ファッション
連載 コレクション日記

帰って来たメンズコレドタバタ日記Vol.6 和洋折衷の「アンダーカバー」劇場と「ヴァレンティノ」の美しさに感動の1日

11:30 オフ-ホワイト c/o ヴァージル・アブロー

 さて、パリ一発目はいきなり「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)。会場はルーブル美術館です。ヴァージルは昨年、自分のブランドと「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」、それにさまざまなコラボプロジェクトで疲労がたまったのか一休みしていましたが、インスタグラムを見る限りでは復帰してバリバリ働いているみたい。特に直近は「ルイ・ヴィトン」と「オフ-ホワイト」の投稿が入り乱れています。

 ストリートキッズに大人への階段を登って欲しいのでしょうか?自分の服作りへの思いがフォーマルにも広がっているのでしょうか?それとも、ストリートがちょっと落ち着いた時流を踏まえているのでしょうか?ここ2シーズンくらい、「オフ-ホワイト」のメゾンはエレガントなフォーマル志向。所々に穴を開けてみたり、左右のラペルが非対称だったり、そもそも1サイズオーバーくらいのボックスシルエットだったりでストリートのムードは取り入れていますが、基本はジャケット。パンツにはプリーツを寄せました。

 でも、どうでしょうか~?やっぱり「オフ-ホワイト」は、フォーマルじゃなくて良いと思うんです。正直ジャケットは、よっぽどのヴァージルファンでない限り、ここで買う理由を見いだすのが難しい。エレガントなスーツはもちろん、ストリートマインドのスーツだって無数に存在する世の中ですから。実際、バイヤーの方に話を伺っても、やっぱりスーツは難しいそうです。

 敢えて挑戦する気持ちは大事ですが、正直スーツは経験値です。「オフ-ホワイト」のスーツが共感を誘えるようになるのは、まだしばらく先の話です。

12:25 ヘド メイナー

 「ヘド メイナー(HED MAYNER)」のコレクションは実にシンプル。肉厚のウールをブラッシングして起毛させ、ふっくら暖かい生地を作成。まるで毛布のような生地を、本当に毛布のようにバサッと羽織った雰囲気のガウンコート、両端だけ縫い合わせて顔出したかのようなトップスなどを生み出すのです。飾らず、素朴。穏やかで、心地よい。そんなムードを前面に押し出しました。

 小さいブランドは、やれることが限られています。ならば1つを徹底的にやりきって、他はノータッチ。そうやって強い印象を残そうと腹を括ったのようでした。

 ステキな覚悟。そして、それはしっかり伝わった!好きか嫌いかは別として、「ふんわり毛布は『ヘド メイナー』」という印象は、誰にも強く残ったことでしょう。そんな単純明快なインプレッションも大事です。

13:20 JWアンダーソン

 奇しくも今シーズンは、「JW アンダーソン(JW ANDERSON)」も提案を絞り込みました。デザイナーのジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)曰く「エディットした」コレクションです。

 ショー終了後にその理由を尋ねると、「(プレコレクションも含めれば)3カ月ごとに新作を生み出す業界だから、時間をかけて磨いたアイデアの一つ一つを大切にしたい」と話します。続けてジョナサンは、「『パテック フィリップ(PATEK PHILIPPE)』の時計は時間が経てば経つほどビンテージとして価値を増すのに、洋服がそうならないのは理不尽だ」と主張。なるほど。そのためには業界全体が大きく変わらなくちゃいけないけれど、目指す理想は共感します。

 で、そんな磨きあげたコレクションは、幼少期は父親の虐待に苦しみ、その後は愛するパートナーをAIDSで失った悲しみにくれた不遇のフォトグラファー、デイビット・ヴォイナロヴィッチ(David Wojnarowicz)に想いを馳せました。

 中央のゴールドチェーンがインパクト絶大でジョナサンらしい“アーティー”な感じを醸し出すAラインのボリュームコート、裾が雲のようにモコモコしたプリーツトップスが2大アイテム。ともにデイビッドの写真のように強いインパクトを残しますが、正直いつもの方が素敵に見える。ジョナサンのスタイルは、独特だけどパーツのように小さな部品感覚の洋服を組み合わせるようにレイヤードして作るもの。Aラインのコートやノースリーブのトップスなど、強いアイテム1着で完成スタイルは、着こなせる自分が想像しづらい印象です。

15:00 ファセッタズム

 「ファセッタズム(FACETASM)」は、ビーガン、なのにレゲエミュージックの音響が自慢というレストランでプレゼンテーション。ビーガンなのに音重視。新鮮です。ちなみに、ここのゴハンはマジで美味しかった!!10区の「JAH JAH」、オススメです。

 そんなところに集う仲間の、自由奔放なスタイルを描いたようなコレクションは、ネイティブアメリカンな柄を貼り付けたダッフルコートやオーバーサイズの3ピース、フレアとスキニーという左右非対称の足を持ったパンツ、ネオンカラーのニットなど「ファセッタズム」らしい。歴史を持つ洋服や素材、柄を、その印象をガラリと変えて元気いっぱいに提案するのが得意なブランドだと思っています。前回はブランドらしい“幸せなカンジ”をあえて封印しちゃって残念な印象でしたが、今回は洋服にも満足満足です。

普通ならバックステージにあるスタイリングパネルが会場内に。モデルの写真からもパーソナリティが滲みます

18:00 ヴァレンティノ

 なんて美しいのでしょう。ダークスーツへの回帰がいよいよ顕著な今シーズン、こうなると力を発揮するのはトップメゾン。その一翼を担う「ヴァレンティノ(VALENTINO)」です。

 良い服を、丁寧に作る。そして誰もが「素敵ですね」と共感できる範囲で最高峰を目指す。そんなカンジでしょうか?

 ダブルのジャケット、ステンカラーコート、そして純白のホワイトシャツは、いずれもピュアでミニマル。織りや刺しゅうの花々がカラーに変わった瞬間、僕の心は一気にときめきました。正直コンサバなクリエイションが多くてイマイチ盛り上がっていなかった心が、「ヴァレンティノ」のフローラルコレクションと同時に開花した。そんな印象です。

 あまりに美しいから、見惚れてしまう。そんなコレクションでした。バリエーションは「豊か」とまではいかないけれど、見応え十分。「VLTN」のロゴは、洋服では背面に控えめに、その分ボディーバッグでは思いっきりなカンジです。リラックスを基調とする現代のシルエットに、メゾンが継承するクラフツマンシップというレガシー(遺産)が融合。久々に心の底から美しいと思えるプレタポルテを拝見させていただきました。

 あ、スニーカーは「オニツカタイガー(ONITSUKA TIGER)」とのコラボレーションです。

19:10 OAMC

 さぁ、「ヴァレンティノ」が30分遅れ、そこから左岸に移動しての「OAMC」は40分遅れ。ちょっとヤバい感じになってきました~。

 「ジル サンダー(JIL SANDER)」も手掛けるルーク・メイヤー(Luke Meier)の「OAMC」は、「ジル」同様に穏やかですが、今季はアウトドアムードを押し出すことで差別化を図りました。レインコート、ポンチョ(コレは「ジル サンダー」にもありますが)、ミリタリーシャツ、そしてレインブーツ。確かに「ジル」とは違います。

 でも、差異は非常に微細。よほどの洋服好きじゃないと、2つの違いはわからない。しかも素材が良い分、やっぱり良く見えるのは「ジル サンダー」。「OAMC」は正直、“「ジル サンダー」第2章”みたいな雰囲気に陥っています。それで良いのか?悪いのか?難しいところですが、既視感は気になるところです。

20:20 アンダーカバー

 「OAMC」の会場を出て、ダッシュでメトロの駅へ!ストライキで運行本数が少ない中、ラッキーなことに電車はすぐにやってきて、「アンダーカバー(UNDERCOVER)」に間に合いました。ちなみにパリの協会は、優雅なハイヤーに乗らない我々のために“貧乏バス(以下、BB)”を運行しているのですが、この“BB”に乗って移動した人は間に合わなかったそうです。

 そんな人は、本当に残念!!だって「アンダーカバー」、間違いなく本日のベストだったんです!!ショーのタイトルは「Fallen Man」、「落ち武者」という意味でしょうか?黒澤明監督作品の「蜘蛛巣城」にインスピレーションを得て、モダンバレエと日本の演劇を組み合わせたようなショー形式で、最新コレクションを発表します。

 帰って「蜘蛛巣城」の予告編を見ると、主役を務めた三船敏郎は、もののけが住む森にほど近く霧が立ち込める蜘蛛巣城で殿を殺し、腹心を殺し、最後は自らも狂ってしまう武士を演じています。ショーでも戦国武将のような男性が、もののけのような女性と交わり、最後には矢で射抜かれてしまう。その間を、東洋と西洋を融合したスタイルのモデルたちが歩いていくのです。

 例えば甲冑のようなスタイルは、キルティングのミリタリーやアウトドアベストにニットやネルシャツ、ドローコードでひざ下を絞ることができるパンツなどを複雑にレイヤードすることで描きます。そしてフーディーは、作務衣のような前合わせタイプ。そこに風呂敷を模したボディーバッグを抱えるのです。やっぱり着物合わせの巨大なダウンのモデルは、なんだか寺院の坊主のよう。「日本風」ではあるけれど、アイテムはどれも西洋由来。モダンバレエと演劇を組み合わせたショー同様、東洋と西洋の間を揺らめくのです。だから、どちらの側から見ても「新しい」し、どちらの側から見ても「コスプレじゃない」。無論、ジョニオさんらしいダークファンタジーの世界です。

 こんなコトを書くと怒られるかもしれませんが、僕(42歳)より年上でジョニオさん(50歳)くらいまでの世代、特にジョニオさんは“元祖リミックス世代”として、新しい時代を築いた人たちです。でも僕より下、もはやリミックスが当たり前だった世代から言わせると、「“元祖リミックス世代”は、日本の文化だけはリミックスしない。もしくは『敢えて』じゃないとリミックスしない」人たちなんだそう。数年前、そう分析されてドキッとしたことがありました。でも今回のジョニオさんは、自分のルーツである日本の文化さえ、高くも低くもなくフラットに捉え、それを自然と西洋の洋服をミックスしました。“元祖リミックス世代”の弱点を、軽やかに乗り越えている。そんな風に思ったんです。

21:40 ラフ・シモンズ

 さぁ、今日の最後は「ラフ・シモンズ(RAF SIMONS)」。相変わらず、会場はパリ市外です。

 今シーズンの「ラフ」は、未来を見つめたようです。それは10年後?30年後?定かではありませんが、透明なPVC、ラミネート、コーティングが、ウールやフェイクファー、ボアなどのコートやジャケットを覆います。コートやジャケットの下は、セカンドスキンのようにピタピタのシルバーのタートルネック。足元は、ラバーのようなブーツです。真っ白いライナーのコートをひっくり返して着ているようなスタイルは、まるでラボの研究員でした。

 でも、だからと言って完全にフィーチャリスティックじゃない。未来的な素材で覆いこそしたものの、伝統的な素材から決別しないのは、その証。後半には、手編みのモヘアストールやへッドピースが現れ、現代の温もりにもまだ価値を置いているようなスタイルです。

 そんな姿勢は、BGMにも現れていました。大半は打ち込み、もしくはノイズのような重低音でしたが、フィナーレはデヴィッド・ボウイ(David Bowie)の“Life on Mars”。未来を志向しているものの、なじみあるボウイの声は郷愁さえ誘います。でも“Life on Mars”って、何かを批判しているような歌のハズ。「地球を出て、宇宙へ」「今を捨て、未来へ」なんてメッセージでもあるのだろうか?そんなことを考えながら、帰りのUberに揺られたのでした。

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