1月14日。くもり。パリに到着し、メンズのコレクションサーキットもいよいよ大詰め。でも、現地では史上最長となる交通ストがようやく終息したばかりのため、交通は乱れまくり。地下鉄が部分的にしか運行していないので、道路は渋滞し、道は人で溢れています。同日昼にはミラノで「グッチ(GUCCI)」のショーが開かれた後に夕方からはパリメンズがスタートするにも関わらず、イタリアの航空会社がストライキを行って便の欠航が相次ぐなど何もかもがカオスな状況。そんな中、この“裏街道”にぴったりなカオスなブランドから取材をスタートしました。
18:00「キディル」
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ドタバタを避けるために前日夜にパリ入りし、「キディル(KIDILL)」のショーに備えます。ホテルからは徒歩15分という距離だったため、ひとまずは安心して会場のライブハウスまで移動しました。モードの中心地パリでもアングラ感バッキバキなムードで、早くも期待が高まります。こういう空間でこそ「キディル」は映えるから。さらに今回はセックスピストルズをはじめさまざまなアートワークを手掛けてきたジェイミー・リード(Jamie Reid)やデニムの「エドウィン(EDWIN)」、パリ発のシューズブランド「ボース(BOTH)」とのコラボを事前に告知するなど、見所はたっぷり。さあ、ヒロ(末安弘明デザイナー)さん、準備は整いました。行きましょう……い、行きましょう……始まらん。いや、僕の気持ちがはやりすぎただけです。だってショー開始は大体20分遅れるのが通例ですもの。さあ、そろそろでしょうか。パリメンズ3回目のショー、ゴー……って、全然始まらんやんけ。気がつけば予定よりも1時間遅れています。もちろん今シーズンのメンズ・コレクション最長記録。ただ、コレクションは素晴らしかった。3回目のパリコレで、一番の出来ではないでしょうか。服の要素はめちゃくちゃパンクにも関わらず、丸みを帯びたオーバーサイズのシルエットによって急に近所の兄ちゃん的な親しみがわくのです。“極楽”“諸行無常”といった強烈な漢字の刺しゅうも、「キディル」の手にかかれば愛しきモチーフへと生まれ変わります。言葉を切り絵のようにコラージュするジェイミー・リードのグラフィックもバッチリとはまっていて、欲しいアイテムばかりでした。何より、「キディル」はこれで行くんだ!という強い意志と覚悟がコレクションからにじんでいたのが素晴らしかった。ただ、あまりこういうあくせくした状況で見たくなかったなというのが正直なところです。全部、ストのせいだ!
「キディル」2020-21年秋冬パリ・メンズ・コレクションから
19:30「フィップス」
「フィップス」2020-21年秋冬パリ・メンズ・コレクションから
驚がくの60分押しの影響で次のショーをスキップし、フランス発のニューカマー「フィップス(PHIPPS)」の会場へ。歩道に溢れる人の波をかき分けながら、動いてるはずのメトロの駅にダッシュします。すると改札が常にフルオープン状態で、タダ乗りOKというこれまた異常なムード。当然、電車はめちゃ混雑します。冬のパリで汗だくです。会場には比較的スムーズに到着しました。昨年6月に同ブランドのショーを見たときはピンと来なかったものの、今回で印象がガラリと変わりました。ボーイスカウトやキャンプ、ネイティブアメリカンなど自然の中に暮らす男たちの普段着をベースに、シルエットを今っぽく膨らませたり、上質素材を使ったりと、都会的にアレンジ。アメカジにストーリー性を加える手法がユニークでした。
20:30「アミ アレクサンドル マテュッシ」
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公式スケジュール最後のショーは「アミ アレクサンドル マテュッシ(AMI ALEXANDRE MATTIUSSI)」のブランド設立9周年を祝したアニバーサリーショーです。え?10周年ではなく?はい、実はデザイナーのアレクサンドルにとって9はラッキーナンバー。だからこそ今回のショーには特別な思いが込められています。メンズは、ガラリと変わった前シーズンを踏襲するテーラリングがメイン。前回は見せたシャープなスタイルを打ち出しましたが、今季は素材のクラシックさと上質さをレトロなムードに落とし込んだ品の良さが印象的でした。キュロット風のショーツやスカートとスラックスのレイヤードといったボトムスの提案も素敵。ウィメンズは根底のフレンチシックは変わらないものの、よりきらびやかに進化しています。ショーの最後にステージの大きな幕が上がってパリの街並みを表現したセットが出現し、モデルたちがそこに佇むという劇仕立ての美しいフィナーレでした。9周年、おめでとう!でも10周年もやるのかな?
「アミ アレクサンドル マテュッシ」2020-21年秋冬パリ・メンズ・コレクションから
21:30コンパクトに進化した貧乏バス
公式スケジュールが終わっても、まだまだファッション・ウイークは終わりません。最後の最後は「ナターシャ ジンコ(NATASHA ZINKO)」のショーが控えています。でも移動手段がない。徒歩で移動すると60分の距離で、タクシーもつかまらないし、地下鉄も動いていない。ハイヤーも手配していないし、ウーバーも高い。夜道を歩き続けるのもちょっと怖い。今日は諦めて帰るかと思った時、アレが目に飛び込んできました!メディアやバイヤーを次のショー会場へと運んでくれる俺たちの貧乏バス(通称BB)が!しかもめちゃくちゃコンパクトになっています。前はいわゆる旅行バスのような大きさだったのに、だいぶスリムになっていかにも貧乏バスっぽくなっているじゃないですか。聞くと、地下鉄がまだ動いているコンコルド駅まで最後にみんなを送ってくれるのだとか。なんてありがたいのでしょうと、早速乗り込みました。乗り心地は最悪でしたが、ぜいたくは言ってられません。
22:00「ナターシャ ジンコ」
しっかり車酔いをいただいたところで、駅に到着。ここまでくれば「ナターシャ ジンコ(NATASHA ZINKO)」の会場はすぐ。ショーにも間に合いました。遠回りしながら苦労してたどり着いたからか、原宿っぽいブリブリの服やフィナーレに登場したデザイナーのナターシャとイヴァンのジンコ親子の笑顔がなんだか心にしみて、「ああファッション・ウイークってやっぱり楽しいなー」としみじみ感じながら徒歩40分かけてホテルまで帰りました。
「ナターシャ ジンコ」2020-21年秋冬パリ・メンズ・コレクションから