ファッション

パリコレに挑む日本人ヘアスタイリスト “コミュ力”を武器に世界で戦う

 パリ・コレクションに参加する多くのブランドのバックステージを支えているのは日本人といっても過言ではないだろう。なぜならビッグメゾンから新鋭ブランドまで、多くのバックステージで日本人のメイクアップアーティストとヘアスタイリストが活躍し、モデルに魔法をかけるようにルックを完璧な姿へと仕上げているからだ。彼らの多くが目指すのは、全体の指揮を取る責任者であるキーポジションである。一度でも“キー”を務めるとキャリアに箔が付くだけでなく、活躍の場やコネクションが大きくが広がる可能性があるという。今季のパリ・メンズ・ファッション・ウイーク初日にショーを開催したアメリカ発ブランド「ルード(RHUDE)」のキーヘアスタイリトには、日本人の名があった。ミラノ在住のヘアスタイリスト、森田信一だ。過去には「OAMC」の2016-17年秋冬から17-18年秋冬コレクションまでの4シーズンのキーヘアスタイリストを務めており、「ルード」ではパリでショーを行った前シーズンに続いて2シーズン目となる。

 ルイージ・マーク・ビラセノール(Rhuigi Mark Villasenor)「ルード」ファウンダー兼デザイナーは彼を起用した理由について「髪を切ってもらった時、直感的に『彼だ』と思った。スタイルや目指すものにシンパシーを感じる」と話す。サロンワーカーとして働いてきた森田は、ほかのショーのキーヘアスタイリストに比べると、アーティスティックな作品を手掛ける機会は少なかったものの、確かな技術と高いコミュニケーション力によって、いくつもの仕事を勝ち取ってきた。キーヘアスタイリストとして活躍する彼に、現在に至るまでの道のりや今後についてを聞いた。

−「ルード」のデザイナーとはどのように知り合った?

森田:「ルード」が所属するミラノに拠点を置くセールスエージェント「247ショールーム(247 Showroom)」のオーナーがもともとお客さんで、ビラセノールがミラノに来た時に彼を通じて知り合った。ビラセノールはカットした髪型をとても気に入ってくれて「今度パリコレで初めてショーをやるからヘアを担当して欲しい」と口頭で言われた。その時は本気だと受け取っていなかったけれど、後で「エトワール・マネージメント」を通じて正式に仕事の依頼が入った。

−サロンワーカーとしてカットの技術を磨いてきたが、アーティスティックなスタイリング技術はどのように培った?

森田:昔からアメリカに憧れがあって、スタイリングやクリエイションはアメリカで学びたいという思いが強かった。日本からミラノに拠点を移してからは、まとまった休みが取れる夏の休暇シーズンに毎年ニューヨークへ行って、短期クラスを受講したり、知人のヘアスタイリストの作品撮りを手伝ったりして技術を身に付けられるように努力した。

−スタイリング技術において、自身の強みは?

森田:スタイリング技術が高いとは思っていない。僕より上手い人は無限にいる。自分の強みをあえて言うなら、アーティスティックな要望に応えられる応変さだと思う。かつてコンセプチュアル・アーティストのマウリツィオ・カテラン(Maurizio Cattelan)の作品撮りに携わった際、彼からそれまで経験したことのないスタイルを求められた。コミュニケーションを密に取りながら、感覚的に彼らが創りたいものを読み取り、自分なりに形にしていく作業だった。相手の要望に応えるというのは、カットやスタイリングに問わず、日々のサロンワークで身に付けた技術で、それが今の仕事でも活きている。

−相手の要望に応えるために必要な要素とは具体的に何?

森田:とにかく会話を広げ、コミュニケーションを取って相手を知ること。友人から僕は「コミュニケーション能力が高い」と言われるし、自分でも自信がある。両親が美容師だったから、遺伝なのかもしれない。でも22歳で渡伊した時は、イタリア語はおろか英語も全く話せなくて、コミュニケーションの取りようがなかった。勤めていた「オット」は日本人によるサロンだが、相手にするのはイタリア人。コミュニケーションが取れなければ、スタート地点にも立っていないような状態だった。仕事で成功したいという思いと、美人なイタリア人の彼女が欲しいっていう男心から(笑)、必死になってイタリア語と英語を学んだ。カフェやレストラン、クラブなどとにかく外へ出掛けては友人を作り、つたなくても会話を進められるようにした。もとの性格に加え、海外生活での経験でコミュニケーション能力がさらに磨かれたのかも。

本番直前でも大胆にヘアチェンジ

−「ルード」の今季のスタイリングのテーマは?

森田:ブランドのイメージに合わせて、“やんちゃな若者”を基本のテーマにしている。スタイリング剤は使わずドライな質感で、3日間洗髪していないようなラフさを出すようにした。女性モデルの場合はメイクに合わせて、ラフさの中にも少し華やかさ、フェミニンな感じを加えた。男性モデルは個々の地毛と個性を引き出せるようなスタイリングを目指した。

−ショーの本番は滞りなく進められた?

森田:パリコレ初日とミラノ・コレクション最終日が同日とあって、なかなかアシスタントが集まらず苦労した。メイクのアシスタント15人に対してヘアのアシスタント7人と、正直かなり心配だった。ヘアをほぼ仕上げて一度目のリハーサルをランウエイから見てみると、守りに入っているスタイリングだなと感じた。だから、ヘアはもっと攻めの姿勢でいこうと思い、さらに手を加えて“意志の強いやんちゃな若者”へと仕上げた。時間はギリギリになったが、ミラノやロンドン、パリを拠点に活動する信頼の置けるアシスタントのおかげで大きなミスもなく、僕もビラセノールも満足のいくランウエイになった。ショーのスタイリングにおいてはデザイナーやディレクターの要望に応えることがキーヘアスタイリストとって最も需要な任務なので、今回も無事に果たすことができたと思っている。

−今後の目標は?

森田:顧客の要望に応えられるカット、スタイリングを提供することはこれまで通り変わらない。ここ数年で、セレブリティーの結婚式のヘアスタイリングのために外国へ呼ばれる機会も増えた。手間や費用がかかっても僕を呼んでくれる。今までとは違ったやりがいを感じられているので、こういった仕事をもっと増やしていきたい。フリーになってエージェントに所属し始めたばかりだから、今後はエディトリアルや広告撮影などクリエイティブな仕事にも注力していきたい。

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