「WWDジャパン」1月20日号では、「ファッション業界 働きがいのある企業ランキング」を発表。国内最大級の社員口コミ数を有する「OpenWork」の協力のもと、直近5年間でクチコミ件数10件以上ある企業の中からファッション業界における働きがいのある企業ランキングを独自に作成した。連動するウェブ企画では、「風通しの良さ」「20代成長環境」「法令順守意識」項目で1位となった企業に取材し、1位たるゆえん、その魅力と源泉を探った。
「20代成長環境」でジンズと同率1位になったのは、日本発を世界に発信するファッションカンパニー、TOKYO BASEだ。実力主義のもと、潔いほどシンプルに数字にこだわる経営を押し進める。社員の自主性を重んじるそのカルチャーと仕組みについて、経理本部 人材開発Div.の芦澤潤・経営企画・中途採用担当に話を聞いた。
WWD:「20代成長環境」1位について、率直な感想は?
芦澤潤・経営企画・中途採用担当(以下、芦澤):弊社の社員の平均年齢は29歳で、店舗はもう少し若く27歳くらい。本社はある一定の経験、経歴を求めるので30〜40代前半だ。今回は「20代成長環境」1位ということなので、私たちが“営業”と呼んでいる“販売職”について評価をいただいたのだろうと考えている。
WWD:若手社員育成において、研修などは行っているのか?
芦澤:入社前に基礎研修は行っている。そこでは企業理念・文化や顧客定義、接客ロジック、オーナーシップメントといった座学を中心とした研修とロールプレーイングを行う。最高経営責任者である谷正人が自身の考えを話したり、会社が目指す理想と目標を伝え、価値観を共有する。そして研修の最後に、半期目標設定を社員自身に立ててもらう。
WWD:では新入社員は基礎研修後、接客のノウハウを実践で習得していく?
芦澤:もちろん店長が指導はするが、それよりも自主性に重きを置いている。私たちは「裁量権がある」という言い方をするが、もともと谷の考え方も“ワンショップ・ワンオーナー”。店長がその店舗を経営するオーナーで、スタッフは当然オーナーを支えていく形で自律的に裁量権を持って行動している。若手社員と話していると、自分の力で何かしたいと思っている人が多く、「将来独立したい」「インセンティブである程度の報酬をもらいたい」「最速で店長になりたい」などみんな野望があり、上向きの矢印を感じる。自社の採用ページに「理念を実現する為に数値的な結果に徹底的にこだわる」と明言しているので、“実力主義”もしくは“from JAPAN to the WORLD”という会社の企業理念に魅力を感じて入社してくる人がほとんどだ。社員が最低限これぐらいの金額を取っていきたいという“基準”を掲げているので、必然的にそこを目指す形になっていく。
WWD:集客数の多い店舗もあれば少ない店舗もある中、全体としての均衡はどう保つ?
芦澤:店員の適正配置を人頭効率をベースに決めている。私たちは東京や大阪のような都会で比較的ロケーションのよいエリアに出店しているので、大手アパレルのように3000万円から800万円といった差があまりない。1店舗あたりの売り上げがだいたい近いところに出店を制限している。
WWD:実力主義、結果主義にこだわるTOKYO BASEの評価基準とは?
芦澤:評価基準はいたってシンプル。100%数字だ。“営業”の場合、指標は2つ。「ユナイテッド トウキョウ(UNITED TOKYO)」と「パブリック トウキョウ(PUBLIC TOKYO)」はまず“個人売り上げ”。そしてSPA業態なので、“TOKYO BASEのアプリ会員数”の2つが基準となる。一方、「ステュディオス(STUDIOUS)」はセレクトショップなので、“個人売り上げ”と“顧客売り上げ”が基準。「ステュディオス」では、LINE WORKSのシステムを活用し、営業時間内に顧客に連絡をする時間を設け、率先してLINEでコミュニケーションを取っている。また、売り上げに応じてインセンティブ制度を明確に設定している。
WWD:個人売り上げだと同じ店舗スタッフもライバルとなるわけだが、険悪な関係にはならないのか?
芦澤:よい意味では競い合いもあるとは思うが、みんなTOKYO BASEを好きなスタッフばかりだ。なので、店のために自分の力を発揮できたという達成感のほうが強く働くスピリッツがある。その企業文化はやはり谷の考え方によるところが大きい。“from JAPAN to the WORLD”というミッションと、あまりオープンにされてないが、“5 VISION”。この2つの会社のコンセプトへの共感と個人の実力主義が両立しているからこそ成り立つ。
WWD:具体的に“5 VISION”とは?
芦澤:「全世界顧客感動」「ファッションプロフェッショナル集団」「NEXT MADE IN JAPAN」「世界10大都市展開」「最速1000億円 EC売り上げ500億円」の5つだ。全世界の顧客に感動を与え、企画、MD、販売など各分野のプロでありたいという意識。そして、ただ日本製というのではなく、どこの生地を使っているなど、よりこだわった商品を次のステージに進化させていきたいと考えている。いずれは日本をはじめ上海、香港、北京、パリ、ロンドン、ニューヨークなど全10大都市に、“NEXT MADE IN JAPAN”の商品を掲げて出店していく。今年も日本はもちろん、海外にも積極的に出店していく予定だ。そして売り上げ最速1000億円、そのうちEC売り上げ500億円が目標だ。
WWD:接客に強いこだわりを感じるが、やはり顧客とのコミュニケーションを重要視している?
芦澤:いかに自身のファンを獲得するかは販売職の一番基本的なミッションだ。商品知識を提供することと本人の人間性を提供すること──この2つがそろってはじめてお客さまが「他の店ではなくあなたから買おう」となる。メード・イン・ジャパンという差別化したもの作りと正しい商品知識、そしてスタッフの人間性が重要。人としてお客さまに慕っていただくという根幹を押さえていくので、それは接客スキルのマニュアルなどよりはもう少し上位概念だと思っている。だから中には驚くほど売り上げるスタッフもいる。トップクラスは月間1000万超だ。私自身そんなに売る人間を初めて見た。そして、そういうスタッフほどいかにも“売る”といった感じはなく、接客もとても自然でまめによく連絡を取る。飛び抜けて売る社員の一人は、日本語が流暢な中国人だった。彼は2017年に入社し、「ステュディオス メンズ(STUDIOS MENS)」原宿本店に所属していた。そこで実力をつけて月間1000万超を売り上げ続け、入社3年目にして、19年8月にオープンした上海1号店の「ステュディオス トウキョウ(STUDIOS TOKYO)」の店長に就任した。上海店は日本以上の売り上げで非常に好調なスタートを切っている。実力をつければ彼のような道もあると、他のスタッフのよいモチベーションになっていると思う。
WWD:最後に、社員にとって「働きがいのある」企業とは、どのような企業だと考えるか?
芦澤:自分の夢や目標を達成できることではないだろうか。私たちが企業を通してそれを手伝うことができれば、全員が幸せになれると思っている。