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南米発、唯一無二のフレグランス「フエギア1833」 創業者が語る持続可能なモノ作りとは?

 2010年にアルゼンチン・ブエノスアイレスで誕生したフレグランスメゾン「フエギア1833(FUEGUIA 1833)」は、南米の豊かな自然と文化や歴史から着想したモノ作りでほかにはない存在感を放つ。創設者のジュリアン・べデル(Julian Bedel)調香師は建築家の父をはじめとする家族の中で芸術文化に囲まれて育ち、アーティスト、弦楽器製作家、デザイナーとしての顔も持つ。同ブランドは創設当時から持続可能性へのテーマを重視する。自身が立ち上げたNPO「ヘルプ アルゼンチン(Help Argentina)」を通した原料の栽培や収穫により雇用を生み、外箱には倒木を再利用する。またフレグランスの中身には生分解性がある植物性原料のみを使用しており、地域社会と環境への配慮に力を入れる。創業の地ブエノスアイレスのほか、ミラノ、ニューヨーク、ロンドンにショップを構え、日本ではこれまで東京「グランドハイアット東京」内のブティックでのみ販売していたが、10月から伊勢丹新宿本店での取り扱いがスタートした。べデル創設者のブランド立ち上げの経緯とモノ作りへの思いを聞いた。

WWD:自身のフレグランスブランドを立ち上げた経緯を教えてください。

ジュリアン・べデル創業者(以下、べデル):ブランドの根幹には3つの要素があります。1つは私の家族のほとんどが芸術に関わっていることで、幼いときから自宅で行われていたワークショップで毎日いろいろな人やモノに触れていろいろなことを身につけました。最初は彫刻、次は音楽で、実際に弦楽器製作も手掛けるようになりました。そうした時期に、2004年にノーベル生理学・医学賞を受賞したリンダ・バック(Linda B. Buck)博士の研究リポートを読む機会がありました。それは人体と香りに関する研究で、人間の体は気体化した化学分子によって香りを感じるという内容です。エキサイトしたり、リラックスしたり、人は香りによって血圧や脈拍が変化したり、記憶にも密接に関係したりします。そうした影響は全て化学分子のレベルで説明できるということに興味を持ち、新しいアイデアが次々に生まれ、自分の芸術的なクリエーションの表現方法として香りという選択肢ができたことが2つ目の要素です。3つ目の要素は自然です。父や母など家族がアルゼンチンに複数の土地を所有しており、子どもの頃から南北に長いアルゼンチンのさまざまな気候や植物に親しんでいました。植物を主体として香りを作るというのが私の芸術の基本で、芸術活動の原動力として香りがあります。決して香水メーカーをつくろうとか、香水ブランドをつくろうと思ってスタートしたわけではありません。

WWD:ビジネスとしての拡大は考えていなということか。

べデル:クリエーションをできるだけ広範囲に効率的に伝えて、商品の品質や背景を直接お客さまに話すために、自分自身で販売を手掛けたほうがいいと思ったので結果として店舗を持っています。もちろん、研究段階から生産に向けての植物の研究や、蒸留や精製のための先端テクノロジーにはコストが掛かるのでそれをカバーするために収入はなければならないということもあります。ですが1つの香りにつき400本の限定生産なので、世界中に出回ることはありません。このスタイルを維持できる範囲のビジネスと決めていますビジネスとしての拡大は追及せず、何を思ってスタートしたか、初期のアイデアに重きを置いて自分のスタイルを守っていきたいと思います。

WWD:原料はアルゼンチンの自社農園で栽培したものだけを使用しているのか?

べデル:全部が自社農園からというわけではありません。1300種類くらいの原材料を使っていますが、アルゼンチンには自生していないものもあればアルゼンチン固有種もあります。世界中から原料となる植物を探して、いい植物が見つかったらその土地に収益をもたらすように努めます。例えばそこで作られるオイルの純度が足りない場合もそのままの形で購入して、自社のラボで純度を上げるような処置をしています。

WWD:現在のフレグランス業界は持続可能性というのが大きな課題となっている。

べデル:「フエギア1833」ではお客さまに提供する素材には以前からプラスチックを使っていませんし、流通段階の素材にもプラスチックを使用しないように取り組んでいます。2019年7月から生産に必要なエネルギーも風力発電でまかなっています。生産の段階や研究開発においてもさまざまなチャレンジがあります。植物性原料をバイオケミストリーの技術で自然界に存在する酵素を使って発酵させることによって、動物性原料からしか得られない化学分子を取り出したりもしています。合成ムスクを使うのが業界では常識になっていますが、われわれは使っていません。

WWD:15年にブエノスアイレスからミラノに拠点を移したがその理由は?

べデル:ラボや製造の中心はミラノに移しましたが、今もウルグアイに植物研究所を兼ねた植物園があります。アルゼンチンは物理的にも世界から遠く経済的にも不安定で閉鎖的な国だったため海外とビジネスをするには支障がありました。イタリアのミラノを選んだのは地理的にヨーロッパの中心に近いのと、都市としての規模がちょうどいいサイズだったこと。職人が多い街でクラフツマンシップが根付いていることからです。もう一つの理由としては、イタリア政府からさまざまなサポートを受けられたこともあります。それはひとえに、われわれの会社がミッションとしている自然界と植物の可能性の追求に対して賛同してくれたためだと思っています。

WWD:15年に東京・六本木の「グランドハイアット東京」に出店した経緯は?なぜ東京だったのか?

べデル:友人で建築家のトニー・チー(Tony Chi)から誘いを受けました。彼は「グランドハイアット東京」や「グランドハイアット京都」に携わっていて、「君のためのスペースがあるよ」と言われ、「どこに?」と聞いたら「東京」と。それで「OK」と誘いを受けました。ミラノの基幹店では設計・デザインも自分でして、床も自分で塗りました。経済的なことも考えて努力しています。次に出店するなら京都にしたいですね。京都は常にインスピレーションを得られる場所です。

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