「人工構造タンパク質研究なら鶴岡だ!」――山形県鶴岡市を拠点にするスタートアップ企業スパイバーは、人工構造タンパク質の分野において地球規模でその名を知られるようになった。すでに世界各国から優秀な研究者が鶴岡に集まってきており、研究開発のスピードも加速している。18年に、「健康的な地球と人類の共存関係の実現に貢献したい」との思いから同社に入社した台湾出身のチャン・ユンシャン(Yun-Hsiang Chang)さん、通称ユンさんもその一人だ。
ユンさんは、医学系なら台湾で最も有名でレベルが高いといわれている国立陽明大学で生命科学部と生物医学工程部の2分野の学位を取得した。しかも4年で2分野を取ったという。その後、アラブ首長国連邦の首都アブダビにある再生可能エネルギー関連の研究機関マスダール工科大学(現:Khalifa University)で、材料科学工程修士研究を続けながら助手エンジニアとして勤務した。
そして彼は、鶴岡にやってきた。ユンさんに、スパイバーに入社した理由や研究内容について聞いた。
WWD:なぜスナイバーに入社したのか?
チャン・ユンシャン(以下、チャン):大学時代は老化遺伝子、細胞周期と肝臓がん関連医療の分野を学び、その後、アラブ首長国連邦のアブダビでサステナビリティについて学んだ。そこでは、再生可能資源や材料のいろんな可能性を探っていた。材料の研究を進める中で、新しい材料としてタンパク質に出合った。人工構造タンパク質は、アパレルに限らず、医療分野などさまざまな分野で新しい材料として使えるのではないか思い、それでスパイバーに来た。
WWD:実際来てみてどうだったか?
チャン:面白い。まず入社して取り組んだのは、パイロットプラントやタイの新工場における生産プロセスの最適化だった。もともと勉強していた分野とは異なる研究だが、分析などの過去の経験が生きたと思う。
WWD:異なるものを扱っているのに、過去の経験が生きていると。
チャン:そう。考え方もつながったと感じている。大学時代はがんの研究をしていて、動物実験もしていた。動物実験は動物倫理の観点からみるとよくないこと。そこから、素材への興味がわき、サステナビリティに関心を持ち始めたからつながっていると思う。
WWD:スパイバーは東京ではなく、自然豊かな鶴岡にある。
チャン:アブダビは砂漠の真ん中だった。真夏は45℃にもなる灼熱の砂漠から日本の田園と、環境は極端に変わったわけだけど、僕自身、そんなに変わったとは感じていない。鶴岡はアラブより暮らしやすいかな。アブダビでの食事はインド系やパキスタン系、アラブ系で、おいしいはおいしいんだけど、毎日食べるとさすがに辛くなってくる。日本食は台湾料理とかなり近いから、慣れやすい。
WWD:アブダビという選択もユニークだ。
チャン:実はアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)に行きたかったのだけど、お金がかかるし、両親に迷惑をかけたくなかった。だから、MITの修士と提携しているマスダール工科大学に行こうと決めた。この大学は、学費はないしアラブ首長国連邦からの金銭的な支援もあった。アラブ首長国連邦は化石燃料が豊富で豊かな国だけどいつかそれも尽きる。豊かだからこそサステナビリティの研究に力を入れていて進んでいる。
WWD:今は何を研究している?
チャン:人工構造タンパク質の新規用途の開発をしている。医療や三井住友建築の建築資材の可能性を模索している。自由に研究できるし、研究環境などの支援もあるから楽しい。あ、入社したときに時給を自分で決めると知ってびっくりしたよ(笑)。