アダストリアは12月21日、中国・上海に、ライフスタイルブランド「ニコアンド(NIKO AND…)」の中国本土初店舗をグランドオープンした。「開業以来、連日3万人の客が訪れている」(広報担当者)といい、オープン記念で企画したロゴ入りスエットトップス1000着は初日で完売するという盛況ぶり。同事業を指揮しているのが、北村嘉輝・取締役営業統括本部長だ。北村取締役は、上海店開業のために2019年6月から現地に駐在。コミュニティー作りが上海での任務の1つで、「上海市内を車で通っていたら、明らかにKOL(キー オピニオン リーダー、いわゆるインフルエンサー)が集まっているお茶の店を見付けたので引き返して訪問。オーナーと仲良くなりその場でウィーチャット(WeChat)を交換した」「仲良くなった現地セレクトショップ店主にメーカーの人を紹介してもらった」等のエピソードに事欠かない。それらをブランドの強みであるコラボレーション企画につなげている。現地スタッフから愛称“世界のキタムラ”で呼ばれているというコミュニケーション力の鬼、北村取締役に、上海店の展望を一問一答で聞いた。
――ずばり、上海店の勝算は?
北村取締役(以下、北村):初年度からしっかり利益も出していけると思っているし、ゆくゆくは東京・原宿の旗艦店よりも大きな売り上げを取れると考えている。日本のファッションブランドは中国に出尽くしていて中国発のブランドも非常に増えているが、それはアパレルだけのブランドの話。「ニコアンド」のような、雑貨も豊富なライフスタイル提案型のブランドはまだそんなに多くない。こちらではライフスタイル提案といえば「無印良品」のイメージが強いので、一等地の路面店で「ニコアンド」をまずはアピールして、現地の人に知ってもらう。上海店で取り扱っているのは約3000型で、SKUだと7万型。ほぼ雑貨だ。
――「無印良品」の他、中国の雑貨業態だと「メイソウ(MINISO)」なども膨大な店舗数だが、どう差別化していく?
北村:「ニコアンド」の雑貨は、いい意味で無駄なものが多い。遊び心のある雑貨はわれわれに強みがあると思う。準備期間に上海の雑貨屋も結構まわってみたが、いいなと思う商品は日本製だったりする。中国はEC大国。ECは一般的に目的買いが中心だが、そうではなくて、新しいものを発見する楽しさを伝えていければと思っている。
――米中貿易摩擦などを背景に、中国の景気は大幅にブレーキがかかっている。なぜこのタイミングで出店した?
北村:僕は日本の方が市況は厳しいと思っている。「今さら中国出店は遅くない?」ともよく言われるけど、そうはいっても中国のGDP成長率は6.0%前後。日本は伸びていないし、なかでもアパレル売り上げは特に厳しい。それを考えると、この時点での中国出店は決してマイナストレンドではない。
――かつて「コレクトポイント(COLLECT POINT)」業態で中国に30~40店出店していた時期もある。当時のビジネスは何が難しかった?
北村:「コレクトポイント」は中国で10年やった。直営店、代理商によるフランチャイズ含め商売がうまくいっている時期ももちろんあったが、19年9月までに全て閉めた。10年を振り返ると、スマートフォンの普及以降、直近の数年間で一気に中国経済が成長する中で、その流れに対応できていなかった。単純にモノを買うだけの店を出していたのが間違いだった。それで、「ニコアンド」上海店はワークショップを充実したり、3階にフードホールを設けるなどしている。中国は変化のスピードが速い。僕らの店も来年も同じ店のままでいいとは思っていない。どんどん変わっていかないといけない。
――中国といえば“ニューリテール”の国。「ニコアンド」では、テクノロジー×小売りに関し、どんなことに取り組む?
北村:20年の2~3月から、「ウィーチャット」上のミニプログラムを使ってのECをスタートする。これで購買行動のデータが得られるので、消費の分析はしていきたい。「Tモール」には現時点ではまだ出店予定はない。話はいただいているが、「Tモール」はブランド数が多すぎるのでとりあえず様子見だ。
――中国も人件費が上がってアパレル産業には人が集まらないと聞くが?
北村:物販で50人、飲食で30人に働いてもらっているが、集めるのは正直大変だった。各セクションのリーダーは原宿の店舗で研修もしたし、10月の愛知・名古屋のモゾ ワンダーシティ出店の際にオープニング作業も経験してもらった。以前は「中国のスタッフはすぐ辞めてしまう」「すぐ給料のいいところに転職する」と思っていた日系アパレル企業は多いと思う。ただ、当たり前のことを言うようだが、ちゃんとブランドのことを愛してもらえるようにコミュニケーションを深めていけばそんなことはないと改めて思う。
――「ニコアンド」の売上高(19年2月期)は309億円だが、「グローバルワーク(GLOBAL WORK)」は408億円とさらに規模が大きい。「グローバルワーク」の海外展開の予定は?
北村:今中国などに持ってくることは考えていない。(アイデンティティーの)強いものでないと勝てない。今は勝てると思えるタイミングではない。「ニコアンド」は2店舗目以降の出店も考えていくが、まだ具体的な計画はない。売上高を作るために、安い家賃のモールに出店するという逃げを打つとブランド価値が下がる。それよりも、ECを含めて「ニコアンド」の世界を打ち出していく。