・ヘッズ(Talking Heads)を1番よく聴いて、あとはジョイ・ディヴィジョン(Joy Division)やザ・キュアー(The Cure)、ノイ!(NEU!、旧西ドイツのロックバンド)だね。
WWD:ベッドルームで音楽を制作していた頃は自分と向き合う時間が十二分にあったかと思いますが、ファーストアルバムの大ヒットで世界を飛び回るようになり、そうした時間を取りづらくなったかと思います。そういった環境の変化は音楽性に影響しましたか?
ムラ・マサ:そうしたことになるべく影響されないように生活していたよ。ガーンジーというとても小さな島で生まれ育ったアウトサイダーだから、この独自の視点を失いたくないと思っているからね。でも、世界中をツアーで回るようになってオーディエンスの反応を必然的に目にすることが多くなったから、作る音楽に彼らの反応が影響することはあるかな。「この曲はライブでやったときにみんな盛り上がってくれるかな」とか「どういう風に聴いてくれるのかな」って考えながら制作することは、ガーンジーの時なら考えもしなかったからね。
2014年発表のミニアルバム「SOUNDTRACK TO A DEATH」に収録されている「Shibuya」
WWD:世界を飛び回るという点でいうと、この1年だけでも3度の来日公演を行っていますね。過去に「Shibuya」という楽曲を発表するなど“日本好き”を公言してきたあなただからこそ、また日本をテーマにした作品を発表するんじゃないかと期待してしまいます。
ムラ・マサ:「Shibuya」が収録されているミニアルバム「SOUNDTRACK TO A DEATH」(2014年発表)には「¥」っていう曲もあるくらい、ムラ・マサとして活動し始めた初期の頃は訪れたことがない憧れの地である日本の音楽やアートに興味があったんだ。当時は健全じゃなかったというか……なんて言えばいいかわからないんだけど、ある意味で日本をフェティシズムの対象にしていたのかも。その後、実際にこうして日本に来れるようになったからこそ、心のどこかで直接的に言及したくなくなったのかもしれないね。僕が日本に抱いていたファンタジーに対して、実際に訪れていろいろと体験してみると想像と違ったというか。もちろん想像を上回るという意味でね!(笑)。だから以前ほどではないけど、今でも日本の音楽からインスピレーションは受けているよ。坂本龍一には本当に影響されたし、ゲームが大好きだから小島秀夫にもインスパイアされているし、池田亮司も好き。挙げ始めたら長くなっちゃうからこのへんにしておくけど(笑)。
WWD:まだ日本人をゲストアーティストとして迎えたことがありませんが、もし迎えるなら誰を?
ムラ・マサ:やっぱりKOHHとは一緒に何かやってみたいね。あとは初音ミクときゃりーぱみゅぱみゅかな。