「matohu 日本の眼展」
堀畑裕之「マトフ」デザイナー
会場の様子
会場の様子 (c) YUSUKE KOMATSU
会場の様子 (c) YUSUKE KOMATSU
会場の様子 (c) YUSUKE KOMATSU
会場の様子 (c) YUSUKE KOMATSU
会場の様子 (c) YUSUKE KOMATSU
会場の様子
和綴じ手製の書籍「日本の眼」
「マトフ」の長着
「マトフ」の長着
「マトフ」の長着
「マトフ」の長着
「マトフ」の長着
和菓子店HIGASHIYAとのコラボレーション和菓子「千鳥氷り」(1800円)
和菓子店HIGASHIYAとのコラボレーション和菓子「千鳥氷り」(1800円)
和菓子店HIGASHIYAとのコラボレーション和菓子「千鳥氷り」(1800円)
「matohu 日本の眼展」
現在、青山・スパイラル1階のスパイラルガーデンで、「マトフ(MATOHU) 」による展覧会「matohu 日本の眼展」が開催されています。同展覧会では、「マトフ」が2010-11年秋冬から18-19年秋冬までの8年間17シーズンで発表してきた“日本の眼”シリーズのコレクションが、シーズンテーマを表現したインスタレーションとともに展示されています。
「マトフ」の“日本の眼”は、“なごり”“ふきよせ”“素(しろ)”など言葉1つを取って、歴史の中で育まれ日本人の美意識にフォーカスして展開してきたシリーズです。その集大成として催された同展覧会では、“日本の眼”シリーズの長着がそれぞれ並びます。
言葉を服に落とし込む
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2010-11年秋冬、2011年春夏コレクション“かさね” 「大切なヒントは、身近な自然と歴史の中にちりばめられている」(「言葉の服」P.52から)
2010-11年秋冬、2011年春夏コレクション“かさね” 「大切なヒントは、身近な自然と歴史の中にちりばめられている」(「言葉の服」P.52から)
2011-12年秋冬コレクション“無地の美” 「『無地』の『無』は、何も無いという意味ではなく、無限であるということだ」(「言葉の服」P.54から)
2012年春夏コレクション“映り” 「流行や価格よりも、『顔映り』が良く、私という存在を活かしてくれる服が、『本当に似合う服』だ」(「言葉の服」P.57から)
2012年春夏コレクション“映り” 「流行や価格よりも、『顔映り』が良く、私という存在を活かしてくれる服が、『本当に似合う服』だ」(「言葉の服」P.57から)
2012-13年秋冬コレクション“やつし” 「他人に豊かさを見せびらかすのではなく、控えめで内に秘める姿を好む。そんな『やつし』こそ、最も日本らしい美意識だろう」(「言葉の服」P.60から)
2012-13年秋冬コレクション“やつし” 「他人に豊かさを見せびらかすのではなく、控えめで内に秘める姿を好む。そんな『やつし』こそ、最も日本らしい美意識だろう」(「言葉の服」P.60から)
2013年春夏コレクション“見立て” 「ルールをあえて破ることで、斬新な美しさが生まれる」(「言葉の服」P.64から)
2013-14年秋冬コレクション“あはい” 「緩やかにつながっていく時の後先。繊細な心で感じなければ通り過ぎてしまう、はかない一瞬」(「言葉の服」P.68から)
2014年春夏コレクション“尽くし” 「何より『尽くし』の本当の喜びは、いくら尽くしても到底尽くしきれない世界の豊かさを、人と分かち合い、共に愛でることにこそあるのだ」(「言葉の服」P.70から)
2014年春夏コレクション“尽くし” 「何より『尽くし』の本当の喜びは、いくら尽くしても到底尽くしきれない世界の豊かさを、人と分かち合い、共に愛でることにこそあるのだ」(「言葉の服」P.70から)
2014-15年秋冬コレクション“ふきよせ” 「ただそこに一瞬集まり、またすぐに別れて消えていく。そんなはかないものに名前をつけて見つめると、美しいものは美術館やギャラリーだけでなく、足元にいつでも落ちていると気づく」(「言葉の服」P.73から)
2014-15年秋冬コレクション“ふきよせ” 「ただそこに一瞬集まり、またすぐに別れて消えていく。そんなはかないものに名前をつけて見つめると、美しいものは美術館やギャラリーだけでなく、足元にいつでも落ちていると気づく」(「言葉の服」P.73から)
2014-15年秋冬コレクション“ふきよせ” 「ただそこに一瞬集まり、またすぐに別れて消えていく。そんなはかないものに名前をつけて見つめると、美しいものは美術館やギャラリーだけでなく、足元にいつでも落ちていると気づく」(「言葉の服」P.73から)
2015年春夏コレクション“素(しろ)” 「人工的に飾り立てるのではなく、自然そのものが持つ輝きを引き出し、生かしきること」(「言葉の服」P.78から)
2015-16年秋冬コレクション“ほのか” 「わずかで少ないことを表す量的な言葉ではない。それは、かすかな気配を身近に引き寄せて、より大きく感じようとする感覚のことであり、心が求める質的な表現なのだと思う」(「言葉の服」P.81から)
2015-16年秋冬コレクション“ほのか” 「わずかで少ないことを表す量的な言葉ではない。それは、かすかな気配を身近に引き寄せて、より大きく感じようとする感覚のことであり、心が求める質的な表現なのだと思う」(「言葉の服」P.81から)
2016年春夏コレクション“かろみ” 「『軽み』がそのままで人の心を打つわけではない。そこに至るまでには繰り返し何度も手を尽くし、心を尽くして向き合わなければならない」(「言葉の服」P.86から)
2016-17年秋冬コレクション“おぼろ” 「根底にあるのは日本人の無常観だろう。(中略)しかし逆に無常を感じることができるのは、私が『今も生きている』証しなのだ」(「言葉の服」P.90から)
2017年春夏コレクション“うつくし” 「いっけん真逆に思える『かわいさ』と存在の『強さ』とは、本来一つなのではないかと思う」(「言葉の服」P.94から)
2017年春夏コレクション“うつくし” 「いっけん真逆に思える『かわいさ』と存在の『強さ』とは、本来一つなのではないかと思う」(「言葉の服」P.94から)
2017-18年秋冬コレクション“いき” 「今でも通用する本当の『いき』のエッセンスとは、その人の心の『意気』であり、おしゃれで色っぽい『生き』方そのものだと思う」(「言葉の服」P.96から)
2018年春夏コレクション“かざり” 「日本の美といえば、(中略)いわば『静』の美意識ばかりだと思われがちだ。だがそれと対照をなすような、情熱的で派手好みの流れがある。生命エネルギーあふれる世界、すなわち『かざり』の美意識だ」(「言葉の服」P.98から)
2018年春夏コレクション“かざり” 「日本の美といえば、(中略)いわば『静』の美意識ばかりだと思われがちだ。だがそれと対照をなすような、情熱的で派手好みの流れがある。生命エネルギーあふれる世界、すなわち『かざり』の美意識だ」(「言葉の服」P.98から)
2018-19年秋冬コレクション“なごり” 「始まりはいつも、大切な何かの終わりである。どんな瞬間であっても、この世界がなごり惜しい理由はそこにある」(「言葉の服」P.106から)
2018-19年秋冬コレクション“なごり” 「始まりはいつも、大切な何かの終わりである。どんな瞬間であっても、この世界がなごり惜しい理由はそこにある」(「言葉の服」P.106から)
2018-19年秋冬コレクション“なごり” 「始まりはいつも、大切な何かの終わりである。どんな瞬間であっても、この世界がなごり惜しい理由はそこにある」(「言葉の服」P.106から)
長着は「マトフ」が設立以来作り続けているブランドの代名詞ともいえる服です。和とも洋ともつかないデザインで、型紙は15年間変わっていないそう。毎シーズンごとのテーマを表現したオリジナルのテキスタイルだけが変わり続けている、曰く「形を変えないデザイン」、「定型の自由」(展示のキャプションを引用)です。
織り、染め、加工で工夫された長着は、同じ型紙から生まれたとは思えないほどに生地によって表情を変えます。ジャカード織りで牡丹の花柄を表現した“かざり”の長着や夕暮れ時の浜辺をイメージに染め上げた“なごり”の長着など、職人の技術が存分に注ぎ込まれた生地は見物です。
“いき”は竹“おぼろ”は月と、イメージコンセプトのモチーフもともに並びます。“ほのか”をテーマにしたコーナーでは、赤のグラデーションが印象的な長着が暗室の中薄明かりに照らされていました。テーマとする言葉を服に落とし込む表現力は、モチーフと並ぶことでより明確に浮かび上がって見えたように思えます。言葉から生まれた服にえもいわれぬ美しさを感じました。
会場では、和菓子店HIGASHIYAとのコラボレーション和菓子「千鳥氷り」(1800円)や、作曲家の畑中正人による「マトフ」のコレクション音楽アルバム「matohu oto」(3000円)、和綴じ手製の書籍「日本の眼」(限定250部)などを販売しています。またイベント期間中は「マトフ」表参道本店で長着以外のコレクションアーカイブが並ぶなど連動イベントも開催中です。今秋には阪急うめだ本店9階でも同展覧会を開催予定。スパイラルガーデンでは1月22日まで開催しているので、足を運んでみてはいかがでしょうか。
込められた言葉を深く自分ごととして受け止める
長着のアーカイブの試着・販売コーナーの様子
「言葉の服 おしゃれと気づきの哲学」(堀畑裕之、トランスビュー、2019)
長着のアーカイブの試着・販売コーナーの様子
長着のアーカイブの試着・販売コーナーの様子
長着のアーカイブの試着・販売コーナーの様子
長着のアーカイブの試着・販売コーナーの様子
長着のアーカイブの試着・販売コーナーの様子
長着のアーカイブの試着・販売コーナーの様子
長着のアーカイブの試着・販売コーナーの様子
購入後は堀畑デザイナーとも写真を撮りました。「僕も“やつし”は好きなコレクションです」と一言いただきました
ここからは個人的なお話ですが、堀畑裕之「マトフ」デザイナーによるエッセイ集「言葉の服 おしゃれと気づきの哲学」(トランスビュー、2019)を読んで「マトフ」の服に対する思想に心をつかまれて以来、いつかは長着を手元に置きたいと考えていたのですが、正直経済的な余裕があるわけでもないため幾度となく機を見送ってきました……。
しかし!同展覧会では過去17シーズンで発表されてきた長着のアーカイブの一部が実際に販売されているのです。ブランドの世界観が表現された空間の中で、今後滅多にお目にかかることができないであろう量のアーカイブから選んで購入できる機会なんて今後あるでしょうか?そうそうないですよね。もうおあつらえ極まりない環境です。2020年代1年目の年頭、これから先を強く生きるため、自分に発破をかけるつもりで購入を決意しました。
どれも素晴らしいモノばかりで候補を絞りきれず、あれやこれやと何着も試着して1時間超悩み抜いたのですが(販売員の方には長い時間対応していただき、ご迷惑をおかけしました……ありがとうございます!)、最後はコレクションテーマの言葉で決めることにしました。
2012-13年秋冬コレクション“やつし”をテーマにした長着(14万3000円) PHOTO : HIROKI NAMAEZAWA
「『やつし』の美は、『真』なる理想や豪華なものの省略だけでは生まれ得ない。むしろやつした姿に、存在する時間の奥行を見いだした日本人の感性がなければ、始めから『やつしの美』は生まれなかっただろう」(「やつし」コンセプト 「マトフ」公式ホームページから) PHOTO : HIROKI NAMAEZAWA
「豊かさは見せびらかすものではなく、むしろ秘するからこそ花開くという逆説の美学を大切にしてきたのは、日本文化に一貫して流れる『好み』といえるだろう。だがそれ以上に、古来それは『生き方の美徳』であったと思う」(「言葉の服」P.62から) PHOTO : HIROKI NAMAEZAWA
ライナーを外側にして着ることもできます PHOTO : HIROKI NAMAEZAWA
和柄を思わせるライナー PHOTO : HIROKI NAMAEZAWA
絶妙なバランスで“やつし”を落とし込んだオリジナルのテキスタイル PHOTO : HIROKI NAMAEZAWA
なで肩なので和テイストのシルエットの肩落ちがしっくりきます PHOTO : HIROKI NAMAEZAWA
ライナーを外に入れ替えた時にちらりと見える裾先が大好物です PHOTO : HIROKI NAMAEZAWA
リバーシブルなどの“1粒で2度おいしい”系の服に目がないのですが、“1粒でn度おいしい”の長着は必殺アイテムです PHOTO : HIROKI NAMAEZAWA
他の長着と入れ替え組み替え自在。“1粒でn×n度おいしい”の末恐ろしい服です…… PHOTO : HIROKI NAMAEZAWA
うち紐を外して使えば前で締めることもできます PHOTO : HIROKI NAMAEZAWA
テキスタイルはもちろん、ボタンや裏地にもこだわりが光ります PHOTO : HIROKI NAMAEZAWA
テキスタイルはもちろん、ボタンや裏地にもこだわりが光ります PHOTO : HIROKI NAMAEZAWA
テキスタイルはもちろん、ボタンや裏地にもこだわりが光ります PHOTO : HIROKI NAMAEZAWA
購入したのは、“日本の眼”5シーズン目となる12-13年秋冬コレクションの長着(14万3000円)です。この時のテーマは“やつし”。“やつし”とは、高貴なものや気高さをあえて簡素で貧しく見せる日本古来の美意識の1つで、表層の向こう側に思いをはせる知性と感性が求められる逆説の美学のことを指します。自分の中で特別大切にしていた美徳そのもののような言葉で、自分にとってはこれ以上となく刺さるテーマでした。
言葉やテーマから服を選んだのは初めてでしたが、込められた言葉を深く自分ごととして受け止めるというのもまた面白い経験です。写真には写らない美しさを見出すまなざし、それを感じ取れる心の豊かさは大切にしたいですし、なにより自分自身もひけらかす事なく奥底に大切なものを秘めるような心意気を持ちたいものです。この服に袖を通すということは“やつし”の美学をまとうこと。そう考えて、この服を丁寧に着続けようと思います。
来月の請求に震えていますが、この服を着てこれからもファッションに身を“やつし”ていこうと思います。
■matohu 日本の眼展
日程:1月8日~1月22日
時間:11:00~20:00
場所:スパイラルガーデン
住所:東京都港区南青山 5-6-23 スパイラル1階
入場料:無料
・トークイベント「日本の眼とは何か?」
日程:1月11日
時間: 14:00~
登壇者:堀畑裕之、関口真希子
定員:30名
参加費:無料(先着予約制)
・デザイナーによるギャラリーツアー
日程:1月12、13日
時間: 14:00~
定員:15名
参加費:無料(先着予約制)
・畑中正人ライブコンサート「matohu oto」
日程:1月18日
時間: 15:00~
定員:30名
参加費:無料(先着予約制)
・matohu長着茶会
日程:1月19日
時間: 13:00~ / 14:30~ / 16:00~
定員:12名
参加費:4000円(先着予約制)
秋吉成紀(あきよしなるき):1994年生まれ。2018年1月から「WWDジャパン」でアルバイト中。