さぁミラノメンズは今日でフィニート(おしまい)。夕方からは、パリメンズがスタートします。後輩オーツカは、泣く泣く「グッチ(GUCCI)」を諦め(スマン!)、昨日の夜パリ入り。僕は今晩の飛行機です。ということで最終日も、どこよりも多くコレクション見ちゃいますよ~。
10:00 ジエダ
本日のトップバッターは日本から「ジエダ(JIEDA)」です。
この記事にある通り、昨年アワードを受賞して、ミラノメンズでランウエイを開く権利を獲得、この街に乗り込んできました。
とはいえ、朝イチなことも手伝い、会場はなかなか埋まらず。残念なのは、日本のメディアさえチラホラしかいないことです。確認できたのは、「メンズ クラブ(MEN‘S CLUB)」とジャーナリストの増田海治郎さんくらい。「みんな、せめて応援に来てほしいなぁ」と思わずにはいられません。
たしかにコレクションは、正直物足りなかったです。でもね、ミラノはもうちょっと新人を本気で応援した方が良いですよ。一応呼んで、ショーをやらせるだけっていうのは、あまりに酷です。
11:00 マルコ デ ヴィンツェンツォ(MARCO DE VINCENZO)
こちらは、すでにウィメンズである程度の存在感を発揮しているイタリアンブランドだからでしょうか?同じくミラノメンズ初参加ながら、会場にはそこそこのお客さまです。ちなみに「ジエダ」の会場から徒歩3分の距離だったら「ジエダ」も見に来ておくれよ……。
コレクションは、正直日本人には難しい色使いと装飾。コートのバルーン袖、シャツのリボンみたいな襟元、そしてプリーツを刻んだフレアパンツなどは難易度高すぎですが、ジェンダーと時を超越した貴族的ムードを漂わせています。
12:55 グッチ
やっぱり実質4日だとあっという間ですね~。あっという間に大トリの「グッチ(GUCCI)」の時間となりました。
「グッチ」のショー取材は、セレブ撮影から始りました。というのもコレクションが始まる数時間前、日本にいる弊社のソーシャルエディターとSNS担当が「写真撮ってください!!」と、「#gucciboy」こと韓国のKAIのスナップという“司令”を送ってきたのです。「ショー当日が、誕生日なんです」という追加情報まで教えてもらったからには、撮影しないワケにはいかない(苦笑)。頑張って押さえたのが、この写真と動画でした。僕がどうしても押さえたかった日本代表は、MIYAVI。せっかくの記念だから、と奥様をカメラ前にエスコートして2人で写真に収まるシーンもありました。相変わらず、とても紳士です。
一安心して会場に入ると、大きな振り子がドーーーーン!!この振り子がユラユラする砂上の舞台がランウエイです。
「グッチ」のショーは、ブランドが男女合同ショーに移行して以来しばらく遠ざかり、昨年の9月、久しぶりに拝見しました。そして前回も今回も、「あぁ、プレッシャーから解放され、今まで以上にアレッサンドロ・ミケーレ(Allesandoro Michele )らしくなっているんだろうな」と感じています。
振り返れば5年前、当時はデザインチームのトップだったミケーレは、ビジネスが停滞気味ゆえ突如退任した前任の穴を埋めるべく、数週間でメンズ・コレクションを作り上げ、それが、イタリアでは今も根強い古来の男性観や女性観を軽やかに超越したと賞賛され、以降あっという間にトップに登りつめました。
すぐにクリエイティブ・ディレクターに昇格して数シーズンは、過去の「グッチ」との決別を強く強く意識してクリエイションに臨みます。ギーク(オタクっぽい)なムードは、トム・フォード(Tom Ford)時代と差別化するためのセクシーとの決別の結果であり、オーバーサイズやリラックスのシルエットは前任フリーダ・ジャンニーニ(Frida Giannini)のスリム&ロックからの方向転換でもあった印象です。彼は、往年の「グッチ」のアイコンを上手に用いつつも、直近の「グッチ」とは距離を置くという、極めて難しいミッションに挑み続け、それが「グッチ」大復活の原動力となりました。
そして前回の20年春夏、封印してきたセクシーを解放してトムに敬意さえ表したコレクションを発表したとき、僕は「ファッションを既成概念から解放するのみならず、メゾンを数年前の自分からも解放できるんだ」と感動したんです。今回も、同じような思いに浸りました。
今シーズンは男たちを苦しめてきた、少なくとも画一的な生き方や価値観につながってしまった“当たり前”、「家族を守らなくちゃいけない」「強く生きなきゃならない」「泣いてはいけない」などの考えに疑問を抱き、伝統的な男らしさからの解放を訴えました。でもそれは数年前までのように、コレクションにフェミニンのエッセンスを加えることで手に入れたワケではありません。過去、つまりは子ども時代に戻り、当時大人から教えられた「男の子なんだから」という押し付けを疑い、そんな既成概念とは無縁の男性観を一から学び直すよう呼びかけたのです。
だからコレクションは、「子どもっぽい」。
こう書くと悪く聞こえるかもしれませんが、ミケーレの言葉を借りれば「『子どもっぽい』はネガティブな表現なんかじゃない」。天真爛漫で、ピュアで、古臭い既成概念なんかに染まっていないから、結果新しい。「子どもっぽい」は褒め言葉です。
実際、いつもよりちょっと小柄なモデルを大勢起用したように思われるコレクションは、子どもが好きなパステルカラー、曲線のディテール、そして、カラダは大きくなっているのに大好きだから着続けちゃうピチピチのインナーと、お父さんから借りちゃったようなジャケットやコート、そしてお母さんにお願いして持たせてもらったバッグ&シューズを組み合わせたようでした。ニットのモチーフは、ヒヨコさんにネコちゃん、それにお花。お姉ちゃんに着せられちゃったのか、アプリケ付きのミニワンピなんてスタイルもあります(笑)。子どもが、もうサイズは小さいけれど自分のお気に入りを最初に着て、そのあとはタンスから家族の洋服を漁って着てみた、そんなムードなのです。
ショーの後パリに向かう飛行機を待つ空港で、「グッチ」のランウエイを歩いた山田大地クンに会いました。バックステージでの話を聞くと、「なんだかおもちゃ箱みたいでした」と教えてくれます。ホラ、子どもの頃にタイムスリップしているでしょう?
こんな風に人生の早い段階からジェンダーを飛び越え、自分らしさを探す遊びを楽しんだ子どもは、大人になってもきっと画一的じゃないハズ。ミケーレはそう考え、タイムスリップの旅に出ました。ショーの後の記者会見では、幼年時代の思い出や、子ども服への特別な感情などを語ります。
前回はメゾンの過去を、そして今回は自分の過去を振り返ったミケーレのクリエイションは、「過去なんて顧みず、前に進まなくっちゃ」という自分に課していた重圧や呪縛から解放されたように見えました。過去との違いを強調するため盛り盛りにしていた装飾、新しい「グッチ」ファンへの期待に応えたいという思いの表れだったろう奇想天外なスタイルなどは抑え目。パッと見は、コンサバっぽく映るかもしれません。でも控えめなスタイルは、ブレーキをかけたからじゃない。次に進むために過去を見つめたから、私たちにも馴染みのあるスタイルにたどり着いたと解釈すべきでしょう。
そして、この進化は、ビジネス的にも正しい判断。そこがミケーレのクレバーなところです。実は「グッチ」、当然といえば当然ですが昨年は成長率が鈍り、特に北米では成長率が「微増」レベルまで落ち着きました。一方でメゾンは、5年前の倍に匹敵する売上高「100億ユーロ(約1兆2000億円)」突破を目指し、化粧品までローンチしたところ。過去数年からの幾らかの方向転換と、より大勢の消費者に向けた商品の開発が欠かせない状況にあります。馴染みのあるムードを増した今シーズンは、まさにそんなビジネス戦略を意識したものでもあり、ビジネスとクリエイションが一体となって突き進んでいる感があるのです。
大変大変、「グッチ」だけで2500文字以上の日記を書いてしまっています。本当はまだまだ語りたいことがあるんだけれど、そろそろこの辺にしておきましょう。
というワケで、大トリ「グッチ」に大満足!!ドタバタ日記のミラノ編は、これで終了。明日からは、今も地下鉄のストライキが深刻なパリから、もっとドタバタな日記をお送りしたいと思います。