「タコマフジレコード(TACOMA FUJI RECORDS)」は架空のレコードレーベルをコンセプトとしたTシャツブランドで、公式サイトで新作が発売されると即完売するアイテムも多く、音楽好きを中心に知る人ぞ知るブランドとして人気となっている。近年はスエットやパーカ、ロンTなど、アイテムラインアップも拡充。2019年は「ネペンテス(NEPENTHES)」と組んで、大阪や博多、札幌、ニューヨーク、ロンドンなどでもポップアップショップを開くなど、ウェブだけではなくリアルでも精力的に活動を行う。今回「タコマフジレコード」代表の渡辺友郎氏に話を聞いた。
WWD:渡辺さんが「タコマフジレコード」を始めたきっかけを教えてください。
渡辺友郎(以下、渡辺):もともとビクターというレコード会社に10年ほどいて、ビジュアル・プランナーとしてCDジャケットやアーティストグッズなどの制作業務を担当していました。そこでは僕が実際にデザインをするわけではなく、アートディレクターやフォトグラファーといった外部スタッフのブッキングなど、制作進行的な業務がメインでした仕事をやっている中で、例えばデザイン案などはアートディレクターと相談して、こちらがやりたいA案、向こうの要望通りのB案、折衷案のC案といったように、3案くらい提案するんですね。そうするとたいていC案になり、そのクオリティーをどう高めていくかという話になります。僕としてはA案がおすすめなのにというもどかしい思いがあって、クリエイターが自由に好きなものをつくれるようなプラットフォームがあればいいなと考えていました。それでレコード会社を辞めたタイミングで、ミュージシャンのTシャツなどグッズを制作するクリエイティブ・プロダクション「ロッジ・アラスカ」を2007年に設立し、それと並行して、ずっとTシャツが好きだったので翌年の08年にTシャツブランド「タコマフジレコード」を始めました。
WWD:レコード会社を辞めたときからTシャツブランドを始めようと思っていたんですか?
渡辺:Tシャツはすごく好きで自分でもかなりの枚数をコレクションしていたんですが、辞めたときはそこまで考えていなかったです。いつかできたらいいなくらいだったんですが、独立して1年くらいたってからやってみようという感じで始めました。なので今もですが、ファッション的な基礎知識は恥ずかしいくらい持ち合わせていないです。
WWD:Tシャツのデザインはクリエイターが行っていますが、どんな人にお願いしているんですか?
渡辺:もともとビクターにいたときからお仕事していた人が多く、画家の五木田智央さん、アートディレクター兼イラストレーターのジェリー鵜飼さん、グラフィックデザイナーの井口弘史さん、同じくグラフィックデザイナーの峯崎ノリテルさんなどです。独立後に初めてお仕事した方々で言うと、アーティストの加賀美健さん、アートディレクターの鈴木聖さんなどです。
WWD:「タコマフジレコード」は“架空の音楽レーベル”というコンセプトがありますが、それは最初から決めていたんですか?
渡辺:はい。もともと音楽レーベルにいたことと、明確なコンセプトがあった方がクリエイターもデザインしやすい、受け取り手も理解しやすいと思ったので、“架空の音楽レーベル”というコンセプトを掲げました。コンセプトが制約になるのは避けたいので今はそこまで意識していなくて、クリエイターの方にお任せすることが多いです。ただ、テーマが必要な人には「コンセプトにちなんだ感じで」とお願いすることがあります。
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WWD:プレロスなどをモチーフにすることも多いですね。
渡辺:1980~90年代のプロレスが大好きで、ほかにも90年代前半くらいまでのスラッシュメタルとか、最近はDUBやフォークロックも好きです。でも全般的に、学生の頃に好きだったものが大人になっても変わらず好きですね。お酒も大好きで、ビールをテーマにしたものも多いです。格好つけても格好よくなりようがないので、愛着のあるものへの愛情だけは隠さないようにしています。
WWD:作家に「こういうテーマで作ってほしい」とお願いすることもあるんですか?
渡辺:それはほとんどなくて、9割がお任せで、好きに作っていただいています。ただ「自分でも着たいと思えるものにしてください」とだけはお願いしています。それでいただいたデザインに対して、その作品がよくみえるように考えながら、Tシャツのボディーカラーやプリントのサイジングは僕が決めています。
WWD:新しいクリエイターにお願いすることもありますか?
渡辺:あります。人の紹介だったり、洋書やギャラリーなどでの展示、インスタグラムで出会ったり。最近は海外のアーティストにお願いすることも増えました。あと、面白い人には「いい人いませんか」と聞いて、そういう場面で名前が挙がった人はチェックしています。
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WWD:Tシャツやパーカなどはこれまでも販売していましたが、今年はロンTも発売しました。
渡辺:前から作ってほしいという要望はあったんですが、僕自身がロンTを着ないので、興味がなかったんです。それが昨年「架空のミュージアムショップ」として活動しているENTERTAINMENTの数見くんのロンTを着る機会があって、それがすごく具合がよくて。それで自分でも作ってみようと思って今年から作り始めました。僕だけかもしれないけど、TシャツとロンTでは作るときのデザインに対する考え方が全然違うんですよ。だから作っていて本当に楽しいですね。
WWD:Tシャツのボディーはオリジナルですか?
渡辺:2020年からは全てオリジナルに移行しますが、それまでは半分オリジナルで半分は既製品を加工しています。オリジナルの方がどうしても製作日数がかかってしまい、「今作りたい!」という衝動や状況に対応するのが難しかったので、そこはスケジュールなどを考慮して選んでいました。
WWD:今後のリリース予定は?
渡辺:来年春に新作をリリース予定なのですが、ほかは何も決まっていないです。だって年末なのにまだ来春のTシャツのサンプル作ってるんですよ!(笑)。
流行ってすぐ廃れるのではなく
長続きできるブランドを目指す
WWD:「タコマフジレコード」は最初から順調でしたか?
渡辺:全然でした(笑)。スタートした当初に五木田智央さんに今も使っているロゴを製作していただいて。自分でもとても気に入って「これは売れるだろう」と思っていたんです。でも、都内のセレクトショップに持っていっても全然相手にしてもらえなくて。当時はそういう店にどう卸せばいいのかとかまったく知らなかったですし、向こうからしてみたら「どこの誰だ君は?このTシャツはなんだ?」っていうのもあったと思います。そんな中で「ビームスT」では最初から面白がって取り扱ってくれて、今でも僕のことをよく理解してくださっています。地方とかだと卸しもやっているんですが、基本的にはウェブでの販売がメインでした。
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WWD:五木田さんが制作したロゴがすごく印象的です。
渡辺:ありがとうございます。僕としては、ロゴは育てるものだと思っていて、毎年ロゴを使用したTシャツを制作しています。スタンダードとしてずっと使い続けることでロゴ自体の強度が増し、そこに愛着を持ってくれる方が増えてくれると信じています。
WWD:10年以上続けてきて、“軌道にのった”と感じたのはいつごろからですか?
渡辺:今もその実感はあんまりないのですが、生活できるなと思ったのは、始めて5~6年たったころの2013年くらいですかね。そのころから代官山の蔦屋書店などでも取り扱ってもらえるようになって、それで認知度も高まっていったと思います。
WWD:売り上げは順調に伸びていますか?
渡辺:「タコマフジレコード」はスタッフゼロ、僕1人で楽しく好きでやっているので、そこまで劇的には伸ばすことは考えていないですね。もちろん生活の糧にはしているし、貧乏でいるよりは豊かでいたいですよ。ただ、それ以上に長く続けたいという気持ちが強いです。流行ってすぐ廃れるとかは嫌なんですよ。流行ってしまうと翌年には「ああ、これね……」みたいな扱いになったりする。僕は好きな作家やアーティストと好きなTシャツを作りたいだけなんです。なので僕も「タコマフジレコード」もなるべくコソコソしていたいです(笑)。
WWD:ただ、ウェブで新作を発売したら即完売することも増えてきています。
渡辺:ありがたいです。僕はクリエイターの作品を「タコマフジレコード」というフィルターを通してリリースしているだけで、「タコマフジレコード」のブランド力をそれほどとは認識していません。Tシャツが好評なのはとてもうれしいですが、「売れる、人気がある」プロダクトよりも「自分がグッとくる、5年、10年先でも印象があせない」ものを作りたいです。そしてそれが結果として好評だったらうれしいです。
WWD:19年は積極的にポップアップを行っていましたが。
渡辺:「ネペンテス」に声をかけてもらって、博多、大阪、札幌のほか、ニューヨーク、ロンドンでもポップアップをさせてもらいました。もともとニューヨークの「ネペンテス」の方から声をかけてもらったんです。それで昨年末くらいにやることが決まって、ニューヨークでするなら国内でもということになって、国内の「ネペンテス」各店舗でもやることになりました。あと、代官山蔦屋書店や渋谷パルコ内の「Meets by NADiff」などでもポップアップをさせていただきました。
WWD:“朝霧ジャム”のような音楽フェスにも出店していますね。
渡辺:音楽フェスは僕自身が好きで出店しています。“架空の音楽レーベル”がコンセプトなので、音楽との親和性が高い層との接触の多い音楽フェスはいい出店場所だと考えています。唯一の難点はほとんどの場合が1人出店なので体力的にもうそろそろキツいことですね(笑)
WWD:直営店は考えていますか?
渡辺:やりたいという気持ちはゼロではないです。ただ今は僕1人でやっていて、それで一生懸命にやっているくらいがちょうどいい規模感なのではと思っています。スタッフが何人かいて、直営店があってという規模になると、今僕が仕事をしながら感じる軽やかさが目減りしてしまうような気がして。でもいつか今のフォーマットの自然な発展形として直営店ができたらいいですね。
WWD:最後に今後の目標は?
渡辺:自分で着たいと思えるTシャツを作り続けることです。それ以外だったら、僕と嫁と愛犬が健康で、仲のいい周りの人たちもほどほどに幸せで、絶えずその日の夜に1杯飲みに行ける程度のお金がポケットに入っているような生活が長く続けられたら十分です。