「マーティン ローズ(MARTINE ROSE)」は1月5日、2020-21年秋冬コレクションをロンドンで発表した。ショー会場となったのはデザイナーの娘が通うトリアーノ小学校(Torriano Primary School)。ローズは「小学校の雰囲気って最高だし、魔法のように楽しい空間。この感覚をみんなに味わって欲しかった」と、学校を会場に選んだ理由について語った。会場には彼女の娘の友人とその家族、教師ら地元のコミュニティーも招待されており、ほかの会場とは異なる顔ぶれが客席を埋めていた。
多彩なプリントはアーカイブを使用
コレクションのキーになったのはラグからインスピレーションを得たプリントで、14年春夏から20年春夏シーズンまでのアーカイブを使用し、2020年という新時代に突入する前に一度過去を振り返りたかったという。「今季はアーカイブのプリントやアイテムを多用し、卒業アルバムのようにしたかった」とローズ。50分遅れでスタートしたショーは、グレース・アガッツ(Grethe Agatz)の「エッコレッグ(Ekkoleg)」をハウス風にアレンジした曲とともに幕を開け、きらめくルレックスやジャカード織のデニム、パイルフリースといった生地が、パーツが誇張されたややオーバーサイズシルエットでランウエイを飾った。フリルの装飾を加えたクラシックなシャツやラテックス加工を施したテーラードジャケット、シグネチャーの一つであるブレザーは丈を極端に長くしてドレス風に仕立て、女性に向けたスタイルも多く提案されたのが今季の特徴だ。
足元を飾ったペニーローファーとニーハイブーツは「シックス ロンドン(SIX LONDON)」とのコラボレーション。彼女の叔父が昔着用していた記憶があるという「ファラー(FARAH)」とのコラボレーションによるジャンパーやトラウザーも登場した。70〜80年代に父親が着用していた洋服をクローゼットから引っ張り出してきて、自己流にスタイリングを楽しむ若者像が浮かび上がる。ファッションの世界において“変わらない”ことは否定されるが、「マーティン ローズ」はそれが許される希有な存在だ。ブランドのコミュニティーが“変わらない”ことを求めているのは、彼らの日常とデザイナーのクリエイションが強く結びついている証だろう。
「着想源はいつも同じ、アウトサイダー(部外者)」。遊具が並ぶ校庭の入り口で、ローズはショー後のインタビューに対応した。「子供や若者、教育こそ私たちの未来であり、最も投資すべき対象だ。ほかのコミュティーをのぞくような感じで楽しんでもらいたかった」と満面の笑顔で語るローズ。インタビュー中、子供らがジャーナリストをかき分けてローズに駆け寄る姿は、なんとも微笑ましかった。筆者が会場を後にする頃にはすでに22時を超えていたが、チームはショーの余韻を楽しんでいるようだった。なにより、夜更かしを許されて夜の学校で遊ぶという特別な経験をした子供たちが、最も楽しそうな様子であった。