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連載 鈴木敏仁のUSリポート

話題の米ビューティ「グロシエ」 ミレニアル世代起業家のシンデレラストーリー 鈴木敏仁のUSリポート

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。今回は米ビューティ業界で話題を集めるD2C生まれの化粧品ブランドを紹介する。

 アメリカのビューティ業界を俯瞰したときに、顕著なトレンドは3つあると考えている。

 1つめはエコやサステナビリティ意識の高まりから生まれたクリーンビューティ。この表現の上位概念はクリーンライフで、クリーンなライフスタイルを支えるのがクリーンビューティやクリーンイーティング、というような言い回しとなる。プロピルパラベンやフタル酸エステルといった化学成分を使わない、動物実験をしない、環境にも配慮しているといったことを求める人が増えている。

 2つめはメイクアップからスキンケアへ。化粧品をできるだけ使わないというクリーンライフ志向がベースにあるのだが、もう一つは“ありのまま”が良いというここ数年急速に顕在化している消費者意識も背景にある。広告モデルの肌のシワやたるみなどを加工せずそのままあえて使う企業が増えているのもそういった意識の変化が背景にある。

 そして3つめがD2C(またはデジタルネイティブな)ブランドの台頭だ。ご存知の通りアメリカではデジタルチャネルからスタートするメーカーや小売企業が多いのだが、ビューティでもご多分に漏れずデジタルブランドが増えていて、そのあおりで既存のメガブランドの売り上げがスローダウンしている。アルタビューティ(ULTA BEAUTY)のメリー・ディロン(Mary Dillon)CEOは直近の四半期決算で、「マスもプレスティージも大手ブランドの伸びはネガティブだ」と発言していて、大手メーカーの伸びの鈍化は小売企業にも影響を及ぼしている。

 このD2Cなビューティブランドで先頭を走っているのがグロシエ(GLOSSIER)だ。

設立わずか4年で売上高1億ドル超え

 グロシエの創業は2013年、最初の商品が市場にお目見えしたのは14年である。売上高は非公表なのだがメディアによる推定値は一昨年の時点で1億500万ドル(約115億円、前年比65.9%増)なので、わずか4年間で1億ドルを超えたことになる。昨年3月には1億ドルの資金調達に成功、このときの企業評価額は12億ドル(1320億円)でユニコーン企業リストに仲間入りを果たした。

 ユニコーンとは投資業界用語で、企業評価額が10億ドル以上(約1100億円)、創業10年以内で未上場のスタートアップ企業のことを言う。参考までに昨年はグローバルで430社がこの基準に適合しており、私がリストをチェックする限りアメリカ212社、中国151社で、2国で90%以上を占め、一方、日本には3社しかいない。日本経済の弱体化を垣間見るようなリストといえるのではないか。

 17年にニューヨーク、翌18年にはロサンゼルスに店舗をオープン、今のところ店舗はこの2店舗までで、あとは短期間営業のポップアップストアを活用している。ノードストロム(NORDSTROM)が新興ブランドを積極的に導入しようとしていることは前回書いたが、グロシエにもアプローチして昨年末の歳末に7店舗でポップアップストアを展開している。とうとうノードストロムという巨艦も無視できないブランドになったと騒がれたものである。

 NY1号店に一昨年末に訪問したときのことだ。繁盛しすぎて入場制限をしていたのだが、並んでいたら前後の女の子たちが「待ちきれない!」と騒いでいたのを目の当たりにしたのであった。さらにファザードを写真に撮り大学生の娘2人に送ったところ即座に買い物リクエストが返信されて、このブランドが若年層に強烈に支持されていることを実感するという経験をしたのであった。

 長くなるので省くが店のデザインもよく考えられている。ワクワク感、カワイイ!感、などなど仕掛けが随所にあり、ブランドイメージを店頭で表現することに成功している。

 創業したエミリー・ワイズ(Emily Weiss)はまだ30代前半で、若い女性起業家という意味でも大きな注目を浴びている。エステー・ローダー(Estée Lauder)やボビィ・ブラウン(Bobbi Brown)といったビューティ業界で大成功した女性たちと重ね合わせて、次世代の女性経営者という言い方をするメディアすら出てきているほどだ。この前世代の創業者達は当然のことながら時代にマッチした商品を開発しマスに受け入れられて、それを普及させるツールが口コミや紙メディアだったわけだが、これをSNSというデジタルツールに置き換えて成功したのが、グロシエが代表する新世代と言うことができるだろう。

 エミリー・ワイズは大学時代からファッション系の仕事をしていて、卒業後は「Wマガジン(W MAGAZINE)」と「ヴォーグ(VOGUE)」でアシスタントとして働いている。その傍らはじめたのが女性のコスメや肌の手入れといったビューティのルーチンを紹介するブログで、著名人のバスルームの中にまで入っていって洗面台やキャビネットの写真付きで記事を書き、これがウケて1カ月に1000万ページビューを超えるようになり(平均は135万ページビュー)、ここから自ら商品を開発し売るという道へと入っていった。

 つまりブロガー、またはインフルエンサーの手によるブランドなのである。

 マーケティングもデジタルしか使わない。フェイスブックのライク数は30万、インスタグラムのフォロワー数は256万。スラックにフォロワーを誘い、商品とブランドに関するフィードバックを参加者と共有し、さらにディスカッションを重ねて、新商品開発に生かすということまでしている。インスタグラムの自己紹介には「People-powered beauty ecosystem」と書かれている。「お客が作るビューティエコシステム」、会社とフォロワーが情報を共有し議論しフォロワーの意見が商品になるというループということを言っている。SNSを介したお客との距離感の近さがこの企業の原動力となっているのである。

大手コングロマリット入りか、上場で独立維持か

 世界のビューティ業界は大手7社がコングロマリットとして支配している。ここ数カ月でいえば、資生堂がD2Cのドランク・エレファント(DRUNK ELEPHANT)を買収し、コティ(COTY)がインフルエンサーブランドのカイリー・コスメティックス(KYLIE COSMETICS)を買収したが、このように大手メーカーは新興ブランドを買収してポートフォリオに組み込んでしまうのが常道となっている。自社で開発できない、開発しても若年層にアピールできない等々のハードルがあるので、買収してしまう方が早いからである。買収される方も投資企業が出口戦略としてそれを求めているという理由もある。

 ユニコーンの仲間入りしたグロシエには年内に上場かといううわさが出ているのだが、果たしてどうだろう。このまま独立企業として突き進むのか、はたまた大企業に取り込まれるという良くある道を選択するのか、注目が集まっている。

鈴木敏仁(すずき・としひと):東京都北区生まれ、早大法学部卒、西武百貨店を経て渡米、在米年数は30年以上。業界メディアへの執筆、流通企業やメーカーによる米国視察の企画、セミナー講演が主要業務。年間のべ店舗訪問数は600店舗超、製配販にわたる幅広い業界知識と現場の事実に基づいた分析による情報提供がモットー

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