Photo By Fairchild Archives マーク・ジェイコブス(左)と、マークの学生時代からのビジネスパートナーであるロバート・ダフィー。「マーク BY マーク ジェイコブス」の2015-16年秋冬コレクションにて。セバスチャン・スール新CEOの就任により、ダフィーは経営の一線から退く
マーク ジェイコブス インターナショナル(以下、マーク ジェイコブス社)が、「マーク BY マーク ジェイコブス(MARC BY MARC JACOBS)」(以下、「マーク BY」)を「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」に統合すると発表した。商品ラインアップや価格帯を維持しつつ、メーンラインに組み込む。昨年7月にセバスチャン・スール前ジバンシィ最高経営責任者(CEO)をトップに抜擢し、運営体制の再編成と将来的なIPOを目指すために同社がとった第一のステップだ。
「さまざまな人々にリーチするファッションを提供したい」というマーク・ジェイコブスの思いから2001年春夏シーズンに「マーク BY」は立ち上げられた。マークは、「当時の、幅広い価格帯でハイレベルなファッションを提供したいという気持ちは今も変わっていない。『マーク BY』は『マーク ジェイコブス』のセカンドラインでも、少しレベルを下げたラインでもなかったし、価格を下げても本物のファッションを消費者に届けるブランドだった。僕は今も、一消費者としての意識は常に持っているつもりだよ」と話す。コンテンポラリー・ゾーンの価格帯で発売した「マーク BY」の製品は爆発的な人気を呼んだ。マンハッタンのブリーカー・ストリートにオープンした初の店舗はセレブやスタイリスト、ファッションを愛する人々でにぎわった。「イケてるデニムジャケットにジーンズやTシャツ。そのシーズンの気分に合わせて作っていたし、メーンブランドのクリエイションに雰囲気も似ていた」と振り返る。
だが、ある時期から「マーク BY」は独自のテイストを帯びるようになり、「マーク ジェイコブス」とは違うメッセージ性を放つ存在として独り歩きをするようになったという。「当時は、それはそれでいいかなと思ってたんだ」と話すマークだが、メーンラインとの親和性が薄れ、コンテンポラリー・ブランドも増えるにつれ、そのゾーンを開拓した先駆者としての魅力もあせたという。「『マーク BY』がどういうブランドなのか、なぜメーンラインから離れていったのか、さまざまな観点から分析したところ、一つのブランドにまとめるしかないという結論にたどり着いた」と話す。
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資本構成の変化とロバート・ダフィー
今回の動きには、マーク ジェイコブス社の資本構成の変化という背景もある。13年10月の時点で、同社の株式はベルナール・アルノーLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン社長兼CEOとデザイナーのマーク・ジェイコブス、マークの30年来のビジネスパートナーであるロバート・ダフィー=マーク ジェイコブス社前会長の3人が、それぞれ3分の1ずつを所有していた。マークの「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」アーティスティック・ディレクター退任後、LVMHはマーク ジェイコブス社の株式約80%を取得。マークとダフィーは現在も残り20%の株式を所有するが、セバスチャン・スール新CEOの就任とともにダフィーは経営の一線から退いている。
マークがパーソンズ・スクール・オブ・デザインの学生だった頃にその才能を見いだしてから、彼と32年にわたり二人三脚で歩んできたダフィーは、スール新CEOの就任について、「マーク ジェイコブス社が年商10億ドル(約1200億円)近くに成長し、IPOを目指す上で、豊富な経験を持ち社内構造にも精通している新しいCEOを立てる必要があった。スールCEOは頭が切れるし、若くて根性もある。彼なら社を目標達成へと導くことができるだろう。私はもうすぐ61になるし、3歳半の娘を育てる父親業に専念したい」とコメントした。ダフィーは今後も取締役会の会長代理として投票権を持ち続け、日本と中国の現地法人の取締役会のメンバーとしても残る。
賭けに出たブランド統合
同社の売り上げの約半分を占める「マーク BY」を休止する判断に、懸念の声もある。13年にはアルノー社長兼CEOも同社に対し、「現在の小売りのシステムを再編成し、商品数を増やす」必要を訴えている。矛盾とも捉えられかねない今回のブランド統合について、スールCEOは、「矛盾は認めざるを得ない。『マーク BY』の価格帯を残すことで、『マーク ジェイコブス』の価格帯との間にギャップは生まれるが、われわれはこのギャップにビジネスチャンスがあると踏んでいる。例えば、『マーク BY 』のバッグの小売価格は350~500ドル(約4万2000~6万円)。『マーク ジェイコブス』のバッグはほとんどが1250ドル(約15万円)以上だ。この中間の価格帯のマーケットに注目している。売り上げの伸び率は緩やかだろうし、販路拡大もあまり期待できないかもしれないが、需要は十分にある。ウエアもコンテンポラリー・ゾーンの一つ上の価格帯の市場に可能性を見いだしている」と説明した。
「マーク BY」は13年からウィメンズをケイティ・ヒリヤー=クリエイティブ・ディレクターとルエラ・バートリー=デザイン・ディレクターが手掛けてきたが、今後はマーク主導のデザインチームが新たに発足するという。マーク本人も新たなクリエイション体制に意欲を示している。これまでより多面的なアプローチでデザインチームとともにMD担当との連携を深めるようだ。このことについてマークは、「アルノー社長兼CEOとの協業も、ある意味MD担当との協業のようだった。彼が他のブランドのショップで見かけた商品の価格設定を褒めると、僕は彼の意向に沿った解決策を提案した。僕はそういうことが得意なんだ。他ブランドが販売しているエントリープライスのキャンバスバッグが好調なら、僕も自分なりの方法で新商品をデザインする。ニューヨークでデザイナーとして活動する中で培った柔軟さだよ」と話す。ヒリヤー=クリエイティブ・ディレクターは今後もデザインチームの戦力として、しかるべき役職に就くと考えられる。バートリー=デザイン・ディレクターが残るかは定かでない。
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新プロジェクトも続々
「マーク ジェイコブス」への統合が決まった「マークBY マーク ジェイコブス」の2015-16年秋冬コレクション
同社にとって直近の課題となるのは小売店の刷新だ。ビジネスの半分以上を海外市場で展開する数少ないアメリカブランドの一つである同社は、世界に持つ約200店舗や卸先のうち、拡大や移転の対象となる店舗を模索するとともに、アメリカ国内外において小売り担当のチームの強化を図る。アメリカでは、ショッピングモールへの出店に可能性を見いだしている。ブックストアの「ブックマーク(BOOKMARC)」の拡大も視野に入れている。「今はとにかく、ブランドコンセプトと商品ラインアップを固めることが最優先」とスールCEO。ショップと
ショールーム のデザインを変える予定だ。マークはマンハッタンのスプリング・ストリート72番地のオフィス改装で新たなコンセプトを披露したいと話した。世界中のショップでアーティストや家具デザイナーとコラボした内装に刷新する構想も練っているようだ。シーズンごとに改装する計画もあるという。
多くの場合、成長を目指すブランドにとってカギとなるのはアクセサリーの充実だが、これについてマークは、「“ITバッグ”はもう古い。『ルイ・ヴィトン』や『マーク ジェイコブス』『セリーヌ』などさまざまなブランドから“ITバッグ”が誕生しているが、一つのバッグが人気を博す時代は終わった」と否定した。ウエアより汎用性のあるアクセサリーは成功への近道と考えられることも多いが、マークはフレグランスやビューティの成長の可能性を語った。コティが手掛ける「マーク ジェイコブス」のフレグランス事業は世界で12位の売り上げを誇り、セフォラが販売するコスメラインも好調だという。
変化の時を迎えるマーク ジェイコブス社だが、マークは会社の将来に大きな期待を抱く。15-16年秋冬コレクションも好評を博し、マークは改めてファッションへの愛と情熱を語った。「自信に満ちあふれている日もあれば、自分の決断が正しいのか不安になる日もある。でも、この高揚感がたまらないんだ。ファッション以上にやりたいことなんて他にない」。