アマゾン(AMAZON)が、いよいよ本格的にラグジュアリー市場に参入するようだ。情報筋によれば、同社は現在12前後の大手ファッションブランドと交渉を進めており、2020年上期にも“ラグジュアリー専用サイト”を立ち上げるという。これは各ブランドがアマゾンのプラットフォームに出店する形式で運営され、参加ブランドは今後一つずつ発表していく。まずは米国のみとなるが、いずれグローバルに展開する予定だ。なおアマゾンの広報担当者は、「うわさや憶測の話にはコメントできない」としている。
情報筋によれば、アマゾンはLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)の傘下ブランドにも出店を打診したが、すげなく断られたという。LVMHが擁する「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「ディオール(DIOR)」などのメガブランドはそれぞれ公式オンラインストアを運営しており、より小規模なブランドはLVMH傘下の仏老舗百貨店ル・ボン・マルシェ(LE BON MARCHE)が手掛けるECサイト「24セーブル(24 SEVRES)」で取り扱われていることを考えると、それも無理のない話だろう。
このラグジュアリーブランド向けの新プラットフォームでは、出店したブランド側がそのバーチャルストアのデザインはもちろん、販売数量やセールのタイミングなども自由に設定できる上、アマゾンのカスタマーサービスや配送サービスを利用できる。ラグジュアリーブランドを取り扱っているECサイトには、「ファーフェッチ(FARFETCH)」「ネッタポルテ(NET-A-PORTER)」「マッチズファッション ドットコム(MATCHESFASHION.COM)」などがあるが、セール期間の早期化や長期化に不満を覚えるブランドが増加しているという。そうした中で、アマゾンが提供する自由度の高いプラットフォームはラグジュアリーECに大きな変革をもたらす可能性がある。同社はこの“ラグジュアリー専用サイト”の立ち上げに際して1億ドル(約109億円)規模のキャンペーンを実施する予定で、専用の物流倉庫をアリゾナ州に建設中だといわれている。
出店するブランド側からすると、アマゾンが保有する膨大な顧客データを活用できることも大きな魅力だろう。百貨店やほかのECプラットフォームがこうした情報をブランド側に提供したがらないことを考えると、アマゾンが持っている顧客の購買履歴や住所、決済情報をはじめ、買い物の傾向から推察できる子どもの有無やその年齢などのさまざまなデータはラグジュアリーブランドにとって宝の山にも等しい。
またアマゾンにとっても、アパレル分野の強化は長年の懸案事項だ。下着などの消耗品やベーシックな商品であればアマゾンで購入する消費者も多いため一定の売り上げを獲得しているが、よりファッション性の高いアパレルでは試行錯誤を繰り返している。例えば、靴を中心としたファッションECの「ザッポス(ZAPPOS)」を傘下に収めつつも独立したECサイトとして運営する一方で、アパレルのプライベートブランドを多数設立。また自宅で試着できるサービス“プライム・ワードローブ(Prime Wardrobe)”を提供し、華やかなファッションの祭典「メットガラ(MET GALA)」のスポンサーにもなっている。最近では、各国のインフルエンサーがデザインした限定アイテムを売り切り方式で販売する“ザ・ドロップ(The Drop)”を発表しているが、大成功しているとは言い難い。
ファッションECの難しさの一つとして、“実際に見て触って、試着してから買いたい”という消費者の欲求があることは確かだが、アマゾンがアパレル分野で苦戦している理由はこれだけではないだろう。同サイトが非常に便利で実用的であることに異論はないが、ファッションに求められるある種のロマンティシズムやクールさ、特別感、希少性などに欠けているのではないだろうか。そして、これらは全てラグジュアリーブランドが重視する要素だ。
しかし最近は百貨店の閉店が相次ぎ、ECの台頭などによって小売業界は大きく変化している。世界的な景気減速を反映するかのように長期化するセール期間に不満を抱くブランドが増えていることを踏まえると、アマゾンは今度こそアパレル分野で成功を収めるかもしれない。その場合、ラグジュアリーECのありようもまた変化していくだろう。
なお、中国最大のeコマース企業のアリババ(ALIBABA)はECサイト「Tモール(TMALL)」に加えて高級品に特化したEC「ラグジュアリー・パビリオン(LUXURY PAVILION)」を運営しており、18年にはラグジュアリー・コングロマリット企業のコンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT)と提携している。中国第2位のEC企業JDドットコム(JD.COM)も、ラグジュアリーECサイト「トップライフ(TOPLIFE)」を展開している。